美柑編「買い出し」
入学して二カ月が経ったある休日。
練は都市部へ出ていた。 理由は、ある人物からの急な呼び出しだった。
待ち合わせ場所に着いた練。
そこは、大型商業施設が建っていて各種家電を売ってる店や家具なんかも取り揃えている店。
服屋にゲームセンターとなんでも揃う場所だった。
念のため、待ち合わせの時間よりかなり早く来ていた練だったが、相手もすぐに来た。
「待たせたわね。じゃあ行きましょうか」
そう言い美柑は、歩き出した。
練にとっての初デート。それは買い出しの荷物持ちだった。
***
買い出しとしては、カーテンやミニテーブルなどを買いに来たようだった。
それらを電子カートに収めていく美柑。
「けど、これなら俺が来るまでもなかったんじゃないか?これ後で送ってもらえるんだろ?」
と、練は美柑に質問した。
「掃除機だけは今日持って帰りたいのよ。だから荷物持ちとして、仕事しなさい」
そう言われてしまう。
無論、この荷物持ちを断ることもできたのだが、キスの件はこれでチャラにしてあげるから付き合ってと言われれば来ざるを得なかった。
「にしても、なんで掃除機だけ持って帰るんだ?」
そう聞いた練に対し、美柑はこめかみを押さえながらこう話した。
「今日、久しぶりにお菓子でも焼こうと思ったのよ。そうしたら小麦粉の袋をひっくり返しちゃって。
で、実家から持ってきた掃除機を使おうとしたら動かないってわけ」
「あー、なるほどな」
確かにそれはすぐに掃除機が欲しくなるな、と思った練。
「ていうか、お菓子作りって趣味なのか?」
そう聞くと、美柑は答えた。
「これでも、昔はパティシエールになりたかったの。
で、それの名残で今でもお菓子を焼いたりするわけよ」
「なんで、その夢から魔法師になるって選択肢になったんだ?」
そう聞くと、一瞬美柑は固まった。顔をこわばらせたようにも見えた。
「そうね。しばらくはペアなんだし、知っておいてもらってもいいわよね」
そう言い、美柑は語りだした。
「私ね、両親がいないんだ」
思わず「えっ」と口に出してしまう練。
「私が小学生の時に、魔人に襲われて、私を庇ってくれてね」
思わず黙り込んでしまう練。
「私も魔人のエサになる寸前のところで魔法師に助けてもらったのよ」
言葉が出ない練。
「そこから、おばあちゃんのところにお世話になったんだよね。
おばあちゃんは、ちょっと過激なところがあったけど私を大事に育ててくれたわ」
「過激なところ? 」
「なんて言うかな、男が生み出せるのは糞だけだ! とか平気で言っちゃえる人」
「あー」
それで、なんとなく察してしまった。
「私も共感できなくはない部分はあったのだけど、それでもおばあちゃんはなかなか尖っててね……」
何とも言えない、といった表情をする美柑。
練はそれに対して話題を変えた。
「なら魔法師になったのは、助けてもらった魔法師に憧れて、学校に?」
そう言葉をなんとかひねり出す。
「それもあるけれど、私の両親を殺した魔人はね。まだ殺されてないの」
「それって……」
「ええ、まだどこかで生きているわ」
たいていの魔人は、見つかり次第討伐される。
だが、ごくまれに捜査網を搔い潜り長い間行方をくらませる魔人も存在する。
そう言った魔人はレッドリストに入れられ、名前もつく。
「私が魔法師になるのは、お父さんとお母さんの仇を討つ為、でないと私は前に進めない」
そう言い切る美柑の瞳はまっすぐであり、命を顧みない危ない雰囲気も持っていた。
かける言葉が見つからなかった練だったが、それでも出てきた言葉は「拾って貰った命だ、大事にはしろよ? 」だった。
***
時刻は夕方になり、買い物を済ませた。
二人は駅の方へ向かって歩いていた。
休日の都市部とあって人でごった返している。
その群衆の中をはぐれないように歩いている二人。
だが、駅の方角から群衆が逃げるようにこちらへと向かってきていた。
「何かしら」
そう美柑が言った直後だった。
空気を切り裂くような叫ぶ音が聞こえた。
少し離れているのか音圧はそこまでなかったが、到底人が出せるような音ではなかった。
二人は顔を見合わせると、すぐにその音の元へと向かった。
現場は、地下で群衆に逆らうように走って進む。
やがて、見えたのは刺股を持った駅員と警棒を伸ばしている警備員。
そして、その向こうには土色の顔をした人らしきものが立っていた。
「魔人ね」
「ああ」
二人は顔を見合わせた。
練は買った掃除機をその場に置いた。
そして、二人で近づいていった。
「君たち何をしている! 早く逃げなさい! 」
何も装備していない駅員が二人を制止しようとしていた。
