美柑編「中学校表敬訪問2」
先生と二人は校長室に通された。
ふかふかの椅子に座り、対面には先生。
横には美柑が座った。
「ここに先生といると、勧誘に来られたことの事を思いだします」
先生にふと、話を振る。
「そうね。あの時は、佐城さんと来たわね」
ふふっと微笑む先生。
「あの時、魔法が自分にも使えるなんて言われて時にはひっくり返りそうになりましたよ」
「それは、世界初の事象だもの。私たちも驚いたわ」
「先生が、スカウトしに来たのですか? 」
美柑も話に乗ってくる。
「ええ、今だから言えるけど、私には春場君を大阪分校へ入学させるようにという指令まで出ていました」
「そんな大事だったんですか……」
美柑は練の方を見ながら驚いている。
「ええ、春場君が万が一、他国の謀略で誘拐でもされた日には国家レベルの損失ですもの。
研究材料としてもこれ以上ない素体を、他国には渡せない。
保護する目的も兼ての大阪分校入学だったわね」
「へー……」
「入学するまでにも色々とお世話になりました」
改めてお礼を言う練に対し「それが教師の仕事だから」と返す先生。
「何か、困っていることがあれば私たちを頼りなさい。春場君、そして鳴海さんも」
「は、はい!、ありがとうございます。」
美柑は驚きながらも返事を返した。
「今でも十分頼らせてもらってますよ。これからもよろしくお願いします」
と、若干大人な言葉を口にする練。
そうしていると、校長室のドアがノックされた。
「どうぞ」
先生がそう言うと、校長先生が入ってきた。
「漆原先生、確定ではないのですが……」
と不安そうに、話を切り出す。
「伺います」
「校門前に不審者が現れました」
三人は息を飲んだ。
「すぐに向かいましょう」
「現状、他の先生たちに確認へと向かってもらってますが念のためお願いします」
そう聞くと、先生は二人に指示を出した。
「春場君は私の後方支援、鳴海さんは悪いけど剣を借りるわね。
春場君と一緒に後方で待機していて頂戴」
「「了解しました」」
二人はそう言い立ち上がった。
美柑は先生へ剣を手渡し、練は壁に立てかけてあった大杖を手に取る。
こうして、校長室を後にし、校門へと向かった。
***
小走りで校門へと急ぐ三人。
校舎の玄関を出ると校門が視界に入った。
校門前では、三人の先生が門の前で人と言い合いになっていた。
ひとまず、校門の近くにいた先生に話しかける。
「何がありましたか」
先生は、反応に困りながら「それが……」と回答に困っていた。
「やんのか、ちょっと待ってろ!? 」
校門の向かいにいたのは、酔っ払いのおっさんだった。
校門の柵を掴みよじ登ろうとする。
「警察を呼びますよ!危ないからやめてください! 」
先生が静止しようとするも、酔っ払いは止まらない。
だが、柵を上ろうとしてもうまくいかずやがてこけて後頭部を強打しながら地面へ倒れた。
「うぅ……痛い……」
と、その場にうずくまる酔っ払い。
あーあ、と通用口から先生が外に出て、話しかける。
だが、反応は薄く、「痛い……」としか言わない。
仕方ない……と、先生が救急車を呼ぶために職員室へと向かって行った。
それを、静かに見守っていた、漆原先生と二人だったが、ふと異変に気が付いた。
それは、目の前の酔っ払いからではなく、その場の空気が凍るような何かを感じたといった方がよかった。
視認していないが空気を感じ取り、剣を抜く漆原先生。
直後、校門の向こう側に何かが飛んできて着弾した。
アスファルト片が飛び散り、校門がカンカンと音を立てた。
砂埃が止むとその着弾点には魔人がガニ股座りしてこちらを見ていた。
足はカエルのように筋肉が発達していてそれで飛んできたのが推察できる。
「ひっ」
外に出ていた、先生が悲鳴を上げる。
漆原先生はすぐに反応し、魔法で校門を飛び越え外に出た先生の間に入ろうとした。
だが、それより魔人が早く動いた。
素早く校門側へ突進してきた。
が、狙いは先生ではなく、転がっていた酔っ払いだった。
酔っ払いの首ねっこを掴むとそのまま引きずってすぐに距離を取った。
漆原先生は、先生の前に立つが実質人質を取られた格好だ。
数秒、にらみ合いの沈黙が流れた。
すると、魔人は酔っ払いを抱えて、再び跳躍して飛んで行ってしまった。
ただ、人を抱えているので短距離を飛んでいるだけのような格好だ。
「二人はここで待機、追いかけるわ」
漆原先生はそう言うと、風魔法で同じように跳躍し追いかけて行った。
呆気にとられる練と美柑。
「行っちゃった……」
美柑がそうぽつりとつぶやく。
魔人と先生の姿は、すでに見えない。
「とりあえず、ここにいればいいんだよな」
練がそう美柑に質問した。
「待機って言われてるからそうなんじゃない?
