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プロローグ「日常が突然、日常っぽい異世界に代わることだってある」

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続きが出ます()

   「キスをしたら妊娠するじゃない!」

 そんなうぶなことを言うアニメのヒロインがいるのをたまに見る。

 普通はありえないよな。

 キスとは気持ちいいものなのだろう。

 みんなそこかしこでチュッチュしてる。

 そんなので妊娠していたら少子化問題なんて解決するだろうな。

 だが、キスをしたら妊娠する世界でキスをしなければならない。

 なんなら、女の子がキスしようと迫ってくる世界。

 そんな世界あったらいいのにな。


 目が覚めると異世界だったとか、転生していたとかって話は、創作物によくある話だ。

 だが、春場練はるばれんは違った。

 それは、ほんの何気ないことだった。

 スナック菓子を買い、百円ショップを出た瞬間だった。


 そこは、知っているようで知らない世界だった。


 街並み、行き交う人と車、環境音。 何一つ変わらない。

 家への帰途につく。その瞬間、十メートル先で地面が爆発したように見えた。

 思わず顔を腕で庇う。砂塵が舞い、細かいコンクリート片が体に当たる。

 そして、砂塵が収まると、二メートルはあろうかという巨大な生き物が爆発地点に鎮座していた。


 猫背で、魚眼のように眼玉は飛び出て、口はアンコウのように歯がむき出し、手は太くて鋭い爪が見える。

 こちらを向いていたわけではなかったが、その魚眼の片方と、目があった気がした。


「魔人だぁぁぁぁぁぁああああああああ」


 誰かがそう叫ぶと辺りは、パニック状態になり、通行人は我先にと駆け出した。

 練も言い知れぬ恐怖に襲われ、逃げ惑う群衆の中に入った。

 背後で、悲鳴や唸り声が聞こえた気がしたが、気にせず走った。

 走って走って走って走って。

 

 気が付いたら、家の玄関を閉めて戸を背にへたり込んでいた。


(な、何が起こった)

 嗚咽と涙が止まらない。

 言い知れぬ恐怖が練を襲う。

 その尋常ではない鳴き声を聞いてか母親が練に慌てて駆け寄ってくる。


「練、どうしたの!? 」


 母親が駆け寄ってきたが、言葉が出ない。

 だが、それでも何とか言葉にしようと、必死に言葉を紡ぐ。


「ば、ば、ばけ、化け物!! 」


「化け物? 」と不思議そうな顔をする母親だったが、すぐにピンと来たのか、慌ててリビングへと駆けていきスマートフォンを持って戻ってきた。


「もしかして、魔人が出たの!? 」


 そう聞かれる練だったが、魔人が何なのかわからず、震えるばかりだった。

 しばらく、スマートフォンを操作する母親だったが、すぐに、連の肩をつかんで「あんた、ケガはない!? 」と怒鳴りつけるように言われる。

 だが、恐慌状態の練は言葉にならない言葉しか、口から出てこず、泣きじゃくるばかりであった。

 その様子を見て、練を抱きしめる母親。


「大丈夫、落ち着いて、落ち着いて」


 そう語り聞かせるように、宥める母親。

 しばらく、声にならない声だけが木霊した。


 ***


 ようやく落ち着いて話せるようになったので、椅子に座らされる練。

 向かいには、母親がいる。


「何があったか話して頂戴」


 そう母親に諭される練。


「背は二メートル以上ある何かが爆発と一緒に現れたんだ。

 目はぎょろっとしてて恐ろしい歯と手の爪で……」


 そうぽつぽつと話し始める。


「魔人がいたのね……」


 ここでふと疑問に思ったことを母親に聞いた。


「魔人って何……? 」


 すると、母親は困ったような顔をした。


「魔人って言うと……練が今日見たそいつが魔人よ……」


 と、歯切れの悪い言葉を返す母親。

 少なくとも、特撮ものでしか見ないような形相のモノがリアルが現れたのだ。

 死ぬほど怖かった錬だが、母親がスマートフォンを差し出してくる。


「魔人……」


 そこには、魔人について詳細に書かれているウェブページが表示されていた。

 それを見る練。

 魔人とは、現代科学で証明されていない謎の生き物であり人を襲う異形の化け物。と書かれていた。

 それを見て、練は不思議に思った。


 (魔人ってなんだよこれ……

 魔人なんてものがこの世に存在するのか?)


 そう思わざるを得なかった。

 常識的に考えて、そんなアニメや映画でしかいないものなんてありえない。

 そう思わざるを得なかった。

 そして、もう一つ、不思議に思ったことがあった。


 さっきから母親が「かわいそうに、魔人被害にあうだなんて」とか「家にいれば魔人はこないからね」とか言っている。

 さも、魔人がいるのが当たり前のように話をしているのである。

 そんな世迷言を話すなんて……


 ***


 ひとまず、落ち着きたいと言って自分の部屋に引きこもりパソコンを使っていろいろと調べることにした。

 まずは魔人。

 これは簡単に出てきた。

 というより、簡単に出過ぎた。

 検索ページの横に出てくるトップニュースに今日のことが一面報道されていたからである。

 さらに驚くことに、今日以前にも、同様の魔人被害が出ている。


(どういうことだ……)


 昨日まで、そんな話聞いたことがなかったのに、昨日のトップニュースで魔人が報じられている。

 この事実に眩暈がしてくる練。


(おかしいのは……俺なのか……?)


