美柑編「魔法少女のためにキスします」
二人は地図アプリを見ながら連絡が取れなくなったペアの位置へと向かっていた。
ただ、近づくにつれ静かなことが不気味だった。
既に撃破した後なら連絡が来るだろう。
となると、考えられるのは一つ。
嫌な予感を胸に二人は現場へと急いだ。
***
現場に着いた二人が目撃したのは3人の倒れた人影。
そして、今まさに吸血している最中の魔人と血を吸われている魔法師だった。
いち早く反応したのは美柑だった。
すぐさま抜剣し、魔人へ突っ込んでいった。
が、魔人の反応も速かった。
突っ込んできた美柑に対し吸血していた魔法師を美柑へと投げつける。
美柑はそれを避けることができず、魔法師と正面からぶつかった。
美柑を下に折り重なるように倒れてしまう。
身動きが取れない美柑に対し、魔人が美柑へ向かって駆け出した。
手は、先が細長い針のような爪をしている。
上に折り重なった魔法師ごと串刺しにしようとしているのだろう。
美柑は、起き上がろうとするが魔法師を体からどけるので精いっぱいで迎撃の体制が取れないでいた。
しかし、魔人は突如突進を止めバックステップを踏んだ。
直後、その地点には細長い氷柱が複数本突き刺さった。
魔人が唸り声をあげながら見上げる先には、浮遊している練がいた。
「無事か! 」
インカムで美柑にそう呼びかけると、美柑は「大丈夫」と返してきた。
美柑は立ち上がり、練も美柑の横へと降り立つ。
「奴だな」
「ええ」
目の前にいる、個体は見たことがある。
中学校で、そして見回りで、戦闘をしているから流石に練も覚えている。
目の前のロン毛で手の爪を自由自在に操れる魔人。
そう、美柑の因縁の相手だ。
前の美柑であれば、ここで暴走しかねない所だが、今は冷静でいてくれている。
「俺は、報告とこの人たちを一旦安全な場所へ運ぶ。
その間、時間稼ぎしてくれ」
そう言うと練は、足元で倒れている魔法師をお姫様抱っこで抱きかかえる。
「わかったわ」
美柑も、冷静にそう返した。
「簡単にやられるなよ、相棒」
そう言うと、練は風魔法でホバーしながら魔法師を連れて離れる。
「分かってるわよ……。大丈夫」
美柑は自分にそう言い聞かせるようにしながら手に持つ剣をぎゅっと握りしめた。
そして、大きく息を吸い、吐き出して呼吸を整えてから、風魔法で再び距離を詰め突進した。
***
練は、美柑の戦闘を横目で見ながら、倒れている人を路地一本だけ挟んだ通りへと運んだ。
倒れていた、一般人はケガは無さそうだったが、魔法師ペアの二人は重傷だった。
血を吸われていた魔法師は、失血がひどいのか顔色が悪い。
だが、もう片方は頭とお腹から血を流していた。
頭は切っただけのようだが、お腹は刺し傷があった。
おそらく、前衛で先にやられてしまったのだろう。
「すみません」
練は聞こえていないであろう魔法師に向かってそう呟くと迷わずキスをする。
すると、傷を受けた個所が発光し、やがて傷が塞がっていく。
傷がしっかり塞がっているのを確認した後、練は本部へ通信を行った。
「こちら見回り六班」
「見回り六班、どうぞ」
「魔人発見、先着していたペアは戦闘不能。現在、戦闘中です」
「了解しました。付近のペアに応援を要請します。
時間は稼げますか? 」
「やってみます」
そう言うと、練は風魔法で飛翔した。
飛翔すると、眼下で美柑と魔人が戦っていた。
「鳴海、隙は作れるか」
そうインカムで、質問する。
そして、帰ってきた答えは
「なんとかしてみる」
だった。
打ち合いの激しい音が静まり返った住宅街に響き渡る。
空からそれを見守る練。
以前対戦した時、美柑は明らかに打ち負けていた。
だが、今はかろうじて打ち返せている状態だ。
これなら、以前よりは勝負になっている。
そう思いながら、練は様子を見守りながらいつでも発射できるように、氷柱を生成しスタンバイする。
