プロローグ2「女子高へ進学ってマジっすか」
学校に魔人が襲撃してから、一週間たった。
その間、学校は閉校となった。
錬はその間、病院で検査や、警察と魔法局と呼ばれる場所へ事情聴取に連れ出されていた。
ついでに検査とか言われて魔法局でも検査されたが、何の目的だったのかはわからなかった。
こうしてつかの間の平穏を取り戻したかに見えた。
だがこの一週間の間に、情報収集した情報によると、世界各地で魔人の被害が出ている。
そして、魔法師と呼ばれる存在が、それらと戦い撃退しているということを知った。
錬たちが現場で会った剣や銃を持った女子は国立魔法師高校大阪分校の生徒であることもわかった。
だが、錬の心の中ではある疑念が渦巻いていた。
ついこの間までは、魔法師も、魔人もその影すらない世界で過ごしていた。
だが、ある日ある時を境に、さもそれらがいるのが当たり前の世界になっていた。
自分の頭がおかしくなったのではないかと思い、調べてみれば統合失調症などの精神病名が出てくる。
だが、この一週間余りで起こった事すべてが妄想や幻の類いには見えなかった。
それに、自分の正気を疑っても周りは魔人被害に遭った被害者の後遺症として扱って来ようとする。
この、自分の正気を疑わなければならない恐怖感が、錬を襲っていた。
***
魔人襲来事件から二週間経ってようやく学校が再開された。
俺たちがいた教室は、使用不能で一時的に空き教室に机を並べて授業はいつも通りに行われていた。
ようやく訪れた飽き飽きする日常に錬はなぜか懐かしさすら覚えていた。
そんな授業中に教頭先生が教室に入ってくる。
「先生、すみません。春場くんと山吹さんをお借りしていってもいいですか」
(俺とたえを?)
そう疑問に思いながらも、ついてくるように言われ教室から連れていかれる二人。
「ねえ、魔人事件の事かな」
横を歩くたえがそんなことを言ってくる。
「この組み合わせはそうなんじゃないか。知らないけど」
そう言いながら、廊下を歩いていると校長室の前で教頭先生の足が止まり、部屋をノックしている。
中から、「どうぞー」と声がして戸が開かれる。
教頭先生と練、そしてたえの三人は校長室へと入った。
中には校長先生が座っており、向かいにはかっちりとした制服を着た女性と見覚えのある女子高生が座っていた。
「やあ、少年。また会ったね」
そう声をかけられる。
「あなたは……魔人事件の時の!? 」
魔人事件の際、錬に自己紹介してきた高校生。名前までは覚えてないけど、印象は深く残っている。
「そ、元気そうで何より」
と、返してきてくれる。
「人は集まりましたな。話を始めましょう」
そう、校長先生が言うと、制服を着こなした女性と女子高生が立ち上がり練とたえに握手を求めてきた。
「初めましてお二方。私は、魔法師高校大阪分校の教師をしております、漆原と申します」
二人とも握手をする。
「そして、こちらが魔法師高校在籍の魔法師、佐城彩です」
と、紹介される。
錬は、どうも……と頭を下げる。
「単刀直入に言います。今回、お二人に来ていただいたのは、来年の進学先として魔法師高校大阪分校へ来てもらえないかというお話です」
何これスカウト? といまいち状況を理解できていない練。
開いた口が塞がらないといった様子のたえ。
二者それそれの反応をしていた。
「順を追ってお話しさせていただきますね」
と、ニコリとほほ笑む漆原。
「二人とも、こちらへ座りなさい」
そう校長に諭され、漆原と佐城の対面に座らされる二人。
「まずは、以前私たちの施設に来ていただいた時のことを覚えていますでしょうか」
と、漆原が話し始める。
「あの時、事情聴取とは別で検査をさせていただいたと思います。
その検査というのが魔法師適性を確認する検査でした」
そんなこともあったなーと呑気に考える練。
だが、たえは違った。
「その検査で私たちに魔法師適性があると出たんですか!? 」
そう言うたえは珍しく興奮しているようにも見えた。
「ええ、山吹さんから魔法師適性が出たことは、私たちにとっても非常に喜ばしいことです。
才能ある若者を早期に見つけられたのですから。ただ……」
そう言って、視線が練に集まる。
「え、何ですか……?」
その視線が妙に痛く感じた。
「こちらの佐城からの報告を元に、念のため、春場さんにも同様の検査を実施しました。
結果は同様に魔法師適性があると確認されました」
「え、それが……問題でも?」
そう思わず答えてしまった。
「何言ってるの練!! 」
素早く反応したのはたえだった。
「魔法師は女の子しかなれないんだよ? 」
「え?」
その言葉に思わず変な声が出た。
魔法師は女性しかなれない……?
