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亀裂  作者: きじの美猫


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6/11

第六話 門の外

タヌアは演説が好きだった。

意味よりも響きを重んじた。

自治都市の新しい交流会館が完成した日、彼女は得意の外国語を交えながら一時間話した。


会館の建設費は、当初予算の四倍に膨らんでいた。

施工したのはデズ社だった。

天井からは雨漏りがし、空調設備は動かない箇所があっても

それでも壇上の幕だけは豪華だった。

「国際的視野を持つ指導者が、これからの自治都市には必要なのだわ」

タヌアは胸を張った。


聴衆の後ろで、二人の市民が小声で話した。

「まあ外国で学院にいたって言っても、ただの見学者なんだけどね。」

「キバク(献金)がよほどほしいらしい。」

「ふたりとも同じようなもんでしょ」

もうひとりはキーツのことらしい。


「私は少なくとも語学はできる。

門前で待ち伏せしていただけの使い走りとは違うのだ。」

タヌアはキーツが嫌いだった。

学歴を金で買い、あたかも海外の学院へ通っていたかのような工作をしたと聞いていた。

拍手の音に紛れて、笑いが起きた。

タヌアは聞こえないふりをした。


式典後、記者がデズ社との契約について尋ねた。

入札に参加した企業が、なぜすべて途中で辞退したのか。

デズ社だけが、なぜ事前に設計図を知っていたのか。

タヌアは鉄仮面のような表情を崩さなかった。

「専門家と精査を重ねた結果でございます」

質問への答えにはなっていない。

だが翌日の新聞には、タヌアが記者を論破したと書かれた。


デズ社は宗教団体へも多額の献金をしていた。

宗教団体はその金でキーツ派の選挙を支援する。

中央政府は自治都市へ補助金を出した。

補助金はデズ社へ流れ、一部が献金として戻った。

金は円を描いて動き続ける。

円の中にいる者は豊かになり、外にいる者の税金が浪費されていく。


学校の屋根は修理されなかった。

診療所は閉鎖された。

水道管が破裂しても、半年間放置された。

それでも交流会館の正面には、毎晩明かりがついた。

使われていない建物が、都市で最も明るかった。

多くの批判がでてもタヌアは取り合わなかった。

デズ社の広告が毎夜、煌々と誰も見ない夜を彩った。


同じ年、ムクルの集団が自治都市へ入ってきた。

国境審査は簡略化されている。

キョウソの関連団体が移送費を負担し、空き地へ仮設住居を建てた。

最初に来た者たちはなにも持たなかった。

国を持たず、あちこちから追われ、だれからも援助されない。

市民は毛布と食料を渡した。

だが、それが偽装だと発覚するのにさほど時間はかからなかった。


その後も人々は増え続けた。

仕事も住居も足りなくなった。

政府は何も準備していなかった。

ただやたらと招き入れただけだった。

混乱の中で、犯罪組織が生まれた。

彼らは自分たちの宗教を持ち込み、まわりに集会への参加を求めた。


難民はひとりもいなかった。

すべて乗っ取るためにやってきた偽装難民なのだ。

市場で店を営む老人が、ムクルの若者に商品の代金を求めた。

若者は笑った。

「なにをしたってあげられるこたあねえ。やりたい放題だ。」

警察は来なかった。

通報記録だけが残った。


翌日、別のムクルの女が店を訪れた。

盗まれた分の代金を置き、深く頭を下げた。

「みんなが、ああではありません」

老人は答えなかった。


何が正しく、誰を責めればいいのかわからなかった。

女も被害者だった。

老人も被害者だった。

犯罪者は確かにいた。

だが、制度を壊し、対立が起きるように人々を流し込んだ者たちは、

交流会館の上階で酒を飲んでいた。


市民はムクルを恐れた。

ムクルは市民を憎んだ。

タヌアは治安対策のため、さらにデズ社へ監視設備を発注した。

監視装置は市場ではなく、市民団体の事務所へ向けられた。

その見返りに巨額のキバク(献金)が動いたことは言うまでもない。

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