そして、その時が来た。
魔人の突きを剣で軌道をそらして回避し、懐にもぐりこんだ。
そこへ渾身の膝蹴りを入れた。
が、効果は薄く、固いものへ、なにかをぶつけたような打撃音と共に二、三歩後ろへよろめいただけであった。
そこへ追撃として上段から一刀両断するような一撃を加える。
それを、右腕で受け止める。
どうやら、爪だけでなく、腕自体が硬質化しているようだった。
が、ダメージは与えられずとも、その威力に押され、さらに後ろへ数歩下がった。
さすがの魔人も、押されっぱなしはマズいと感じたのか、大きく腕を振るい、美柑にバックステップを踏ませた。
そして、バックステップを踏んだ美柑へ向けて突撃しようとしたその時、氷柱の雨が魔人を襲った。
コンクリートの破片が飛び散り、砂埃が舞う。
砂埃が霧散すると、魔人が立っている。
(固いな……)
不意打ちからの一撃。
今の一撃は殺しに行った一撃だった。だが、殺しきれなかった。
それでも、練の最初の反応は冷静だった。
魔人には手傷は負わせた。
足や胴などに数か所血が滲んでいるところがある。
(ダメージは入ってる。少しづつ追いつめていけばいい)
そう思い、練は再び氷柱を生成する。
魔人は動こうとしなかった。
ただ、空を見上げ練を見ていた。
そこへ、隙アリと言わんばかりに美柑が剣を下段から振り上げる。
だが、それはひらりと躱されてしまう。
そして、後ろへと駆け出した。
「逃がすかよ」
練は進行方向に先回りするように飛び、魔人の足が止まるように氷柱を放った。
氷柱は地面に激突し、魔人の足も止まる。
そこへ、追いついた美柑が上段から一撃を加える。
魔人は、身を翻し右腕で剣を受け止めた。
「くそっ」
なかなか決め手に欠ける状況で美柑は焦っていた。
逃げられるのは一番の悪手。かと言って、他のペアに横取りされたくない。
この魔人は私が倒す。その気で動いていた。
その荒々しさは剣にも表れていた。
つばぜり合いの状態から蹴りを入れ二、三歩分の間合いを作り、剣を立てて突きを放つ。
だが、右手の爪の部分で絡めとられてしまい剣は届かなかった。
そして、そのまま剣を掴まれて身動きが取れなくなった。
すると、魔人は左手を握ったり開いたりしだした。
その手は、普通の手だったが、形が変わっていき、右手と同じような鋭くて長い爪を持つ手になった。
左手で突きを放つ、魔人。
咄嗟に美柑は剣から手を放し、風魔法で後ろに数メートル跳躍した。
だが、魔人は逆に間合いを詰め、美柑へ突きを放とうとした。
美柑は、跳躍した直後で後ろのめりになっており、再度跳躍できない。
(しまった!)
美柑の目には、ゆっくりとこちらへ向かってくる禍々し爪が見えた。
「鳴海ぃぃぃいいいいいいいい!!!」
練がそう叫びながら、空から急降下してくると魔人に向かって体当たりを敢行した。
魔人も上から降りてくるとは予想しておらず、警戒していなかったのか反応できていなかった。
魔人の胴へ向かってタックルするように突っ込んだ練は、そのまま横のコンクリート壁に突っ込んだ。
激しい衝突音が鳴り響いた。
コンクリート壁にひびが入り、魔人は壁にもたれかかるように座り込み、練は魔人の腰をホールドした格好になっている。
互いに頭を打った衝撃か、数秒は動かなかった。
ここで、美柑はハッとして落ちている剣を拾いに走った。
このまま、動かなければトドメをさせる絶好の機会だ。
落ちていた剣を持ち振り返る。
だが、美柑がそこ見たのは練に向かって長い爪で突きを放っている魔人。
そして、足に爪を刺されながらも間一髪、フライ魔法で距離を取った練だった。
「がああああああああ。くそっ…………」
突かれた太ももを押さえながら、痛みに耐える練。
杖を構えて、再度の突撃に備えている。
その間に美柑は割って入った。
練の前に立ち庇うように。
すると魔人は、再び身を翻し走り出した。