 そう思ってしまう練。

 昨日まで存在すらしなかったものが突然、さも常識のように語られる。

 言い知れぬ恐怖感が練を襲った。


 ***


 翌日、練の通う中学校では魔人についての話で持ちきりだった。

 みんな口々に、その形相について噂は絶えなかった。

 口裂け女みたいな顔だったとか目は三つあったとかそんな噂だ。

 だが、みんな噂はしているが重苦しい。

 なぜなら、その怪人は忽然と姿を消してしまったからのようだ。

 つまり、まだ捕まってない。

 この恐怖は、学校はもとより地元住人を恐怖に陥れていた。

 一応、警察などが警戒しているが、地域全体に緊張感が張り詰めていた。

 そんな中での授業だったので、皆身が入っていない様子だった。

 そんな時だった。校内放送が入ったのは。


「全教職員と生徒にお知らせします。付近で暴力事件があったとの通報がありました。

 直ちに教室を施錠し、廊下には出ないでください」


 その放送を聞いてざわめく教室、ドア側の生徒は慌ててドアに施錠をする。

 先生は、生徒たちを何とか宥めようと落ち着かせていた時だった。

 廊下と反対側の窓際の生徒の一人が、ふと窓を見て、先生を呼んだ。

 その呼びかけに先生がその生徒の所に行き窓の外を見た。

 その瞬間だった。

 窓側の窓がすべて吹き飛び、教室に暴風が吹き荒れた。

 辺りが悲鳴を上げる中、連は顔を上げると、窓に足をかけるようにして昨日の魔人がそこにいた。


 ***


 辺りは悲鳴と叫び声に包まれた。

 逃げるものは教室のドアへ殺到した。

 だが、割れたガラスを全身に浴びそれが刺さり動けない生徒も何人かいた。

 窓際ではないが窓の近くにいた幼馴染が逃げる前に、気にかかったのでそちらを見ると、席に座ったまま動けなくなっていた。


 まるで、昨日の自分を見ているかのような錯覚を覚えた。

 慌てて、駆け寄りなんとか椅子から起こそうと脇をつかみ立つように促した。


「たえ、逃げるぞ。立て! 」


 だが、全く立つ気配がない無理やり立たせようとしたところ、椅子から離れた瞬間へたり込んでしまう。


(くそっ、どうすればいい……)


 そうこうしていると、魔人は付近にいた先生の両脇をつかんで起こした。

 まるで赤ん坊に高い高いをするときのように。

 だが、先生は、気を失っているのか頭はだらんとしていて、動く気配がない。

 そんな先生の前で、魔人の大きな口ががばっと開く。


(た、食べられるんじゃ……)


 そう、思っていると、口の中から細長い舌のようなものが出てきた。

 まるで触手のようなそれはやがて、胸のあたりに刺さり、不快な音が辺りを鳴らした。


(まさか……血を飲んでる? )


 ぱっと見ではわからない、だが状況と音と本能がそう伝えていた。


「たえ、逃げるぞ。立てるか」


 そう言いながら、幼馴染の片方の肩を担ぎ逃げようとする。


「無理……立てないよ……」


 そう言い、へたり込んでいるたえ。

 よく見たら、恐怖のあまり失禁したようだ。辺りが濡れている。


「何とか頑張れ、引きずっていくからな」


 そう言い、引きずろうと動き出す練。

 だが、付近の机に体が辺りガンッと音を立ててしまった。

 魔人がこちらを見る。


(やばい)


 抱えていた先生をごみクズのように床に捨ててこちらに歩いて来る魔人。慌てて抱きかかえていたたえを床へ降ろし、付近にあった椅子を盾にしようとする練。


(やばいやばいやばいやばい……)


 すでに心臓はバックバクで今にもどうにかなってしまいそうな練。

 だが、幼馴染を置いて逃げられなかった。

 その結果がこれである。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおお!!」


 錬は椅子を思いっ切りの力で魔人へ投げつけた。

 だが、ひらりと躱されてしまう。

 こちらへ歩いてくる魔人。


「いや……嫌…………」


 地面にへたり込んでいるたえは、足をもじもじじたばたさせているが、動けていない。

 そうして、目の前にあった机をはたく程度の間隔で吹き飛ばす魔人。

 吹き飛ばされた机は、壁に激突し木っ端みじんになる。

 俺たちとの間隔は2メートル。

 遮るものは、何もない。

 魔人が奇声を上げた。

 甲高い音が鼓膜に突き刺さる。

 その声で周りの教室からもパニックになった生徒が廊下を逃げ惑い、その音が聞こえた。

 が、目下の目標は俺たちだった。

 魔人が一歩こちらに踏み出そうとした。


「こ、こないでえええええええええええええええええ!!!!」


 そう叫びながら、両腕で顔を覆ったたえ。

 だが、次の瞬間、たえの前に魔法陣のようなものが出現し、その魔法陣から何かが飛び出した。

 それを、見て今度は素早く避ける魔人。

 数歩後ずさり、こちらの様子を伺っている。


(なんだ、今の)