けど……
「けど、今俺にも魔法師の適性があると言ってたけど……」
と、言ってしまう。
その様子に、どうしたものかという空気になる。
その空気を錬は察して、俺何かやっちゃいました? となっている。
「何も知らないの……? 」
とたえに呆れられる。
だが、そんな錬にも漆原は説明をする。
「本来魔法師というのは、女性にしか存在しないマナを使って魔法を生み出します。
ですので、女性のみが魔法師になれます」
と、言われる。
「けど、俺には魔法師の適性があると」
「はい」
錬は漆原にそう尋ねると簡単な返事だけが帰ってきた。
「あの……それって男が子供を出産する並みにおかしなことになってないですか? 」
そう思わず言ってしまう。
「はい。ですので、本来であれば起こりえないことです。世界初です」
そう冷静に言う漆原だが、錬の反応は驚くというより「なんで?」と若干引いていた。
「なので、山吹さんは、一度冷静に今後の進路を考えてもらって大丈夫なのですが、春場さんはそうはいきません」
「と言いますと?」
と、思わず聞き返してしまう。
「世界初の事象です。これまでいなかった素体、と言えばいいのでしょうか」
と、難しい顔をしながら漆原は答える。
「あまり脅すようなことは言いたくないのですが、春場さんの場合、実験台としてこれ以上に研究し甲斐のある人間はいません。
最悪、どこかの国に誘拐され、人体実験の被験者に……ということにもなりかねないのですよ」
そう言われてしまう。
その言葉の意味を理解できなかった練。スケールが大きすぎた。
「わかりやすく言えば、あなたはどこかの国に拉致されて人体実験の被験者になりかねない。ということです」
そう言われて、やっと飲み込めた練。
(えっ、怖!?)
背筋が凍るとはまさにこのことかというのを体験する練。
「あなたの親御さんにもこの後、お話しする手筈です。ですが、可能であれば我々の学校に籍を置き、寮で暮らしてほしいのです。
我々の学校と寮がある花州は、人工島ですのである程度の管理もしやすいですし」
今置かれている立場が日常とはもはや無縁のものになりつつあると感じ始める練。
将来が思わず不安になる。
「今日のところは、先生方への事情説明とお二方への挨拶がしたかっただけですので今回話す内容はこのくらいにしておきましょう。
お二方とも、調べたり、考えたりしたいことはあるでしょうし」
漆原はそう言うと、微笑みながらこう言った。
「お二方の入学を待っていますわ」
***
話し合いが終わったタイミングが、ちょうど昼休みだったので教室の端で、たえと二人で相談をする練。
「たえはどうするんだ、さっきの話」
「どうするも何も、私は……一旦相談よ。魔人は、嫌だけど、いい話でもあるし。
それよりも練の方が、問題よ」
そう言われる練だったが、首をひねる練。
「何が?」
「何がって……、何も知らないのね。あんた」
そう呆れられる。
「魔法師高校って魔法が使えるってだけでは入学できない学校だし、そもそも練。
あなた女子高にうちに入れって言われてるのよ? 」
そう言われる。
「え、女子高なの? 」
と思わず聞き返してしまう練。
「当たり前でしょ、魔法は女の子しか使えないんだから」
と呆れられる。
「女子高へ進学。えぇ……」
この先どうなるのかますますわからなくなる練。
その心中は穏やかではなかった。




