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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第34話 戦闘開始

 勢い良く蹴り上げられたリリアの右足を上半身を捻るようにしてかわした男が、思いきり上げられたリリアの足首を掴みにかかる。


「––––––ッ!」


 危険を感じたリリアは、掴まれるよりも速く脚を振り下ろした。


 ズンッ!


 と鈍い音を立てて床の石が砕ける。


 そのまま振り下ろした右足に重心を移し、全身を回転させ回し蹴りを放とうと身を捻った瞬間。


 男の直線的な右足がリリアの足首を捉えた。


 これから回転の軸になろうとしていたリリアの右足が、外部から加えられた不測の衝撃にバランスを崩す。


「ハハハハハッ!」


 真っ直ぐ顔面へと迫る男の右手を、反射的に手で払おうとしたリリアの手首が容易く掴み返される。


「オイオイオイオイ、舐めてんのかぁ?!」


 男はバランスを崩しているリリアの体を強引に引っ張ると、そのまま背負うように後方へ投げ飛ばした。


 空転する視界の端に男の姿を見たリリアの体は、そのまま地面へと叩きつけられる。


「かはっ!」


 背中に走る鈍痛と肺から押し出された空気が口から漏れる。


「いつまでも寝てんなよ。早く起きねえと消し炭にしちまうぞ!」


 どこかリリアを嘲笑うような言葉と同時に、炎の塊がリリアへ向けて放たれる。


 決して速くはないその炎の塊を転がりながら必死に回避したリリアは、慌てて上半身を起こすといつでも走り出せるように両脚を地面へと接地させる。


「ハハハハハッ! 避けろ、避けろ!」


 まるで子供が玩具を使い潰す時のような笑い声を上げた男が、次々と炎の塊を飛ばす。


 リリアは男から放たれた炎弾が真っ直ぐとしか飛べないことを確認すると、男を中心に円を描くように駆け出した。


 地面を蹴って駆け出すリリアの脚が一歩ごとに加速していく。


 引き伸ばされるように流れていく景色の中心に男を捉えたまま走るリリアは、次々と繰り出される炎弾が切れた一瞬の隙をついて男へと向きを変えた。


「お?」


 リリアの体が自身へと向けられたことに気がついた男が、次の炎弾を充填しながら睨む。


 リリアは男の魔道具をチラリと見ると、全力で駆け出した。


「おお?!」


 高速で突っ込むリリアの体はその勢いを殺すことなく、男の少し手前で跳躍し、さながら一つの塊となって男へと飛来する。


「おおお!」


 驚く男の脇腹に突き出されたリリアの脚が触れようとした瞬間、服の先を掠めた脚先が空を切る。


 そのまま全身が通り過ぎたリリアの身体は、空中を真っ直ぐ壁まで飛んでいく。


 両脚をバネにして何とか直立した壁に着地したリリアは、身体が重力に従うよりも前に、再度男の姿を視界に収める。


 両脚から走る蒼雷が石の壁へと吸い込まれていき、膝を折り曲げ小さくなったリリアが、両脚のバネを一気に解放させる。


 乾いた破砕音と僅かに沈む感覚を足裏に感じながら、再びリリアは飛翔した。


 押し迫る空気の壁が、リリアの銀髪を後方へと追いやっていく。


 蹴り出すと同時に回転を始めていたリリアの体が、空中で姿勢を整え、突き出した右足はさながら一本の矢のようにして男へ吸い込まれる。


 鋭く放たれたリリアの右足は、狙ったとおりの男ではなく。


 またしても空を切り地面へとぶつかる。


 込めた衝撃の全てを右足で受け止めながら、残った左足でブレーキをかける。


 ガリガリと削られていく石の床に、2本の轍を刻みながら止まったリリアの瞳に赤い線が映る。


「その両脚の魔道具か? 確かに速いけどよ、動きが単純すぎるんだよなぁ。まるで人間じゃなくて人形と戦ってるみたいだぜ」


 男は飽きた玩具を捨てるように、淡々と言葉を紡ぐ。


「やっぱ、つまんねぇよアンタ」


 男の魔道具が再び熱を取り戻し、赤く溢れた炎の軌跡が形をなしてボトボトと地面に落とされる。


「クリメイションスネーク」


 次々と落とされるそれらは、まるで蛇のような見た目となって、男を中心にズルズルと高速で床を埋め尽くしていく。


 鉄の焦げた臭いにふと足元を見ると、一匹の赤い蛇がリリアの足首に巻き付いていた。


「いやっ!」


 絡みつく蛇を払い除けるように、強く跳躍したリリアの身体は、数度の跳躍を経て広場の壁際まで後退してきていた。

 

「ハハハハハ、逃げるなよめんどくせぇ。とっとと呑まれて灰になろうぜ!」


 まるで一つの塊のように蠢く蛇の群れは、少しずつだが確実にリリアの行動範囲を蝕んでいく。


 男の右腕からボトボトと生み出され続けていた炎がピタリと止まる。


「オーバーヒートですよね・・・・・・」


 リリアの言葉に男の眉がピクリと動く。


「へぇー、よく見てるなアンタ。もしかして魔道具に詳しいクチか? この魔道具、量産品じゃなくてオーダー品なんだがなぁ」


「一応、魔道具技師をしていますから」


 男はジリジリと壁際を伝い歩くリリアから視線を外さず笑う。


「どおりで戦い慣れてないわけだ。で? そのご立派な技師様が、俺の魔道具の性能の一部を言い当てたからって何になる?」


 男の指先がリリアの脚を指す。


「その魔道具で、俺の炎を片っ端から蹴り飛ばしてみるか? 俺の炎とアンタの脚、どちらが先に無くなるか試してみるのも良いかもなぁ!」


 ケタケタと笑う男の目は笑っていない。


「おら、とっととかかってこいよ。逃げてばかりじゃお友達を助けられねぇぞ!」


 挑発的な男の言葉に、リリアの脚がピタリと歩みを止める。


 ジワジワと距離を縮めてくる、炎の蛇の群れの熱気を肌に感じながらリリアが口を開く。


「本にも載ってはいたんですけど、さっき壁に着地して確信しました」


 リリアの言葉が終わりからことを待たずに、男の魔道具に再び炎が宿る。


「クリメイションスネーク」


 まるでリリアの言葉になど、興味がないと言わんばかりに、男の腕から炎が溢れる。


 再び動きを取り戻した蛇の群れが、リリアの足場を奪おうと迫る。


「知っていましたか? ここの地盤には磁力を纏った鉄の地層が多く存在していることを・・・・・・」


 リリアの体が空へと跳ねる。

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