美柑編「美柑の過去」
放課後、練は屋上に呼び出されていた。
屋上の扉を開ける練。
屋上のベンチに腰かけていた人影が立ち上がる。
「春場くん」
そう呼びかけた美柑。
練は美柑の元へ歩いていき、美柑が腰かけていたベンチに座った。
それに合わせて美柑も座る。
「で、話ってなんだ」
そう話を切り出した。
「主な用件は二つよ。
一つ目は私の過去をあなたに話しておこうと思って。
二つ目は今後の事よ」
「過去を知ることが何かにつながるのか?」
「二つ目につながるわ。いいから聞いて」
そう言い話始める美柑。
「私ね。魔人に両親を殺されたの」
その言葉に返答に困る練。
魔人災害で人が死ぬこと自体は珍しくない。
だが、両親となると残された人間はたまったものではないだろうなと練は思った。
「しかも、お母さんは私の目の前で魔人に食べられたわ。
当時小学校低学年だった私は、何もできずただ、お母さんが食べられているのを見
てるしかなかったの」
空を見上げながらそう語る美柑。
空を見ているのは、母親を思い出すためか、涙をこらえてなのか。
「その後、私も別の魔人に捕まって、吸血されたわ。
間一髪で魔法師の人に助けてもらって、緊急輸血でどうにか一命を取り留めたらし
いの」
「そうか……」
幼いころにそんな体験をしてれば普通はトラウマになるだろう。
だが、なぜか、美柑はこの学校にいる。
そのことを練は疑問に思った。
「いまでも、ハッキリ覚えているわ。
お母さんを食べた魔人のことを」
そして、魔人の特徴を美柑は語りだした。
「髪はロン毛で、手は人間の手とかぎ爪状態を自由に伸縮でき、今では指定個体になっているやつよ」
「え、それって……」
「ええ、この間の事件で戦った魔人、あいつのことよ。
数多の魔人事件で存在を確認されているわ」
「あいつ、そんな歴戦個体だったのか……」
と、練は思い返していた。
あの強さ、そして魔人には珍しい知能的な行動。相当の修羅場をくぐった個体なんだろうなと練は思った。
「私は復讐のために魔法師になったの。あいつをこの手で殺さないと前に進めない」
「それは……」
無理とは言わないが気が遠くなる話だ、と思った。
相手は、歴戦の個体。対して、こちらは魔法師見習いがいいところ。
今すぐ再戦したとして、勝てる見込みはない。
仮に成長したとしてもそれまでその個体が生きているとは限らない。
「わかってる。今の私じゃ、勝てないって。だから……」
「だから……? 」
一拍間を置いて、覚悟を決めた美柑はこう言った。
「一時的でもいい。私と正式にペアを組んでほしいの」
正式にペアを組む。
これは、学校や魔法師協会といった組織にへ届け出を行い、以後の訓練や災害派遣の際、決まった人員で送り出せるようにするためのシステムだ。
協会に所属する魔法師は大体がペア登録をしている。
これは仕事を円滑かつ効率よく行い、高練度の人材を用意するためだ。
魔法師高校や魔法師大学では、このペア探しの場所として機能している。
将来有望な仲の良い人材がペアを組んでくれれば、連携の取れた高練度のペアができるからである。
ペアのお誘いは言わば相手の実力を認めた上で行われるプロポーズ。
高校内では、隠語で正式にペアになることを「結婚する」なんて言い方をしたりする。
そんな、告白とも言える行動を美柑はした。
「ペアを組めば課外学習の機会が与えられるわ。そして、一度現れた場所に指定個体は再び現れることがある。
今、ペアを組めば、あいつが現れた場所の見回り警護に回してもらえるわ」
興奮しながらそう早口に捲し立てる美柑。
対する練は冷静だった。
「落ち着けよ。ペアを組んだからって必ず遭遇できるとは限らない。
それに、なんでそんなに急ぐ。第一なんで俺なんだ。
今の実力じゃ、せいぜいペアを組んだとして足止めがせいぜいじゃないか? 」
その言葉に美柑は、こう返した。
「あいつは私の手で殺さなきゃいけないのよ。
よその誰かに殺されてからでは遅いわ。
そのためだったらなんでもしてやるわ」
「なんでもって……」
「なんでもはなんでもよ。
私の命一つくらいかけてやるわ」
「いざ戦闘になったら、鳴海の命一つじゃなくて俺の命も乗せることになるんだけど……」
と、思わずツッコミを入れる練。
だが、それに対しての返答は練が噴き出す内容だった。
「もちろん、タダとは言わないわ。倒せた暁には、私の体、好きにしていいから」
「ブッ……」
げほっげほっとむせる練。
しばらく苦しそうにしていた練だったが、落ち着いたところでこう返した。
「お前、本気かよ。てかそれで俺に声をかけたのか?」
「私は本気よ。あんたに声をかけたのは、あんたが性別関係なしに適任だったからよ。
仮組みのペアの子で、戦闘経験があって、実力も私の足を引っ張らない。
同等の条件の子がOKを出してくれるとはおもえないから」
「でも、引き換え条件が体って……」
「このままだと、引き受けてくれるとは思ってないからね。
なら、何かを取引材料にするしかない。そうなった時に私が出せるもの。
その答えがこれよ」
「お前なぁ……」
思わず呆れる練。
しかし、美柑は表情を崩さずケロッとしている。
「ちなみに、受けないって言ったらどうするつもりだ? 」
「その時はその時で、別の子に同じことを言うだけよ」
そんな美柑に対し、練は「はぁ……」と一つため息を吐いた。そして
「いいよ。その話、受けるよ。ほかの子にやらせるわけにはいかないわ、これは」
そう返事した。
「そっか、じゃあよろしく頼むわ」
とそっけなく返した美柑。
「ただし、一つ約束してくれ」
連は一つ要望を出した。
「何?」
「体はもう少し大事してくれ。簡単に体を好きにしていいと言われても、いい気はしないからな」
***
練と美柑はその足でペア申請をするために、職員室へ向かった。
漆原先生を見つけ、ペアを正式に組むことを伝えた。
漆原先生はすぐに書類一式を用意してくれてその日のうちにペア登録を済ませた。
そして、先生には反対されたが、見回り警護の話が来たのでそれを受けることにした。
見回り警護は警戒区域を交代制で見回り、何かあれば最初の先鋒として交戦することを求められる。
故に、見回る際は装備が交戦用のフル装備になるうえ、見回りの間は危険手当が出る。
訓練をサボりながらバイト感覚でお金がもらえる。
猛者は危険手当目当てでペア登録するくらいだ。
だが、いざとなれば交戦しなくてはならないので肝が据わっていないとできない仕事でもある。
一年のまだ一学期の生徒がするのは、珍しいらしい。
見回りのシフトが組まれ、それを渡される二人。
二人の最初のシフトは、一週後の放課後だった。




