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美柑編「中学校表敬訪問3」

 校舎に入り練は、すぐさま大杖を捨てて、土のこん棒を魔力で生成した。

 大杖を振り回すには廊下は狭い上に、今回は前衛がいない。

 つまり、己の力で打開するしかない。

 小走りで学校の中を駆け回り、探索する練。

 すると、すぐにお目当ての魔人はそこにいた。

 教室のドアを開けようとガチャガチャとしているが、鍵がかかっているのか開かない。

 ドアを強行突破しようと二、三歩後ろに下がった。


「おい! そこの魔人! 」


 練は魔人にそう叫んだ。

 魔人がこちらを見る。

 人がいる教室と対角線上にいるため魔法を下手に打つと二次被害が出る。


(ここは……!! )


 練は腰を落とし、構えると風魔法で一気に距離を詰めた。

 そして、胴へ向かって思いっきり一撃を加えた。

 鈍い衝撃音が静寂の廊下に響き渡った。

 練の一撃は、胴に確実に命中していた。

 だが、魔人は避けようともせずそれを何の防御行動もとらずに受け止めていた。

 魔人が取った行動は、練に向かって首をかしげるのみであった。


(固い……! )


 練はダメージを与えた手ごたえを感じられず、すぐに後ろへ飛びのいて距離を取る。

 そして、手に持っているこん棒の形状を変化させた。

 今度は先端を細く尖らせ、刺突できるようにした。

 対する魔人は、右手はかぎ爪のような形状のままであったが、左手は普通の人の手に戻していた。

 それが、意図するところはわからなかったが、どう出てくるか様子を伺っていると、魔人が先に動いた。


 魔人は猛スピードで突進してきた。

 右腕を振りかぶると、ひっかくように振り払ってくる。

 それに、ギリギリで反応しこん棒で払いのける。

 甲高い音が鳴り響き、練は大きく体制を崩される。

 慌てて体制を立て直そうとする練だったが、それよりも早く魔人の左拳が見える。

 そして、左ストレートが顔面に命中した。


 思いっ切り、吹き飛ばされ宙を舞う練。

 地面へ放り投げられるように転がる。

 だが、練もすぐに立ち上がろうとする。が、


(うまく、立てない……)


 視界が、ぐるぐる回るような感覚に陥り体をまっすぐに保てない。

 練は、歩いてこちらに向かってくる魔人を見て、身震いするようなプレッシャーを感じた。

 こちらの攻撃は通らない。かと言って逃げるわけにもいかないし逃げられる状態ではない。

 目の前の魔人は、吸血器官である舌を出しながらこちらへと向かってくる。

 殺意を向けながら自分を食料として食べようとしてくる魔人に、練は死を感じた。

 まるで舌なめずりしながら、向かってくる魔人が階段の横と通り過ぎこちらへと向かってくる。

 練は後ずさりしながら、廊下を曲がり奥へ奥へと少しづつ後退する。


(時間さえ……稼げれば……)


 練としては、倒すことは考えずその一点のみを考えていた。

 そして視線を切らさず後ずさりし、魔人が廊下を曲がりこちらを向き近づいてくる。

 練の後ろには階段があるが、足元がおぼつかない状態で廊下を降りれば転倒のリスクもある。

 第一、階段を降りる所まで魔人がこちらを追いかけてくるかわからない。

 少しづつ、下がり廊下の半分を渡った練。

 魔人も、ゆっくりとついてくる。

 距離にして、6メートル前後。


 そこで、練は突然、片膝をつきしゃがみこんだ。

 そして、右手を前に突き出し、水の玉を発生させ、それを魔人へと射出した。

 先ほどまでは、人がいる教室が射線上にあったので魔法を放てなかった。

 だが、魔人はそこから移動し、人のいる教室から射線が外れた。

 練にとって、この一本道が勝負の決め所であり墓場でもあった。


 魔人は、防御魔法陣を展開し、それを防ぐ。

 水の玉からは湯気が立ち込めている。

 熱湯がかかれば上出来の狙いで放った一撃だったが、練の本当の狙いはそれではなかった。

 辺りは、水浸しになっている。


(さあ、こい! )


 練は魔人がこちらへ向かってくるのを待った。

 正確には水浸しの場所。

 ここに入ってきた瞬間、電気系の魔法を地面へ流しケリをつける算段だった。

 だが、魔人は動かない。

 防御魔法陣を張ったまま動かない。

 それどころか、少しずつこちらを見ながら後ろへ下がっていく。


(な!? )


 魔人というのは、本能に動かされる生き物であると言われている。

 吸血が食事であり、それを優先する傾向がある。

 故に、人に危害を加え無力化した後に吸血する。

 今この状況では、目の前にエサの人間がいる。

 その人間に対して、魔人は、食欲という本能よりも、警戒という別の行動をとっている。

 練は学校で習ったある事例を思い出した。


(こいつ、指定個体なのか……!?)


