幕間 第6.5話 夜の帳、宿屋にて
机の上に灯したランタンの火が、ユラユラと揺れ、閉ざした木製の窓からは、夜風が微かに流れ込んでくる。
ベッドのすぐ横には車椅子を付け、肩幅よりも少し広い程度のベッドの枕元には、翌日に着ていく予定の服が、綺麗に畳まれていた。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
繰り返す言葉は誰に届くでもなく、部屋の薄い壁に反射して、自分の耳へと帰ってくる。
膝下まで伸びた黒いネグリジェの裾から覗く白い脚がスラリと伸び、頭の両側で二つに結ばれた銀の髪が、鎖骨から胸へと流れていく。
もう何度も開いて確認した鞄を開く。
「ペンよし、インクよし、受験者賞よし・・・・・・」
明日に控えている、ファンダリア魔法学園への臨時入学試験の内容は、筆記試験と実技試験の二本立てになっている。
ただし、その内容は当日まで各受験者に知らされることはなく。
そして、その内容も毎回違うものになっていた。
ある年の試験では、筆記試験に出た魔法薬学の内容を、実技で再現する試験もあったらしい。
しかも、材料も用意されておらず、全て現地調達だったとか・・・。
筆記試験の科目と範囲には、毎年ばらつきがあるが、それ自体はそれほど問題ではなかった。
問題は・・・・・・。
「実技試験・・・現地調達とか言われたらどうしよう」
魔道装具の調整は最大限している。ただしそれでも、通常起動で10分動くかどうかといったところだ。
白いレースの刺繍が施された胸元に手を当て、深呼吸を繰り返す。
それでなくても、実技試験の内容が、学園側が用意した魔道具を使うものだった場合、リリアはなす術なく不合格となるだろう。
ドサリとベッドに倒れ込んだリリアは、両手をバタバタと動かして悶える。
「あーぁ、胸がザワザワして落ち着かない」
仰向けのまま、天井に伸ばした手をギュッと握りしめる。
「大丈夫、大丈夫。前を向くって決めたんだから、絶対に合格するんだから」
頭を横に倒し、側に置かれた机を見る。
淡いランタンの火を反射したネックレスが、キラリと光を放つ。
リリアは大きく息を吸い込むと、両腕で上体を起こし、ベッドの上を滑るように進む。
「よし! やっぱりもう少し調整してから寝よう!」
薄明かりの中、燃え削れていくランタンの芯の音と、白銀の魔道装具を調整する工具の音だけが響く。
薄いネグリジェの上を揺れる銀髪だけが、いつまでも照らし出されていた。




