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やさしい子  作者: こめい
12/26

捕虜

明遠の部隊は、山道で一人の日東兵を捕らえた。


若い通信兵だった。


味方とはぐれたらしく、脚に傷を負って歩けなくなっていた。銃は持っておらず、胸に書類の入った革鞄を抱えていた。


呉大成たちは、捕虜を廃屋へ連れ込んだ。


「敵部隊の位置を聞き出す」


呉はそう言った。


だが、誰も日東国の言葉を話せなかった。


捕虜も華嶺国の言葉を理解できない。


呉は地図を広げ、捕虜の顔の前へ突き出した。日東軍の位置を指せと身振りで命じた。


捕虜は首を振った。


呉は捕虜の顔を殴った。


「話せ」


捕虜は再び首を振った。


呉はもう一度殴った。


周囲の兵士たちは笑いながら見ていた。


「やめろ」


明遠が言った。


呉が振り返った。


「何だ?」


「言葉が通じていない。殴っても何も分からない」


「なら、通じるまで殴る」


「意味がない」


「趙俊を殺した連中にも、同じことが言えるのか」


明遠は黙った。


呉は捕虜の髪をつかみ、顔を上げさせた。


「よく見ろ。こいつの仲間が趙俊を殺した」


捕虜の鼻から血が流れていた。


怯えた目が明遠を見る。


清江の森で見た日東兵とは別人だった。それでも、同じ軍服を着ている。


明遠の胸元には、小蓮の髪があった。


「お前もやれ」


呉が明遠に命じた。


「俺は尋問のやり方を知らない」


「殴るだけだ。簡単だろう」


明遠は動かなかった。


「まさか、敵がかわいそうなのか?」


周囲から笑い声が起きた。


「弟の前でも同じことが言えるか? 日東兵がお前の家へ入り、母親を殴り、弟を殺そうとしていても、水を飲ませてやるのか?」


その言葉を聞いた瞬間、明遠は捕虜の胸ぐらをつかんだ。


拳を振り上げる。


捕虜が何かを叫んだ。


短い言葉だった。


「ハハ」


そう聞こえた。


意味は分からなかった。


だが、捕虜が何を呼んだのか、明遠には分かった。


拳が止まった。


母親を呼んでいる。


自分も死ぬ瞬間には、同じように母を呼ぶかもしれない。


「どうした。やれ」


呉が言った。


明遠は拳を下ろそうとした。


そのとき、誰かが小さく笑った。


臆病者を見るような笑いだった。


明遠は捕虜の顔を殴った。


一度だけだった。


捕虜は床へ倒れた。


その場にいた兵士たちが歓声を上げた。


呉は満足そうに明遠の肩を叩いた。


「それでいい」


明遠は自分の拳を見た。


血がついていた。


趙俊の仇を討ったはずなのに、何の喜びもなかった。


捕虜は床にうずくまり、同じ言葉を繰り返していた。


「ハハ……ハハ……」


明遠はそれ以上、その声を聞いていられなかった。


外へ出ると、雪が降っていた。


手についた血を雪で洗った。


何度こすっても、血の色が残っているように見えた。


背後の廃屋から、再び殴る音が聞こえた。


明遠は止めに戻らなかった。

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