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美柑編「決着」

 練は美柑をお姫様抱っこした状態で飛び上がり、空を飛んだ。

 魔人は、手傷を追っているからか長距離ジャンプをせずに路地をジグザグに移動し撒こうとしている。

 だが、練が仕込んだスマホと空から俯瞰して見下ろせる環境は魔人の発見を容易にした。

 魔人は、電柱の陰に隠れながら自身に治癒魔法を施していた。


「あれだけのスペックを持つ魔人。そうそういないだろうな」


「ええ、そうね」


 美柑は練の首に手を回した状態でそう答える。


「どうする、目の前に降りるか?」


「本当は奇襲したいけど、仕方ないわね。

 そうしてもらえるかしら」


 美柑はそう言い、練は魔人の元へ降下した。

 降下する際の風を感じてか魔人もこちらに気が付いた。

 だが、逃げようとはしなかった。

 美柑を地上へと降ろした練は美柑へ状況を伝える。


「一気にカタを付けよう。出し惜しみは無しだ。

 それでダメなら、後続の隊員に任せよう」


「ええ、そうするわ。

 この一撃にすべてを乗せて」


 そう言うと、抜剣し魔人へと向き合った。


「死ぬなよ」


 練はそれだけ言うと再び空へと舞い上がった。

 そして、インカムで現在位置を伝え、応援が来られるようにした。

 眼下では、美柑が魔人に向かって一気に距離を詰め、鋭い一撃を放っていた。

 衝撃は空にいる練にまで響いてきており、一撃の精度と威力が見るからに変わっていた。

 右腕で受け止めた魔人だったが、一撃の重さに立ってはいられず、二、三歩後ずさりした後、片膝をついてなんとか一撃を受け止め切った。


 さらに力を込めて押し切ろうとする美柑。


 だが、魔人も狡猾だった。

 膝をついている右足に体重を乗せて、左足で前のめりになるように足払いをかけた。

 前のめりになり力を込めていた美柑は足元を掬われた。

 短い悲鳴を上げて、バランスを崩し、その場で前のめりにこけた。


 地面へ倒れた美柑へ、魔人はご自慢の右手の爪を使って突きを繰り出そうと振りかぶり、突きを放った。

 練は上空から急降下し、魔人の後頭部めがけて杖をフルスイングしようとする。

 だが、間に合わない。

 そう直感した。


「鳴海!」


 そう叫んだ。

 美柑は起き上がらずに地面を転がり仰向けになると防御魔法陣を展開しなんとかガードしようとした。

 だが、元々経験が浅い上に、魔法特化の教育を受けていない美柑の防御魔法陣は紙のように貫かれ、魔人の爪は美柑の胸へと吸い込まれていった。


 甲高い衝突音が鳴り響いた。


 そして、ワンテンポ遅れて練が魔人に物理的な一撃を与える。


 渾身の振り下ろしスイングで、魔人は数メートル吹っ飛び近くの壁に激突した。

 衝撃でコンクリートの壁が崩れ魔人はそれの下敷きになった。


 それを見てから、すぐに美柑の方を見た。

 胸にまともに一撃を貰っていた。

 今すぐ治癒しないと失血死する。


「鳴海! 大丈夫か!」


 そう焦り、美柑の方を見たが、美柑は何事もなかったかのように起き上がった。


「な、鳴海?」


「大丈夫、まだやれるわ」


「でも、胸を突かれていただろ」


 そう言うと、鳴海は胸に目を落としながらこう答えた。


「何故か貫通しなかったの。まるで胸に固い鉄板を入れて、それに対して突きを貰った。

 って感じの感触はあったけどね。これもリンクの効果、なのかしらね」 


 そう言うと制服を引っ張った。

 制服には穴が開いているが、出血はしていない。


「びっくりさせるなよ……」


 そう言い胸をなでおろした練。

 だったが、コンクリートが崩れる音で意識がそっちに向く。

 見ると、魔人がコンクリートをどかして這い出てきた。

 頭からは血を流して顔が真っ赤に染まっている。

 膝に手を突きながら、こちらを見ていた。


 練はすぐさま土の塊を矢のような形で発生させると、それらを魔人へ向かって放った。

 魔人は右手の爪を振るい何発かははたき落されるも、動きが緩慢ですべてを防ぎきれなかった。


 何発かが魔人に刺さる。

 魔人は叫び声ともとれる金切り声を上げた。

 それと同時に、美柑が飛び出した。

 風魔法で一気に距離を詰めて一撃を放つ。

 それを、跳躍して回避しようとする。

 だが、魔人は動かなかった。

 動けなかった。

 先ほど着弾した矢の内地面に着弾した土の塊が、魔人の足を固めていた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」