 今起きた光景に思わず目を疑ってしまう。


(突然光ったと思えば、何かが出てきたしそれが壁に穴をあけてるし……、しかも魔人が近づいてこなくなった……? )


 そう、思ってこちらも固まっていた。


「そこの君! 早くこっちへ!」


 そう言われ、振り返ると先生が教室のドアの前でこっちこっちと手招きしていた。

 そう言われ我に返った練は右手で椅子を左手でたえの首根っこをつかんで無理やり後退しようとした。

 ずるすると引きずられていくたえ。

 その様子を見た、先生も、教室へ入りたえを引きずるのを手伝ってくれようとした。

 その時、魔人が、間にある机やいすを吹き飛ばしながらこちらに走ってきた。

 すでに、先生がたえの首根っこをつかんでいるので、錬は左手を離し両腕で持った椅子を思いっ切りフルスイングする。

 が、魔人はその椅子を逆に蹴り飛ばし、椅子が吹き飛ばされる。

 そして、そのまま首をそのまま掴まれ持ち上げられる。


(首が……絞められる……)


 顔面にパンチを入れようとしたり蹴りを入れたりして抵抗しようとするもビクともしない。

 それよりも、魔人の口が大きく開かれた。


(ま、まさか)


 魔人の口からは、触手のような細長い舌が出てきて恐怖に慄く。

 意識を失いそうになりながら、自分が食べられる恐怖に全身がこわばり寒気がした。


「お、お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


 首が締まり変な叫び声しか出ない中恐怖の中、思わず力を入れた拳で魔人の顔面横を殴りつけた。

 するとさっきとは違い、 魔人は、殴られた方向へ吹っ飛び、教室後方の壁へ打ち付けられた。

 錬は、その場に崩れ落ちた。


「がはっぁ……」


 呼吸ができていなかった分の空気を求めてただただ息をするしかできかった練。

 辺りが白黒して動くことができずにいた。

 が、目線だけは魔人のいる方向へは向けていた。

 見えていずとも威嚇になると本能で動いていたからである。

 だが、一向に追撃はこなかった。

 やがて視界が回復し錬の白黒でなくなってくる。

 すると、壁に大きな凹みとその凹みの中心にいる魔人が見えた。

 魔人は、後頭部から血を流し、口を大きく開けパクパクさせていた。

 見たら体もピクピク動いてはいるが、立ち上がる気配はない。

 息を切らしながらもその様子をただ黙って見つめていた。


「こ、これは……一体……」


 そう呟きながら二人組の女子が教室に入ってきた。

 その姿に、錬は驚いた。

 年代は同じくらい、派手な制服で、違う学校の生徒であるのはわかるのだが、その手には、剣や銃が握られている。

 その姿を見て唖然とする練。


「恋葉、念のため。とどめをお願い」


「わかりました」


 そう言うと、銃を持った少女は魔人の前に立つと、頭に一発胸に一発の弾丸を撃ちこむ。

 慣れない火薬の匂いが練を現実へと引き戻した。

 ふらり、と立ち上がる練。


「待って、動いちゃダメ」


 指示を出していた女子が練にそう告げた。

 近づいてくる。

 すると、体をペタペタと触りだす。

 足や胸、頭などを触られる。


「あの……」


「けがはないようね。恋葉、救急隊その他諸々、ここに読んで頂戴」


「わかりました」


 指示を受けた女子はすぐに教室を飛び出した。

 何が何だかわからないうちに、終わってしまった。

 ただ、「助かった」。その事実だけが錬の胸に木霊していた。


「ねえ、そこの君」


 指示を出していた女子が聞いてきた。


「この魔人は、そこの子がやっつけたのかな? 」


 と、たえを指さして聞いてくる。


「いや、なんて言うか……わからないっす……」


「わからない? 」


 そう聞かれる練。

 だが、錬も困ってしまう。


「首絞められて、変な物刺されそうになって必死にじたばたしてたらなんか、こうなってたので……」


「ふーん」


「ねえ、そこの先生。それで合ってる? 」


 そう、さっきいた先生に問いかけると「ああ、そんな感じだったな……」と回答した。


「なるほどねぇ……」


 すると、目の前にいる女子は自己紹介を始めた。


「あたし、佐城彩。魔法高校2年生」


「ま、魔法……魔法!?」


 思わず、声を上げてしまう練。


「そう、本当は君を魔人から助けに来た魔法使いなのさ。まあ助ける前に死んじゃってたけど」

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