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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第32話 接敵

「おい! そこに誰かいるのか!?」


 薄明かりの中で、野太い男の声と足音が響く。


「ベン!」


 ボニーがリリア達にだけ聞こえるように、声を絞ってベンの名前を短く叫ぶ。


「フュンフザイル・・・!」


 ボニーの声に反応したベンの魔道具が発動し、地面を這う縄が五本、通路の奥へ向かってうねり進む。


 それとほぼ同時に、ボニーは長い金髪をたなびかせて走り出していた。


「うわ! なんだこれ!?」


 視界の悪い足元からの襲撃に、男が手足をバタつかせて咄嗟に足元へと視線を落とした瞬間、走りながら短く跳躍したボニーの拳が男の顎先目掛けて振り抜かれる。


「先手必勝一撃必殺!」


「ぐはっ!」


 鉄と骨がぶつかる嫌な音を立てて、男は膝から崩れ落ちる。


 力無くへたる男の体にベンの縄が、スルスルと這い縛っていく。


「ちっ、時間はなさそうだね。おい、金髪ダメ男! 出してやったんだから、さっさと案内しな!」


 改めて男の体を入念に縛り上げるボニーが、振り向き声を上げる。


「こっちだ、ついて来い」


 クレイグの誘導で通路を奥へと進む。


「そういえば、どうしてクレイグだけあんな所に捕まってたの?」


 足音を響かせないように慎重に、けれど急いで歩を進めるリリアが、ふとした疑問をクレイグにぶつける。


「ああ、それはな、まあなんというか、色々あったんだよ・・・」


 リリアの問いかけに、なんとも歯切れの悪い返事を返すクレイグに、ボニーが口の端を上げながら言う。


「どうせピーピー喚いてうるさいから隔離されたんだろ!」


「う、うるさい!」


 ケラケラと笑うボニーの言葉に、クレイグが俯きがちに反論する。


「おや、図星かい? はっはっは、敵さんもわかってるじゃないか!」


 何度か通路を曲がった先で、今までまばらに点いていた灯りが、全て綺麗に点灯している場所に出る。


「ここだ、僕は最初ここに連れて来られたんだ!」


 両側に存在する鉄格子の奥には、先ほどクレイグが捕まっていた場所よりも、さらに多くの人の気配が立ち込めていた。


「おいおいおい、こりゃ何人いやがるんだい!?」


 数人ではない。


 数十人は居ようかという檻に、ボニーが思わず声を漏らす。


「・・・・・・そこに・・・・・・誰かいるの?」


 今にも消え入りそうな女性の声が響く。


「おう、いるよ! アタイ達はアンタ達を助けに来たんだ!」


 ボニーの言葉に檻の空気が変わる。


「たすけ・・・たすけだって・・・?」


「やっときてくれた・・・!?」


「お願いだ、早くここから出してくれ!」


 思い思いに口を開く被害者達の牢を破ろうとボニーが足を踏み出した瞬間、斜め後ろに立っていた“ベンの体が吹き飛んだ”


「がはっ!」


 壁に激突したベンから、うめくような声が漏れる。


「ベン!!」


「スレイブショット!」


 飛ばされたベンの方を振り向いたボニーの左肩に、飛来した空気の塊が命中する。


「ぐっ!!」


 反動で体勢を崩したボニーが、片膝をついた頭上から男の声が降り注ぐ。


「誰だこいつら? 拉致ってきた学生じゃあねえよな?」


「なんでもいい、もうここも引き払う。最後に商品が増えたと思うことにしよう」


 短剣型の魔道具を持った男2人が、下卑た笑みを浮かべながらボニーへと近づく。


「くそっ!」


 左肩を押さえたボニーの手には血が滲んでいる。


「音声入力起動、安全弁急速全開放。回路の保持を無視、出力上限値を最大に・・・」


 ボニーの背に収まるようにしゃがみ込んでいたリリアの両脚から稲妻が光る。


「ボニー、スレイブノトスの第2世代です。防御機構はありません!」


 瞬間、ボニーの背から直上に走る閃光が、通路の天井を伝い男の脳天を打ち抜いた。


「なんだぁ!」


 悲鳴を上げることもなく地面へと沈む同僚を見て、隣に立つ男が自身の横へと意識を向ける。


「チェストォォ!!」


 瞬間、視界から外れたボニーの右正拳突きが、男のみぞおちにめり込む。


「グエッ!」


 数歩後ろによろけ、前のめりによろける男の額に、回転して蹴り上げたリリアの踵が突き刺さる。


「ぺうッ!」


 空中に浮いた男の体が、重力に導かれて地面へと沈む。


「魔力排出弁解放、安全弁閉塞開始」


 リリアの両脚を纏っていた蒼雷が落ち着きを取り戻していく。


「はぁはぁ・・・リリア、あんたのそれは・・・・・・」


 肩を抑えるボニーが呼吸を荒くする。


「ボニーさん、皆んなを頼みます。私はキャシーを探しに行きます」


 高負荷をかけた装具を、即席で調整しながらリリアが言う。


「一人で行く気かい!? アタイも一緒に行くよ」


 ボニーの提案に、リリアは小さく首を振る。


「ボニーさんは肩を怪我してますし、ベンさんを地上に連れて行かなくっちゃ。それにこれは、私がやりたいことだから」


 リリアの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をするボニーは、無言で拳を握りしめていた。


 リリアとボニーの会話を聞いていた牢の中の生徒が、ポツリと口を開く。


「そのキャシーって子かはわからないけど、さっき何人か奥に連れて行かれたんだ。多分外へ連れ出されたんだと思う」


 俯く生徒はそれ以上語らなかった。


「ありがとうございます。それじゃあまだ間に合うかもしれないです」


 真っ直ぐ前だけを見つめるリリアの横顔に、ボニーが声をかける。


「こりゃ言ったって聞きそうにないね。ただ気をつけるんだよ。相手は旧式とはいえ軍用魔道具を持ち出すような連中だ、ヤバイと思ったらすぐに逃げてきな。アンタの脚ならそれができるはずだ」


 リリアはこくりと頷く。


「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、こう見えて私、無茶することには慣れてるんです」


 微笑むリリアにボニーは口元を緩ませて答える。


「はっは、見たまんまだよ。アンタはここにいる誰よりキモが座ってるさ」


 ボニーからランタンを手渡されたリリアは、ゆっくりと通路を奥へ進んでいく。

 

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