あの魔人は、先生がどうにかしてくれるだろうし」
美柑はそう言うと、近くにあったレンガ造りの花壇に腰掛けた。
「しかし、えらいことになったな。
まさか、魔人がこのタイミングで襲来するなんてな」
「全くね」
そう話をしていると顔見知りの先生が話しかけてきた。
「春場君、冷静なんだね」
そう話す先生の顔は青く冷汗が滲んでいた。
「入学したてとは言え、自分たちも魔法師高校の生徒ですからね。
と言っても、今回は先生がどうにかしてくれると思うので」
「魔人を見て怖くなかったのか?」
「ここで、一度見ているので」
練はそう言い校舎を指さした。
「そうだったな……、いや、だからこそか」
そう言う先生も、不安そうな顔をしつつどうにか自分を落ち着かせようとしていた。
そんな時だった。
ふと、視界に人影が写った。
校門を挟んで、こちらを見ている。
練と美柑はそれに気が付いた。
その人影を見返し様子を見ていると、校門に手をかけた。
すると、校門の鉄格子から軋むような異音が鳴り響いた。
目の前の人は、まるで飴細工のようにいとも簡単に校門をぐにゃりと曲げて、人が一人通れるだけのスペースを開ける。
そのスペースから学校に入ってくる人。
美柑はただ一言、「春場君」と呼びかけ立ち上がる。
練は、魔法を凝縮させ、土で作った即席のこん棒を美柑へ渡した。
「漆原先生へ連絡はしておく。時間稼ぎでいい。
先生、職員室に戻ってすぐに通報を」
美柑と、その場にいた先生へ指示を出した練。
「わ、わかった」といいすぐにその場から離れる先生。
美柑は相対した魔人に向かって歩き出す。
練は、携帯を取り出し、漆原先生へコールする。
しかし、コールには出ない。
仕方ない、と携帯をポケットにしまい大杖を構える練。
目の前にいる魔人は、うめき声をあげている。
そして、爪だと思われるが手先が鋭く伸びていく。
(即席で体を変化させれるタイプか。取り逃がすと厄介だな)
練はすぐさま、魔法を展開。無数の氷柱が魔人を襲う。
だが、それらは、魔人が展開した防御魔法陣で防がれる。
(こいつ……!?)
魔人でも魔法を扱える個体というものは存在する。
中でも、高知能の個体は、魔法師のように魔法を繰り出し魔人の驚異的な身体能力で攻撃してくる。
(これは、時間稼ぎでも命がけだな)
そう思った練。
「鳴海! 油断するなよ! ……おい、鳴海! 」
練は美柑へと声をかけた。
だが、美柑の様子がおかしい。
後ろ姿しか見えないので、顔は分からないが、いつもより腰が引けているうえに体も震えているように見える。
そんな美柑へ声をかけるがレスポンスがない。
普段なら、すぐさまにでも突撃していきそうなものだ。
練が美柑に呼びかけている間に、魔人は動いた。
その場で、足に力を貯める動きをすると大きく跳躍した。
美柑や練達を飛び越え、校舎の方へと飛んだ。
「させるかよ!」
練は魔力のひもを魔人へと射出した。
そのひもは魔人の足へと引っ付くと同時にピンとひもが張られ、勢いよく飛んでいた魔人は顔から地面へダイブした。
地面はひび割れ、かなりの衝撃を与えたと思い、すぐさま氷柱を生成しそれを射出する。
だが、魔人の行動も素早かった。
足につながっているひもを爪で切り裂き、すぐに起き上がると爪で氷柱を薙ぎ払う。
そして、校舎へ向かって駆け出す。
(まずい!)
慌てて、追いかけようとする練。
だが、その前にふと美柑の事が気になりそちらを見た。
すると地面へ、へたり込んでいた。
「おい! 鳴海! 」
そう呼びかけるも、反応はない。
練は仕方なく、一人で魔人を追いかけて校舎へ入った。




