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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第33話 邂逅

 ランタンの光を片手に前へと進む。


 周りには不思議と人の姿はなく、無機質な石の壁と天井が続く。


 重く澱んだ空気の中を掻き分けるように足を踏み出すと、硬い石の床に打ち付けられた鉄の足裏が甲高い音を響かせる。


 心臓の音と、自分の呼吸の音だけを聞きながら進んでいると、急に開けた場所に出た。


 今まで通ってきた通路よりもはるかに高い天井を見上げると、整備されていない剥き出しの岩肌が露出している。


 広い空間には、今しがたリリアが通ってきた通路の出口と同じような穴が、幾つも存在していた。


 キョロキョロと辺りを見回すリリアの耳に、反響した挑発的な声が届く。


「オイオイオイオイ、侵入者っつうからよ。どんな強面のオッサンかと思ったら、随分とちっちぇえのが来たもんだな?」


 声の主は、リリアと正反対の位置に立っていた。


 赤黒いローブに赤銅色の髪と瞳。わざとらしく両手を広げ、大きく開けた口からは不揃いな歯が並んでいる。


「アンタが侵入者で間違いないんだよな?」


 真っ直ぐ突き出された指先がリリアを指し示す。


 男の問いかけに、リリアは無言で脚の魔道具へと触れる。


「無視たぁひでえじゃねぇか。まあ、アンタが報告のあった侵入者であろうがなかろうが、ここまで来た時点でオレのやる事に変わりはねえんだがよ!」


 突き出された指が拳を握る。


 長いローブの袖からチラリと覗く魔道具が、しだいに赤味を帯びていく。


「ついでに聞いておくと、アンタ誰かを助けに来たクチか?」


 リリアは短く頷くと、初めて男の問いかけに口を開いた。


「キャスリーン・オケリーっていう緑髪の女の子を知っていますか?」


「キャスリーン、キャスリーン、キャスリーン・・・・・・」


 男は顎に手を当て、何度か首を捻る。


「悪りぃな、攫ったガキの名前なんていちいち覚えてねぇんだわ。ただ・・・・・・」


 男は背にした通路を親指で指し示す。


「この奥に何人かガキを連れて行ったからな、もしかしたらアンタの探してる奴もその中にいるかもな」


 リリアは深く息を吸い込み、短く吐き出す。


 挑発するように立ちはだかる男を真っ直ぐと見つめ、鋼鉄の脚を一歩、また一歩と踏み出す。


 男は自分に近づいてくるリリアを、ただ黙って見ていた。


「そこを通してはくれませんか?」


「嫌だね」


 見上げるリリアの顔を覗き込むように、男は笑っていた。


 それはまるで、プレゼントの箱を目の前にした、子供のような笑みだった。


 リリアは何かを迷うように俯き、自身の脚を見つめる。


 沈黙するリリアに男が語りかけた。


「どうしてそこまでその女にこだわる?」


「友達だからです」


「友達なら、また代わりを探せばいいだろ」


 男の声に悪意は感じなかった。


「そんな・・・・・・。物じゃないんですから。誰かを他の誰かの代わりにしようなんて間違ってます!」


 男の顔に浮かぶ笑みは、純粋な好奇心にさえ思えた。


「間違いねえ。なあアンタ、正しいことに何の意味があるってんだ? 今まで正しさがアンタを救ってくれたか? 今ここに一人でいるアンタの姿は正しいのか?」


 リリアの拳に自然と力が入る。


「この世界は正しくなんてない。そんな世界で一人正しさを振りかざす事に何の意味がある?」


 男は笑う。


「確かに世の中には悪い人もいます。誰かを傷つけても平気な顔をして笑っている人が・・・・・・。でもそれは、私が正しさを捨てる理由にはなりません」


 リリアは笑っていない。その青い瞳には、ただ真っ直ぐと男の姿が映されていた。


「アンタ、ここへは戦いに来たんだろ?」


 反響した声が二重三重にリリアの鼓膜を揺らす。


「私は別に戦いに来たわけじゃありません。話し合いで解決出来るならそれが一番良いと思っています」


 リリアの言葉に男は笑う。歪んだ顔をさらに歪ませながら。


「ハハハハハ! 嘘だね。アンタ頭いいんだろ? 見りゃわかる。そんなアンタが誘拐犯のアジトに突入するのに説得してハイ終わり、なんて思うわけねえよなぁ!」


 男は心底理解できないといった表情で、リリアを見つめていた。


「その脚に履いてるのは魔道具だろ? 魔道具持って強引に乗り込んで奪われた物を取り返すのに、本当は戦いたくなかったんですなんて、ガキでももっとマシな嘘をつくぜ!」


 風のない広場で、リリアの髪が僅かに揺れる。


「戦わなくていいなら、戦いたくはありません。ただ・・・・・・」


「ただ?」


「大切な人を傷つけられて、そのまま黙って見過ごすつもりもありません!」


 男の目から笑みが薄れる。


「他人の為に戦うと?」


 リリアは強く頷く。


「だって魔法は皆んなが幸せになる為にあるはずですから」


 反論するリリアの言葉に、男の瞳から興味の光が消え失せる。


「あー。こんなとこまで一人で突っ込んでくる馬鹿がいるって聞いて、どんな野郎かと思ったけど、つまんねぇなお前・・・」


 大きな溜息を吐いた男は、リリアの目の前に右手を突き出す。


「てめえの欲望の為に戦えねえ奴はクソだ。戦う理由を他人に求める奴もクソだ。ようするにお前はクソだ」


 捲し立てる男の右腕に炎が灯る。


「人を誘拐するような人にクソ呼ばわりされる筋合いはありません!」


 もう男は笑っていない。


 ただ無機質にリリアの命に手を伸ばす。


「せめて少しは楽しませろよ」


 男の口角が歪む。歪んだ男をリリアは真っ直ぐと見つめたまま口を開く。


「音声入力起動」


 リリアの声に反応した白銀の装具が熱を帯びていく。


「安全弁急速全開放。回路の保持を無視、出力上限値を最大に!」


 瞬間。


 蒼雷を纏ったリリアの脚が、男の顔面に向けて蹴り上げられた。


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