「私たちは、魔法師高校の生徒です。通報はすでに行っていますか? 」
と、美柑が駅員に質問した。
「ああ、非常通報は行っている。けど、君やれるのか?」
まだ、中学生そこらの見た目の子が武器もなしでのこのこと現れたのだ。
そのまなざしは、期待の眼差しではなく練達を心配しての眼差しだった。
「ご心配なく。春場君」
そう練に呼びかけた美柑。
すかさず錬は、手元で魔法を凝縮させて、土で固めたこん棒を造る。
「即席だからこれくらいしか作れない。いけるか」
そう言いながら、こん棒を渡す。
「倒そうなんて思ってないわ。時間稼ぎができれば十分。やるわよ」
そう言いながら、刺股を持った駅員より前に出た。
その瞬間、美柑は一気に間合いを詰めて、こん棒を振り下ろす。
振り下ろされた一撃は、魔人の左腕で弾かれてしまう。
魔人の左手と腕は、普通の人間とは思えないほど膨張している。
が、カニの甲羅のように固く、弾いた際の衝撃音も、生身の肉に当たった時の音ではなかった。
すかさず、右手で美柑のことを掴もうとする。
が、伸ばしてきた右腕に今度は正確に一撃を叩きこむ。
先ほどの音とは違い生身に一撃を与えた音がした。
すると、さっきとはうって変わって苦悶の声を上げる魔人。
そして、上段からまっすぐ一撃を魔人の頭部に振り下ろし、魔人は後ろに数メートル吹っ飛んだ。
「しゃがめ! 鳴海! 」
練はそう言い放つと、基本魔法の雨を魔人へと降らせた。
着弾すると同時に辺り一帯に砂埃が舞い散り練達の顔に吹き付ける。
砂埃の嵐がやむと、血だらけになった魔人が倒れていた。
数秒様子を見たが動く気配もなかった。
ふーっと息を吐き、こちらへ歩いてくる美柑。
「お疲れ様」
「ああ、お疲れ様」
と、互いに労をねぎらい安堵した。
が、次の瞬間、錬の瞳には、左手でその辺のコンクリートの破片を掴んで今まさに投擲しようとしている魔人の姿が映った。
そこからはとっさの反応だった。
練は、美柑の腕をつかみ思いっ切り自身に抱き寄せた。
同時に、防御魔法陣も展開する。
が、展開しきるより早く魔人が破片を投擲した。
(間に合わない! )
思わずそう思ってしまう。
破片はまっすぐ練達へ向かって飛んでいった。
そして、練の出した防御魔法陣に石が直撃する。
魔法陣は粉々に吹き飛び、練達に砕けたコンクリートの破片が飛来する。
が、魔法陣で威力は削がれたのか、どれも二人を小突く程度の威力にしかならなかった。
血まみれになりながらもふらふらと立ち上がった魔人。
が、後ろから一発の銃声がした。
その銃声の直後、魔人は力なく崩れ落ちて前のめりに倒れた。
その様子をあっけにとられて見ていた二人。
銃声がした方を見ると、魔法師のペアが来ており撃ったのは銃を持った魔法師だった。
はあぁ……、と、ため息をつきながら正面を向くと美柑の顔がちょうど真下にあった。
互いに至近距離で見つめあう二人。
サラサラのロングヘア。
キレイでまっすぐな瞳。
整った顔立ち。
そして、リップを塗ってあるのか少しツヤがある唇。
それらに、思わず見入ってしまう。
(この唇に……キス……したんだよな……)
そう、思わずにはいられない練だった。
が、ハッとしたのか練から離れた。
「わ、悪い。ついとっさで……」
そう言いながら、顔が赤くなっているのを自覚する練。
また、美柑から暴言を受けるのを覚悟した。
が、それよりも早く、声をかけてきたのは魔法師の制服を着た人だった。
「二人とも、ケガは?」
その言葉で、我に返った練と美柑は互いに「「大丈夫です」」と揃って返事した。
「君、大阪分校の生徒だよね」
美柑にそう聞く魔法師。
「は、はい! 」
「彼氏か知らないけど、現場に一般人を連れてくるのは良くないかなー」
そう言う魔法師の人は目が笑ってなかった。
最初は言っている意味が分からなかった二人。
だが、意味を察した練は慌てて、答えた。
「あ、私も大阪分校の生徒なんですが……」
そう答えたが、魔法師の反応は冷ややかだった。
「何言ってるの君? 」
と、言われた。
そこで、美柑も状況を察したのか、練にこう言った。
「春場君、魔法見せてあげたら」
そう言われたので、手のひらに小さな魔法陣を作って見せる練。
その様子を見て目を丸くする魔法師。
「君は……!? 」
そう言うと、改まって魔法師の人は二人を見て、こういった。
「魔人討伐に関して、後で事情聴取を受けていただきます。
いいですね?」
そう言われ二人そろって「「はい! 」」と答える。
「でもまずは魔人討伐に関して、初動対応、お疲れさまでした」
そう言いながら敬礼する魔法師。
それに対して、慌てて敬礼し返す二人。
突発ではあったが、初仕事を終えた二人だった。




