第八話 王の食卓
オウの宮殿では、魚が七皿並んでいた。
そのうち五皿は、キーツの国の海域で獲られたものだ。
密約によって漁業権が譲られていた。
もちろん国民には知らされていない。
キーツは長い食卓の端に座っていた。
オウは正面を見ず、魚の骨を外していた。
「港をもう一つ渡せ」
「あれ以上は無理や」
「無理かどうかを決めるのは、おまえではない」
「国内が騒いどる」
「押さえればいい」
オウはようやく顔を上げた。
「おまえは、そのために首相になったのだろう」
キーツの指が震えた。
右脚の人工関節から、かすかな警告音がした。
長年の酷使で部品が劣化していた。
イシは交換を勧めていたが、キーツは拒んだ。
弱っていると知られたくなかった。
「うちの国は、あんたの属国やない」
「そうか」
オウは不敵に笑った。
「では、宗教団体から受け取った資金記録を公開してもよいのだな」
キーツは黙った。
キョウソがオウへ渡した資料だった。
キーツを従わせるための首輪として。
「ふん、やつらがどれほどたかろうとも、私の国家には手を出せない。」
オウは窓の外を見た。
宮殿の門前では、キーツの国から来た漁民たちが抗議していた。
自分たちの海を返せと叫んでいた。
オウにとって、それは虫の声と同じだった。
会談後、キーツはキョウソへ詰め寄った。
「なんで、あいつが資料を持っとるんや」
「外交には保険が必要だ」
「保険?」
「おまえが間違った判断をしないためのものだ」
「あたしを売ったんか」
キョウソの顔が険しくなった。
「いったいなにをしている!」
机が叩かれた。
「せっかく組織をとりわけてやったのに、この無能が!」
キーツは息を止めた。
子どもの頃から、その声を聞くと身体が固まった。
人工の脚ではなく、残された肉のほうが震えた。
「国内一つ押さえられず、他国に弱みを見せる。
おまえには何を与えたと思っている」
「あたしは首相や」
「私が首相にした」
「ちゃう。あたしが上がったんや」
キョウソは鼻で笑った。
「あの孤児院から、おまえ一人で出られたと思うか」
キーツは何も言えなかった。
その夜、彼女は初めて、キョウソに取って代わることをはっきりと考えた。
いつか組織も、金も、人間も、すべて自分のものにする。
おかあさんがいなくても、自分はてっぺんに立てると証明する。
だが、その決意さえ、キョウソが植え付けた権力への執着から生まれたものだった。
宮殿を出ると、コクドが車のそばに立っていた。
彼は会談中も一言も話さなかった。
「聞いとったんか」
コクドは答えなかった。
「おかあさんは、あたしを道具や思っとる」
沈黙。
「でも最後に勝つのは、あたしや」
コクドはキーツを見た。
その目に初めて、何かがあった。
同情ではなかった。
怒りでもなかった。
長い間、確認し続けていた答えを、ようやく見つけた者の目だった。




