another view「病院にて」
「お母さん! お母さん!」
少女は倒れている母親の体を揺すり呼びかける。
だが、母親は頭から血を流して目を見開いたまま動かない。
周りは悲鳴が飛び交い、逃げ惑う人々が右往左往していた。
少女は必死に母親へ呼びかける。
ただ、無情にも血だまりが大きくなっていくだけである。
それでも、呼びかけていたが、突然首根っこを掴まれる少女。
強引に母親から引きはがされ数メートル後方に投げ飛ばされた。
地面を転がる少女。
うつ伏せの姿勢から起き上がり、母親のいたほうを見る。
「おかあ、さん……」
少女のその目に移ったのは、母親の首元に齧りつき血を貪る魔人の姿だった。
右手は爪なのか手先が鋭く鋭利に尖っており誰かを突き刺したのか、血にまみれていた。
少女は、その光景をただ茫然と眺めていることしかできなかった。
声が出なかった。
母親に呼びかけることもできず、嗚咽となって音が出るだけだった。
やがて、足音が近くでしたことに少女は気が付いた。
そちらの方を見ると、別の魔人が立っていた。
魔人は少女の胸ぐらをつかんだ。
そして、顔が近づいてくる。
首元に吸血器官を刺しこみ吸血しようとする。
生暖かい息が肌に触れる。
そして、少女は悲鳴を上げた。
***
「いやあああぁぁあああああああああああああ」
美柑は絶叫しながら飛び起きた。
息は切れ、心臓は早鐘を打ったかのように鼓動し、手はなぜか震えていた。
しばらく、呆然としていた美柑だったが、やがてそこが屋内であると気が付いた。
ふと、首筋を触るが何もない。
そこで、さっきのが夢だったと気が付いた。
心臓は変わらず、早いペースでビートを刻んでいたが、呼吸は少しづつ落ち着いていった。
「ったく、いきなりなんで叫ぶんだよ……」
練はひっくり返った椅子から起き上がりながら、美柑へ呼びかけた。
「え? ご、ごめん……、って、ここは? 魔人は? そうだ私のお腹!」
そう言い、美柑は服をめくり自分のお腹を確認した。
だが、傷一つついていなかった。
「落ち着け。ここは、病院。しばらくはベッドで安静にな」
練は、椅子を戻して座りなおす。
「病院……」
「魔人はあの後、逃げたよ。正直逃げてくれてよかった」
「なら学校の人には?」
「学校の人で被害を受けた人はいないよ」
「そう、ならよかった……」
美柑は安堵しながらお腹をさする。
「お腹のキズは、すまない。重傷と判断したから治癒魔法を使わせてもらった」
「それって……」
「ああ、ご推察の通りだ」
しばらく無言になる美柑。
練は何を言われるか、ひやひやしながら様子を伺う。
「そう、助けてくれてありがとう」
美柑から出てきたのは、意外な一言だった。
「お、怒らないのか……?」
練は恐る恐る美柑に聞く。
「少なくとも、お腹に爪が二本くらい刺さった感じがあったわ。
今回は必要と思ったから、してくれたのでしょう?
なら、言うことはないわ」
その言葉に安堵し胸をなでおろす練。
「そ、そうか。また怒られるかと」
「そりゃあ、恥ずかしいし穢されたと思わなくはないけど……」
「……怒ってます?」
「怒ってないわよ。別に」
美柑は、ばつが悪そうにそう答える。
そして、互いに沈黙が流れた。
夜の病室で薄暗い。
だが、それでもわかるくらい美柑は真っ赤になっていた。
それを見て、気まずくなる練。
「そ、そうだ。起きたのなら看護師さん呼ばないと」
そう言い、ベッド脇に置いてあったナースコールを使って呼び出した。
すぐに、看護師さんが飛んできて、問診が始まった。
練は一旦、病室を出てそれが終わるのを待った。
その間、あることを考えていた。
魔人が現れたとき、美柑は一時戦意を失っていたように見えた。
実際、校舎内に逃げ込んだ時には最初追いかけてこなかった。
何故なのか。練にはわからなかった。
初実戦だから、という線はないだろう。
このペアで一度実戦は踏んでるわけだし。
となると、美柑自身が持つ何かが、戦意を一時的に失わせたことになるがそれが何かまではわからない。
(しょうがない。後で聞くか)
そう思いながら、看護師さんが出てくるのを待った。




