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美柑編「相談」

「なるほどなるほど」


 場所は、校舎脇。

 自販機で飲み物を買い、美柑と練は、佐城先輩に先日起きたことの事の経緯を伝えていた。


「しかし、指定個体相手に二度戦って退けてるのはさすがだね。二人とも」


「どちらも、相手が逃げてくれなければ、こちらがやられている状況でしたけどね」


 賞賛を送ってくれた佐城先輩に対して練はまだまだといった様子で返す。


「確かに。その謙遜は大事だし、事実長期戦をすれば負けていただろうね。

 もっとも、負ける前に他の魔法師が駆け付ける可能性があるから、最終的な勝ち負けはわからないけど」


 先輩はそこまで言うと、ふむ……と、考え込んでいた。


「君たちは先日戦った指定個体をその手で仕留めたい。

 そう考えているんだね」


「はい、そのためにペアも組みました」


 美柑がそう答える。


「悪いことは言わない。これ以上深追いするのはリスクとリターンが釣り合ってないよ」


 そう、先輩は答える。


「わかってます。でも、あの個体だけは私が倒したいんです」


 そう言い、食い下がる美柑。


「先輩、何か現実的なところで案はないでしょうか。

 鳴海はこの調子だと一人でも暴走しかねません。

 俺たちでは持っていない知見で案が欲しいです」


 練はフォローをするも先輩の反応はいまいちだった。


「うーん」


 腕を組み、悩む先輩。


「一応、そこまで固執する意味を一応聞いてもいいかな。

 傍目に見れば死に急いでるのと同義語でね」


 先輩は、そう美柑に話を振る。


「聞いて面白い話でもないですよ」


「そうだろうね。けど、無謀を止めるのも、ペアの指導役の役目でもあると思ってる」


「そこまでの責任はないでしょう? 」


 美柑も若干反抗的に言う。


「普通はね。ただ、技術的なことや精神的な面でのケアは指導役の業務範囲内だ。

 君たちは、現場に出てるとは言え、まだこの学校に入って三カ月もたっていない身。

 半年という、指導役の期間の範囲に入っている以上、責任はあると思ってる」


 先輩はまっすぐそう言うと、こうも言った。


「それに、誰であれ、死なせるのはつらいものだよ。

 そうなってほしくないんだよ」


 先輩はそう言うと壁にもたれかかる。


「じゃあ、聞かせてくれるかな。その理由を」


 ***


「聞いてみてやはりというべきか、予想通り過ぎていやはや……」


 先輩は困り果てた様子でそう呟く。


「魔人に誰かを殺された。という経験をしてこの学校に入ってくる子は少なくない。

 けど、その個体が生き残ってるのは珍しい。

 通常は討伐されてしまうからね」


 先輩は考え事をしながらも、そう話す。


「君たちが置かれている状況は理解した。

 けど、やっぱり私は、これ以上、首を突っ込むのは反対かな」


「そうですか……、ありがとうございました。

 けど、私は諦めませんから」


 美柑はそう吐き捨てるようにいい、その場を去っていった。

 その背中を見送る先輩と練。


「あいつは何が何でもやる気です。

 先輩、何とかなりませんか? 」


 練も先輩に食い下がった。


「一度ならず二度戦って彼我の能力差は分かっているんじゃないのか?

 君も、これ以上、深入りするのはやめた方がいい。

 第一、なぜそこまで肩入れするんだい? 」


 先輩は練の行動に対して疑問を投げかける。


「それは……」


 それに対し、言葉に詰まる練。

 確かに、この件に関して深入りする理由も道理もない。

 かと言って、美柑が申し出た報酬のためでもない。

 では、なぜ正式なペアを組んでまで美柑の復讐に協力するのか。


「正直、なぜかといわれると俺にもわからないです」


 その答えに先輩は大丈夫かこいつといった表情をする。


「ただ、死んでも鳴海は噛り付くことになると思います。

 そんな鳴海をむざむざと見殺しにはできない。

 俺は、鳴海には死んでほしくないと思っています。

 鳴海が生きる可能性のある選択、それが鳴海とペアを組むこと。だと思っています」


 先輩は、壁に体重を預け、練をじっと見つめる。

 練は、どうすればいいのかと思っていたが、ひとまず先輩が話すのを待った。


「自惚れだな。自分がペアを組めば、鳴海さんを死なせないというのは」


 そう話す先輩はどこか遠い目をしているように感じた。


「確かに、自惚れかもしれません。ですが、俺がいれば、いさえすれば致命傷を受けても癒してやれる」

「確かに君の治癒魔法は特別だ。習ったと思うが、君の治癒魔法は通常魔法とは違う。

 神秘と呼ばれる事象の一つだ。それを発現させている一年生は珍しい

 聞いた話だと、おなかに開いた傷すら一瞬で治してしまえるそうじゃないか」


「はい、以前にありましたからね。だからせめて俺がいれば、死なずに済む」


「それが、自惚れだと言っているんだよ。戦闘において傷をすぐに癒せるとしても、その隙は誰が生む?

 そもそも、その隙まで生きている保証もない」


 先輩は、厳しい目で練を見つめる。その目には怒りともとれる怒気をはらんでいた。


「だから、既に一度戦っているなら、無理に背伸びせずに、実力が付くのを待った方がいい。

 私はそう思うのだけれどね」


 先輩は諭すように、そう語る。

 練は少し黙り込む。そして話し出した。


「先輩」


「何かな?」


「俺たちに稽古をしてくれませんか」


「何だって?」


 先輩は思わず聞き返した。

 実力が付くのを待った方がいい。そう言ったばかりのこの発言に、虚を突かれた。


「実力が足りないのであれば、補う努力をすればいい。

 そうすれば、少なくとも死なずに済む可能性は上がる。

 今正式にペアを組んでいる以上、また相まみえる可能性もある。

 だったらせめて、死なない方向に持っていきたいです。どうにかなりませんか」


 そう先輩に提案する練。


 先輩は少し考えた後、こう言った。


「いいけど、できる範囲は限られてるよ? 」


「いえ、十分です! ありがとうございます! 」


 そう言い、深々と頭を下げる練。


「じゃあ、明日の放課後、時間ある? 」


「鳴海にも確認して、連絡します」


「そうしてもらえるかな」


 そう言うと、先輩は缶の飲料を飲み切り、缶をごみ箱に捨てた。


「じゃあ、私も私で準備するよ。

 じゃあね、少年」


 そう言うと、先輩は歩いて行った。


 練もすぐに別方向へ走り出し、美柑の後を追った。

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