角を曲がり、撒こうとしていた。
それを見た美柑は、練の方へ駆け寄ってきた。
練は驚いたようにこう問いかけた。
「追わなくていいのか?」
それに対して美柑は「私ひとりじゃ、多分勝てない。悔しいけど今日はここまでね」
と言い、座り込んでいた練の目の前にしゃがんだ。
「足、大丈夫?」
と、ふとももを刺されているのを気遣ってくれた。
だが、練はまだやる気で 「大丈夫じゃない。けど、まだ終わってない。追うよ」と美柑に言った。
「何言ってるの?その足で来られても足手まといになるだけだよ?」
美柑は呆れたようにそう返す。
「俺は最悪飛べばいい。それより奴にタックルした時にポケットにスマホを入れた。
鳴海のスマホから今の位置情報が見れるだろ。追うぞ」
美柑は、その言葉を聞いて顔が再び戦闘モードになった。
「だが、追う前に試したいことがある。鳴海、悪いがこっちを向いてくれ」
「いいけど……」
と、練の方を向いた。
互いに見つめあう。
「先に謝っておく。すまん」
そう言うと、練は両手を美柑の頬に添えた。
「えっ。なにす」
その言葉の続きを聞く前に、練は美柑の唇を奪った。
練の治癒魔法は、かけられる側が傷を負っている状態でキスをすれば自動で治癒が始まる。
だが、練自身の傷は治せない。
つまり、治癒目的のキスではない。
この行動に反射的に、美柑は練の胸を押し唇を離そうとした。
だが、両手で顔を押さえられている状態で逃げられるはずもなかった。
最初は抵抗しようとしていた美柑。
だが、練と美柑の身にある変化が起きていた。
唇を通し、互いの魔力が通っていく感覚が伝わってきたのだ。
それは、美柑にとって不思議な感覚で不思議と嫌な感覚ではなかった。
互いの魔力が十分にいきわたったと思った練は唇を離した。
「どうだ、わかるか?」
練の第一声は、美柑に共感を求める内容だった。
「初めてだから、よくわからない……けど、さっきとは違う。やれそうな気がする」
美柑は、自身に満ち溢れた様子でそう答えた。
***
「本当かい? それは?」
新入生歓迎大会が終わってしばらくした後、佐城先輩を屋上へ呼び出して練はあることを相談していた。
「はい、俺の力も上がったように感じましたが、何より打ち負けていた鳴海が形勢逆転していたのを見て思ったんです」
練は話を続けた。
「佐城先輩は、検査で分かった相性のいい子とペアを組みリンク状態になれると聞いています。
これってどうなんですかね?」
練の質問に佐城先輩は悩みながらもひねり出す。
「リンク状態とは、互いの魔力を交換することで互いの秘めたる力を引き出す現象のことだ。
つまるところ、魔力の交換で刺激さえできてしまえば、リンク状態にはなれる」
佐城先輩は、悩みながらも考察を続けた。
「だが、それには色々な前準備がいるんだ。一番は互いへの信頼関係。
お互いが信じ切っていないと魔力を受け渡しと言うのができないんだよ」
「そうですよね」
「けど、君が言っていたキスをした時感じたこと。そして鳴海さんが直後に押し負けていた相手に勝った。
これらを総合すると、君たちはすでにリンク状態になれる可能性はあるね。なんでかは分からないけど」
不思議そうな顔をしながら佐城先輩はそう答える。
「これはあくまで仮説の一つとして聞いてほしいんだが、君は唯一の男性で魔法が使える人物だ。
通常とは違うメカニズムでリンク状態になれるかもしれない。
極端なことを言ってしまえば、全魔法使いと簡単にリンク状態になれる可能性はあるね」
そう言った。
「マジですか」
「まあ、君たちが本当にリンク状態になれているのかもまだわからないし、試そうにも避妊薬とかの準備がいるからね。
あくまで、試す機会があったらという体で聞いておくれ」
***
あの時、先輩は試す機会があったらと言った。
今回、試してみて確信した。
これなら、あの魔人をやれるかもしれない。と。




