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美柑編「見回り」

 時刻は午後六時、場所は練の卒業中学校の近くの区域一体。

 練と美柑はフル装備で見回りをしていた。


 美柑は剣と拳銃。

 練も大杖と拳銃を携えていた。


 拳銃には実包が入っており、魔人へのけん制やトドメ刺しとしても使えるようになっている。

 拳銃の種類については、それぞれおすすめされるがままを装備している。

 美柑は自動拳銃のグロッグ、練は大型のリボルバーだ。


 二人はメイン武装があるため銃は補助武器だが、銃をメイン武装にする人は装弾数五十発の超大型拳銃を装備したりする。

 銃はそれぞれ腰にガンホルダーを下げて携帯している。

 腰に下がっている拳銃の重みが普段の訓練とは違うということを改めて二人に実感させる。


「にしても、よくこの地区の見回りの配置、回してもらえたよな」


「そこは私が強く希望したのもあるけど、春場君がこの辺の土地勘があることを考慮して、漆原先生が推薦してくれたそうよ」


「そうなのか?」


「ええ、先生から聞いたから」


 そう話す美柑は、いつも通りの雰囲気だ。

 一方の練は、悶々としていた。


(魔法師を志す理由は人それぞれ、俺は流れでこうなったけど、美柑は復讐のため……か)


 前を歩く美柑の背中を見ながらそんなことを考える。


(しかも、自分の体を対価にするなんて……、飛びつきたいけど、理由が理由だけに人としてそれはできないよな)


 高校生としての色欲より、理性の方が今は上回っている。

 ただ、やはりペアを組むとなった際の言葉には意識が行ってしまう。

 そんなことではいけないと、なんとかその思考を振り払い任務に集中しようとする。


「にしても、一年前では想像してなかったよ。この制服を着てこの地区の警邏に当たることになるなんて」


 気分を変えるためにも美柑へ話を振る。


「それはそうでしょう。一年前まであなたは普通の男の子だったわけだし。

 それが、世界初の男性魔法師なんて、私は認めたくないけどね」


 そう言う美柑に対し練は疑問に思っていたことをぶつけた。


「なあ、結局俺を認めているのか認めていないのか、どっちなんだ」


「何よ急に」


 美柑は振り返りながら、練にそう話す。


「初めてあいさつした時も、今も、俺の存在を否定したい雰囲気がある。

 だけど、実際はペアを組んでいる。

 言ってることとやってることが、矛盾してるぞ」


 その言葉に、押し黙る美柑。

 数秒して、紡ぎだした答えがこれだった。


「確かに、春場君の実力は認めざるを得ない。実際戦ってそう思えるわ」


「だったら、なぜ?」


 目を閉じ、ふーっと一つ大きなため息をつく、美柑。


 そして、こう答えた。


「あなたに言っても仕方ないけど、私、男が嫌いなのよ」


「そりゃまたなぜ? 」


「春場君それを教えないといけない理由は? 」


「男嫌いなのに、男にペアを申し込む行動と矛盾するから」


「それは……確かにそうだけど。けど、話して取引はしているわよね」


「だったらなおさらだ。嫌いな男に自分の体を差し出す、なんておかしいだろ」


 その言葉に、すっと黙り込む美柑。

 しかし、すぐに反論してきた。


「やっぱり、なんだかんだ言っても私の体が目的なのね。汚らわしい」


「俺はお前の体が目的でペアを組んだわけじゃない。ただ、矛盾が気になっただけだ。嫌なら答えなくてい」


 そう言うと、美柑は簡潔にこう答えた。


「復讐のために生きると決めた。その前にはすべてが小事なのよ」


「復讐か……」


 練にはない感情のため、理解できなかった。

 何に変えてでも叶えたいこと。流れで魔法師になった練にはそれがない。

 目標があるのはいいことだが危うさを感じていた練だった。


「何度も言うが体は大事に」


 しろよ、と言葉を続けようとした時だった。近くの大通りから激しい大きな音とクラクション音が響いた。

 二人ともその音に驚き身をすくめる。

 が、すぐに反応し、二人は現場へ向かって駆け出した。


 ***


 現場についた二人は呆然とした。

 前方が、完全にひしゃげた車が二台停まっていた。

 一台の車からは、頭を押さえながら車に寄りかかりどこかへ電話をかけている。

 一方のもう一台は万課のドアがひしゃげており煙が出ているが、車の中に人影が見える。


 二人はすぐに動いた。

 練はひしゃげていない前のドアを開ける。

 中には父親と思わしき大人と後ろの座席に小さな男の子が座っていた。

 二人とも気を失っていた。


 すぐに、シートベルトを外して大人を引きずり出す。

 車から五メートルほど離れた位置に寝かせて、車の方を見ると美柑が車の窓ガラスを割ろうと剣を抜いたところだった。


 だが、剣を思い切り叩きつけるかのようにガラス面に向かって叩きつけたが窓ガラスは飛散しなかった。

 ひびが入り蜘蛛の巣状の亀裂が入るだけだった。保護シートか何かのせいで完全に割れない。


 慌てて、戻る練。


 さっき父親が座っていた座席に飛び乗ると、シート横のレバーを押し椅子を倒して、椅子をよじ登り、男の子の手をつかむ。


 手を手繰り寄せて肩をつかむと抱きかかえるように救出する。

 救出すると、すぐに車から離れた。車からは濃い煙が立ち上っており、今にも燃えだしそうな雰囲気だった。


(間に合った……)


 そう思いながら胸をなでおろす練。

 遠くからサイレンの音も聞こえて来ており、もう大丈夫だろう。そう思ったとき何かが炸裂するような音が車の方から聞こえた。

 思わず振り返るが、車は爆発していない。

 代わりに、どこから飛んできたのかわからないが着地時にひび割れた地面。そして、着地した姿勢のままこちらを見る人影があった。


 ***


 二人はその人影に一瞬固まった。が、すぐに反応したのは美柑だった。


 すでに抜いていた剣を人影に向かって迷わず振り下ろす。

 だが、その剣先は人影には当たらず、右腕で振り払われる。


 金属音が響き渡り、美柑は一歩下がり態勢と整える。

 が、すぐに剣を中段に構えると、魔人へ向かって切りかかった。


 魔人はひらりと軽い身のこなしでそれを躱すと、右腕と右手を突き出した。

 その手は金属でネイルをしているかの如く鋭い爪先で、美柑を串刺しにせんと迫るが、美柑も軽い身のこなしで後ろに下がる。


 一瞬の間が空き、魔人の顔を視認する。

 その顔を見て、二人の顔色が変わる。

 目の前に現れた魔人こそ、捜し求めていた魔人だった。

 

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