 雄たけびを上げながら、美柑は魔人へ向かって左肩から袈裟切りになるように剣を振り下ろした。

 魔人は、足に気を取られたせいで硬質化している右腕を出せず咄嗟に硬質化していない左腕を出した。

 美柑は、その左腕ごと魔人へ一撃を与えた。


 左手が宙を舞い、左肩からバッサリと一撃が入った。


 だが、魔人はそれでも動いた。

 右腕を振るい、美柑へ突きを放った。

 その一撃は、後ろにバックステップを踏んで回避した。

 左手が地面に落ち、斬られた断面からは血が噴き出していた。


「ふdすdあぬうぇああああああああああああああ!! 」


 叫び声をあげる魔人。

 これで、終わりかと思った練だったが、魔人は次の行動に出た。

 足元に魔法陣を発現させた。


「自爆する気か!? 」


 咄嗟に美柑の前に出て防御魔法陣を展開する。

 すると、魔人の足元にひびが入りだす。

 ひびはやがて大きくなり、魔人の足元のコンクリートは細かく砕ける。

 そして、魔人は次に中腰になり足に魔力を集めだす。


「マズイ、飛ぶぞ! 」


 練は咄嗟にそう叫んだ。

 美柑は、防御魔法陣から飛び出して、斬りかかった。

 だが、寸でのところで、魔人は跳躍し魔人は宙を舞った。


(逃げられる!)


 美柑はともかく、練は飛行魔法の連続使用で消耗していた。

 これ以上戦闘を続けられるか試したことがなかったのでわからなかった。

 だんだんと小さくなっていく魔人を見送ることしかできない。

 そう、思った時だった。

 魔人の跳躍していた姿勢が急に崩れ、地面に向かって堕ちて行った。

 同時にインカムから声がした。


「こちら見回り四班。遅くなり申し訳ありません。

 現場付近に到着直後に魔人と思われる人影を狙撃しました。

 六班、現場を確認できますか?」


 と、声がした。


「了解、見てきます」


 そう言い美柑を再びお姫様抱っこし空を飛んだ。


 空から人影を見つけ降りると、魔人が壁を背に座り込んでいた。

 右足はちぎれそうなくらい損壊しており骨も見えている。

 足もまともに使えないだろう。


「トドメは任せたぞ、相棒」


 そう言い、美柑を地面へと降ろした。

 美柑は、剣を抜きながら魔人へと歩み寄った。

 そして、上段に剣を構え制止した。

 しばらく、沈黙が流れた。

 美柑の顔は見えなかったが、背中からはこれで終わらせるといった執念のようなものが見える。


 そして、美柑は動いた。

 上段からの振り下ろし。

 魔人は、最後の抵抗か体を動かして右腕を突き出した。

 だが、その一撃は美柑には届かなかった。


 むしろ、それを待っていたように右腕に一刀を叩き込み斬った。

 右腕がポトリと音を立てて地面へと落ちた。


 同時に、魔人の首が宙を舞った。


「こちら六班、魔人一体、討伐完了しました。

 回収と後処理、お願いします」


 練は無線でそう報告し、美柑の元へ歩み寄った。

 美柑は、首がなくなった魔人の前に立ちつくし、動かないでいた。


「終わったな。お疲れ様」


 そう声をかけた。


「春場君」


「どうした?」


「終わったんだよね。私の復讐は」


「それを決めるのはお前だろ。

 だが、お前の両親の仇は取れた。

 それが、今の現実だ」


 そう言うと、しばらくの間無言が流れた。

 そして美柑はぽつりと「少し、動かないでね」と言い、練に飛びついた。


「お、おい」

 困惑する練をよそに美柑は、無言で、ひっそりと感情を押し殺すように泣き始めた。

 最初は、どうすればいいかわからなかったが、しばらく胸を貸すことにした。

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