美柑編「中学校表敬訪問1」
入学して新入生の浮足立った足が、地に着き始めたころ、学校は中間テストを迎えていた。
学校入って初のテストに、生徒たちにも緊張感が張り詰めていた。
この学校の偏差値は平均には届かない程度の偏差値である。
入学させても、勉強させる気はそこまでない上に、この学校では魔法が使えることの方が価値があるからだ。
とはいえ、仮にも高等学校。最低限のことは要求される。
幸いにも練と美柑は、そのボーダーは超えており、中間テストは難なく乗り越えた。
わからないところがあれば、学力秀才のたえに聞いたりしていた。
そんなこんなで、テストが終わった後のホームルーム。
「今日は、午後の教練はありません。みなさん英気を養って明日以降に備えるように」
と、先生からのありがたいお言葉を頂く。
「ああそれと。後で、春場くんは鳴海さんと一緒に、職員室に来るように。では、これで終わります。起立」
そう言われ、全員が起立する。学級委員長の号令で一礼し各々が解散となった。
(鳴海も呼ばれてるってことは、ペアに関することだよな……)
そんな予感を胸に、ひとまずは鞄に荷物をまとめ、美柑の元へ向かった。
***
「勧誘訪問への同行、ですか?」
職員室で待っていた、漆原先生に二人は声をかけた。
「そう、あなた達も中学生のころにうちの学校の訪問があったでしょう?
その訪問の際に、現役生も連れて行くのだけれど、二人を連れていきたいの」
先生にそう言われ、二人で顔を見合わせる。
そして、美柑は先生に不思議そうにこう答えた。
「あの、質問いいでしょうか」
「何かしら?」
「私たちより先輩方の方が適任ではないでしょうか……」
そう質問した。
学校の雰囲気や学生生活の面を取りあげるなら先輩方の方が適任だろう。
二人ともそう感じたからだ。
「ええ、基本的にはそうね。けど、今回行く学校はあなた達が適任と判断しました」
「と、言いますと?」
練は先生に具体的な説明を求めた。
「今回、同行していただく学校は春場君が去年まで通っていた中学校です」
そう言われ、練は去年のことを思い出す。
魔人が出たこと、それを打倒したこと。
「春場君の学校であれば、山吹さんも同じ学校でしたよね。
私ではなく、山吹さんが適任なのでは?」
美柑は、たえを推薦した。
「なんだ、知ってるのか」
「ええ、ペアを組んでしばらくした後、いろいろと聞かれたわ」
美柑はやれやれと言った様子で、そう答える。
「そこは、鳴海さんと春場君の実戦経験の有無の点を評価してのことです。
もっとも、山吹さんも完全な素人、というわけではないようですが」
「山吹さんが……?」
不思議そうにそう答える美柑。
「あの学校は去年、魔人が侵入し事件を起こした現場です。
その現場の当事者の一人が、今魔法師高校にいて活躍している。
これは、良い宣伝になるとの判断です」
先生は端末を見ながら、そう返した。
「近日中に訪問する予定ですが、詳細は端末に送信しておきます。
各自一読しておいてください。話は以上です」
そう言い立ち上がり、敬礼する先生。
二人もそれに合わせて敬礼した。
***
「と、言うわけでご紹介します。魔法師高校大阪分校よりお越しいただいた漆原先生、そして生徒の鳴海さんと春場さんです。
みなさん拍手で出迎えましょう! 」
司会をしてくれている学年主任の先生に案内され体育館のステージに上がる。
無論、美柑と練は武装を携帯したうえでの参加だった。
練にとってステージの上から見下ろす光景は、ある種実家に帰ってきたような安心感があった。
懐かしい制服に身を包んだ生徒たち。
見知った先生の顔。
まさか、こんな形で色々あったこの場所に帰ってくることになるとは、と練は思っていた。
課外授業として、魔人についての基本情報や、大阪分校の紹介などを漆原先生が行ってくれる。
制服を紹介する際には、マネキン代わりとしてステージ中央に立たされる。
何事もなく、授業は終わり最後に定番の質問コーナーへと移った。
何人かが手を上げる。
当てられた女子生徒がマイクを渡され立ち上がる。
「学校の雰囲気や、授業の雰囲気を聞きたいです。あと、全寮制と聞きましたが生活はどうですか」
質問を受けて美柑にマイクが回ってくる。
「学校の雰囲気は、中学校の時ととそんなにかわらないですね。
ただ、魔法師としての心構えは常に持つように、というのはよく言われます」
と、話始める。
いつも練に当たってくる際の雰囲気ではなく、優等生モードだ。
美柑が一通り話し終わると、今度は男子生徒に質問が当てられる。
その生徒に、練は見覚えがあった。
(あいつ……)
それは、この中学校に在学中の部活動の後輩だった。
「男子生徒……、練先輩にお聞きしたいです。
練先輩から見て学校生活はどうですか! 楽しいですか! 」
その目は純粋無垢な目なように見せて、何かを引き出そうとしている邪悪なことを考えてる目に見える練。
「えー、なんて言うかな……」
発言に困る練。
だがそれでも、代表として来ているからこそ、まじめに答えなくてはならない。
「楽しいか、楽しくないかで言えば、楽しいです。
けど、いままでとは違う充実感があると言えばいいのかな」
悩みながらも言葉を紡ぐ練。
「うちの学校に来る人はみんな何かしらの思いをもって入ってきてる。
人の役に立つ、そのために技術を磨く。
そんな仲間と切磋琢磨できる環境が、充実感を与えてくれてるのかな。
普通の学校の部活動とはまた違ったやりがいが楽しいです」
と、話を締めくくる。
その言葉に、ぽつぽつと拍手が起きやがて大きな拍手になる。
あはは、と照れながらマイクを返し美柑の方を見ると「ふーーーん?」と言いたげな表情をしていた。
***
授業が終わり、体育館を後にした先生と二人。
先生が車を出してくれていたので、さあこれから帰ろうというときに、先生に電話が入った。
「もしもし、お疲れ様です。漆原です」
最初は、落ち着いた様子で電話をしていた先生だったが、やがて険しい表情になる。
「はい、はい、わかりました」と言い電話を切った先生は二人にこう告げた。
「予定が変わったわ。学校への撤収は一時中止。現在位置を護衛せよ。
と、学校から指示が出たわ」
「何かあったのですか?」
美柑がそう聞いた。
「この付近で、異常な魔力の塊を検知した。
という報告が上がったみたいね」
異常な魔力の塊を検知した。これは言い換えれば魔人が近くに潜伏している可能性があると言っているのである。
魔人は、その異常な筋力や回復力、生命活動自体に莫大な魔力を消費している。
その過程で、無意識に魔力を放出しており、これを検知できれば魔人災害の被害をある程度抑えることができる。
無論、必ず魔力を検知すれば魔人がいるわけではないが、関連性はあるとされている。
「状況を確認できるまで、私たちはこの学校の警護に就け。
以上が、現状の任務です」
「「了解しました」」
練と美柑は、二人揃ってそう言った。
自然と気合が入る。
すると、学校の呼び出し音も鳴る。
「全校生徒にお知らせします。
ただいま、魔人警報が発せられました。
繰り返します。魔人警報が発せられました。
解除されるまで、校外へは出ないでください」
学校にも連絡は来ていたようだった。
「一旦、職員室へ行きましょうか。
我々が残ることを報告しに上がらないと」
そう言い、先生は歩き出した。
二人もそれに続いた。




