美柑編「再び」
二人はその人影に一瞬固まった。が、すぐに反応したのは美柑だった。
すでに抜いていた剣を人影に向かって迷わず振り下ろす。
だが、その剣先は人影には当たらず、右腕で振り払われる。
金属音が響き渡り、美柑は一歩下がり態勢と整える。
が、すぐに剣を中段に構えると、魔人へ向かって切りかかった。
魔人はひらりと軽い身のこなしでそれを躱すと、右腕と右手を突き出した。
その手は金属でネイルをしているかの如く鋭い爪先で、美柑を串刺しにせんと迫るが、美柑も軽い身のこなしで後ろに下がる。
一瞬の間が空き、魔人の顔を視認する。
その顔を見て、二人の顔色が変わる。
目の前に現れた魔人こそ、捜し求めていた魔人だった。
***
「出たな。今度こそ……、今度こそ……!! 」
そう言いながらいきり立つ美柑。
が、美柑が動くより早く、練は炎魔法を発現させ火の玉を魔人めがけて撃ち込んだ。
火の玉は軽く躱されてしまう。が、爆炎がかすったのか、かすった個所を軽く手でこする魔人。
「落ち着け鳴海! 冷静にな! 」
ヒートアップしている美柑へ冷静になるよう呼び掛ける。
だが、耳に入っているのか練にはわからなかった。
「やぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ」
風魔法で一気に距離を詰める美柑。
上段から体重と勢いを乗せた捨て身の一撃を放つ。
重い金属音が鳴り響く。
渾身の一撃は魔人の特徴でもある右腕で防御されてしまった。
悔しさを滲ませる美柑。
だが、諦めず全身に魔力を駆け巡らせる。
剣からは激しく炎が燃え盛り、そのまま魔人を焼き払わんと熱を帯びる。
その炎を嫌ってか、右腕で剣を振り払い、同時に美柑のおなかに蹴りを入れる。
美柑は、その場から吹き飛ばされ地面を転がる。
すぐに立ち上がろうとするが、止めを刺さんと魔人が迫ってくる。
しかし、練もすぐに反応する。
氷柱を複数発生させるとそれを魔人へ向けて射出する。
が、魔人は避けようとはせずに直撃するものだけ、硬質化されている腕と伸びた爪で振り払い、美柑へ向かっていく。
美柑は立ち上がり、剣を構える。
そして、魔人へ向かって突進していく。
互いに急に距離が詰まる。
そして、再び激しい衝撃音が鳴り響く。
が、今度は美柑が大きくのけ反っていた。
魔人の振り払った腕に美柑の斬撃の威力が、明らかにパワー負けしていた。
振り払いながら、鋭くとがった爪での刺突の構えを見せる魔人。
美柑はこの時、漠然と死ぬことを自覚した。
振りかぶった爪を突き出されれば串刺しになり、すべてが終わる。
復讐も、何もかも。
楽しかった幼少期。地獄の日々だった小中学生。そして、短いながらも経験した高校生活。
それらが、体をダイジェストで通り抜けていくような感覚に襲われた。
これが、走馬灯か。と頭の片隅にその思考が割り込んできたが、最後に思ったのはこうだった。
ダメだった。仇を取れなかった。と。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
今まさに、串刺しにされそうになっている美柑向かって練は風魔法で突進した。
魔力による身体強化、風魔法による慣性の上乗せ。それに加えて大杖自体にも風魔法を乗せてブーストした一撃を魔人めがけてスイングした。
今まさに止めを刺さんとしていた魔人も、後衛が前へ飛び出してくるとは思っていなかったのか、防御の姿勢へ転換するのがやっとでスイングをまともに受ける。
が、それでも、十メートルほど後ろへ吹き飛ばすのがせいぜいで、吹き飛ばしても空中で姿勢を立て直し着地している。
つまり、ダメージはほとんど入っていないということだ。
(今の俺たちの装備とスペックでは、奴を仕留めきれない。なら、せめて! )
左手で大杖を掲げ、火の玉を三つ、頭上に錬成する。
魔人は、魔法を打ち出した直後の隙を狙って突撃しようと身構えている。
視線は、頭上にある火の玉に意識がいっている。
練の右手には意識が向いていなかった。
それを感じ取った瞬間、練は動いた。
右手でホルスター内の拳銃を素早く抜き、三発発砲した。
乾いた炸裂音が鳴り響く。
二発は魔人の横を。
一発は魔人の足元に命中した。
その足元に命中した一発に魔人の注意が一瞬逸れた。
その瞬間を、練は見逃さなかった。
巨大な火の玉が、魔人めがけて発射される。
魔人は慌てて、後ろへ飛びのいた。
が、間一髪間に合わず、三発のうち一発を受けてしまう。
不気味な叫び声が辺りに木霊した。
爆炎が収まると、魔人の姿が見えた。
直撃は避けていたが、明らかにやけどを負っている箇所がありダメージを受けていた。
しばらく、魔人はうなり声をあげていたが、やがてどこかへ向かって長距離ジャンプして去っていった。
うなり声をあげているときから足に魔力をためどこかへ逃げようとしているのは分かっていた。
だが、これ以上戦えば負けるのはこちらだろうと感じており、逃げてくれてよかったと内心安心する練。
振り返ると、ぺたんと女の子座りして呆然としている美柑がいた。
傍まで歩いていく。
「大丈夫か」
「ええ……」
緊張から解き放たれたからなのか呆然としている美柑。
そんな美柑に練は、目線を合わせて座り、こう言った。
「おい鳴海。自分をもっと大事にろ。さっきみたいな捨て身の攻撃はやめてくれ」
諭すようにそう話しかける練。
だが、美柑は俯きながら絞り出すような声でこう答えた。
「あなたにはわからないでしょうけどね。千載一遇の復讐のチャンスだったの。なのに、なのに」
それに対して、練はこう言った。
「チャンスだったろうさ。けどな、それで命を投げ捨てるのはだれも望んでないし、悲しいだけだよ」
すると、顔を上げる美柑。
瞳からは涙が溢れ、ほとんど言葉にならない嗚咽が出ていた。
練は何も言わず、そっと肩に手を乗せ大丈夫だと、励まし続けた。




