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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第8話 第一共同実習場

 スラリと伸びた手脚に黒縁メガネを光らせた男の、氷を砕くような声がリリアの鼓膜に突き刺さる。


「え、あの、参加できないって、どうしてですか!?」


 試験官の男はメガネの鼻当てをクイッと持ち上げると、ため息混じりの声を漏らす。


「そのままの意味ですよ。まったく、こんな満足に動くこともできない奴を通すなんて、受付は何をしていたのやら・・・・・・」


 背筋を冷たい汗が流れる。凍てついた心臓が冷めた血液を強制的に送り出す。


「ここには、歴史あるファンダリア魔法学園に入学するために、多くの才ある者が集まっています。貴女のような冷やかしが来るべき場所ではないのですよ」


 ジロジロとリリアを見下す試験官は、笑うように鼻を鳴らす。


「で、でも、受験要綱には、年齢制限以外の規定はなかったはずです」


「それは記載していないだけです。受験するに当たって、最低限の能力を有していることなど当然のことでしょう。まったく、これだから平民は・・・・・・」


 ハッと何かに気付いたリリアが周りを見回すと、正装した受験者達が迷惑そうな瞳でリリアを睨みつけていた。


 まるで白鳥の群れに紛れ込んだカラスを見つめるような、自分達とは異なる異物を排除しようとするような目。


 ボソボソと聞き取れない声が辺りを包み始める。


 無言で項垂れるリリアの頭上から冷めた声が降り注ぐ。


「納得できないのなら、試験官権限で言ってあげましょう」


 聞きたくない。


 今すぐ両耳を手で塞いでしまいたい。


「貴女は不合格です。試験の邪魔ですので、早々に帰宅してください」


 クスクスと幾つもの嘲笑が聞こえてくる。


「てか、なんだよあれ。椅子に車輪つけて馬車の真似事か? 馬の真似がしたいなら、厩舎にでも行って糞に塗れてろよ」


 誰かが放った言葉が呼水となり、周りから次々と言葉が溢れてくる。


「ていうか、あれどこの家の奴だよ」


「見窄らしい格好で、変な椅子に座って、あれで注目を集めてるつもりかしら」


「わたくし、筆記試験の時に見ていましたけど、椅子に寝そべって、みっともないったらありませんでしたわ」


 騒音で満たされていく空間を、試験官の男はニヤニヤと笑いながら静観している。


 視界が歪む、心臓が痛い、胸が焼ける。


 悪気のない悪意の奔流に意識が押し流される。


 震える右手でペンダントを握りしめる。


 まだ、諦められない。


 諦めるわけにはいかない。


 奇異の目に晒されることなんて、今に始まったことじゃない。


 魔法は貴族の物。魔法学園に集まる人間の殆どは貴族なんてことは、初めから分かっていたことだ。


 ギュッと唇を噛み締め、決意を固める。


「あのッ!」


「試験官に参加者の合否を判断する権限があるなんて、知りませんでした」


 ざわめく周囲の声を切り裂き凛と響く、よく通る声だった。


 声のした方を睨みつける試験官の表情が一瞬で強張る。


「今日の責任者は誰でしたっけ?」


「はい、事前の資料では、確かディートリッヒ教授だったと記憶しています」


 ざわめく周囲の声の質が、さっきまでとは明らかに変わっていく。


「ディートリッヒ教授なら知っているわ。気になるから、ちょっと聞いてきてもらっても良いかしら?」


「かしこまりました」


 声の主を探して振り返った先には、知り合いのいない王都で、数少ない見知った顔がそこにあった。


「えッ、アナタは昨日の!?」


「あら、また会いましたね。受付は間に合ったようで何よりです」


 エリスの指示を受けたスーツ姿の女性が、その場を離れようとするのを試験官の男が慌てて静止する。


「エリス様、なぜこのようなところに!? お待ちください、これは何かの間違いで」


 静止された女性が試験官の男を睨む。


「貴方ごときが、エリス様のお考えを阻むなど、身の程を知りなさい」


 女性の威圧感にたじろぐ試験官は、しどろもどろになりながら、なんとか弁解しようとしている。


「そうですね。間違いです。貴方は判断を間違えた」


 研ぎ澄まされた刃のような冷たい声が、試験官の男を刺す。


「ですが、過ちは誰にでもあります。貴方が過ちを正したいと望むなら、私はそれを止めるつもりはありません」


「・・・・・・その子の受験を認めます」


 意気消沈した試験官が消え入りそうな声で呟く。


「あの、何度もありがとうございます」


車輪を前後に操作して振り返ったリリアは、深々と頭を下げる。


「べつに良いよ。私は私のやりたいことをやっているだけだから、気にしないで。それよりも、試験頑張ってね」


 目の前に広がる木々の隙間から流れた風が、去っていく艶やかな黒髪をそよめかせる。


 最初よりも覇気の弱くなった試験官が、試験内容の説明のために口を開く。


「おほん、では、試験内容の説明に入ります。試験内容は単純です、実習場の森に放たれた白爪兎シロツメウサギを日没までに捕まえることができれば終了となります」


 兎を捕まえるだけという試験内容に、受験者達の間に緩い空気が流れ始める。


「捕獲する数に制限は設けません。捕獲していただいた白爪兎は反応薬の材料とします」


 反応薬という言葉に、リリアの眉がピクリと反応する。


「では、各自準備が出来次第出発してください」

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