 指定個体とは、通常の魔人とは異なる行動をとり駆除されていない個体を指す。

 指定個体は決まって人間社会に偽装して溶け込み、被害を出し続ける。

 周りはエサだらけという状況でも、食欲という本能を制御できるのだ。

 故に、行動が読めない。

 まるで、人間のように行動するからだ。

 練は、この魔人がすぐに突撃してくるものと思って、この場所へ誘い込んで罠を仕掛けた。

 だが、相手はそれに乗らなかった。

 その時点で、練はこう思った。


(こいつは、一人では手に余る)


 そう思った。

 自分一人の身を守ることだけならできるかもしれない。

 だが、誰かに被害を出すことができない。

 となると、逃げることもできず、どうすれば良いか。


(誰か、誰か来てくれ)


 そう、願わずにはいられなかった練。

 そう思っている間にも、魔人は後退し曲がり角まで下がっている。

 練もそれに合わせて前へ進むしかない。

 ふらふらと、壁を支えに何とか歩く練。

 その目には魔人が練に注意を払っている姿と、


「やああああああああああああああ!!」


 大杖を思いっ切り振りかぶる美柑の姿が映った。

 美柑は、魔人へ向かって大杖をフルスイングする。

 魔人は、練に注意が行っていたため反応が遅れた。

 固い打撃音が鳴り、魔人は大きく態勢を崩され、練の方向に吹き飛ばされる。

 魔人は、大きく数歩よろめいたところで踏ん張ろうと足に力を入れたが突如大きくバランスを崩し転倒する。

 そこはちょうど先ほど射出した温水が、床にまき散らされている箇所だった。


 「ナイスだ、鳴海」


 練はそう言うと、電気魔法を発動し、温水に向かって撃ち込んだ。

 激しい炸裂音が鳴ると同時に、魔人の体が大きく跳ねた。

 魔人はその場で激しくのたうち回った。

 もう一撃、と電気魔法を展開し射出しようとする練。

 だが、練の目に移ったのは魔人ではなく、その先にいる美柑の方だった。

 大杖を床に落としお腹を押さえている。

 制服はお腹の方がどす黒い色に染まっていて、足元には血がしたたり落ちていた。


「おい、鳴海!! 」


 そう呼びかけるが、反応はなく、美柑は場に崩れ落ちた。

 練は、追撃の電気魔法を放ったが、魔人は美柑の方へ向かって跳躍しそれを躱した。


 そして、美柑の横を素通りし窓を突き破って外に逃げた。

 それを見て、慌てて美柑の元へ駆け寄った。

 そして、お姫様座りしてお腹を押さえている美柑に目線をわせるようにしゃがみこむ。


「……遅くなって……ごめんね……」


 虚ろな目でそう語り掛けてくる美柑。


「大丈夫、死なせるもんか」


 そう言い、練は美柑の頭をそっと抱き寄せ口づけをした。

 ふわりといい匂いがした気がしたが、血の匂いによってかき消される。

 そんな中、練は自分の唇から美柑の唇へ何かが伝わっていくのを感じていた。

 お腹の方が光っており、回復魔法が効いている証でもあった。

 同時に、美柑からも柔らかい唇を通して、熱い何かが流れ込んでくるような感覚を受ける。

 それを感じながらも、もっと、もっとと深い口づけをする二人。

 何分もそうしていたように練は感じた。

 唇を離したのは、お腹から発せられていた光が消えてからであった。


 唇を離し美柑の様子を見ると目を閉じていた。

 慌てて、その場で寝かせて服をまくりお腹をチェックする。

 服には穴が開いており、そこが刺された場所だと認識できたが、その周囲に傷跡は見当たらず、傷は塞がっていた。

 美柑を注意深く観察すると、胸のあたりは動いているので呼吸はしていると判断で来た。


 ようやく、そこで一息をつく練。

 同時に、ポケットにしまっていた携帯がバイブレーションしていた。

 ポケットから取り出してみると、漆原先生からのコールだった。


「もしもし、春場です」


「どうしたの春場君」


 先生は、息を切らしながらも用件を促した。


「学校に、魔人が現れて戦闘になりました」


「なんですって!? それで状況は! 二人ともけがは!?」


「魔人は逃げていきましたが、学校内に潜伏している可能性はあります。

 私と鳴海は戦闘続行不能です」


 その言葉で、漆原先生からも緊張感が伝わってきた。


「了解、すぐに戻るわ」


 そうして、電話は切れた。

 と、同時に緊張の糸が切れたようで虚脱感に襲われる練。


(まだ、魔人がいるかもしれないのに……)


 そう思う練だったが、集中力を取り戻せそうになかった。

 ふと、眠っている美柑の顔を見る。

 普段はいがみ合うこともある。

 さっきは、足がすくんで動けないでいた。

 それでも、最後は助けに駆けつけてくれた。

 魔法師ということを考えれば、当たり前なのかもしれない。

 ただ、それでも、あの場面で助けに来てくれたことに何かを感じずにはいられない練だった。

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