第31話 いざ地下へ
「ブルーアクア? そりゃまたどうしてだい?」
不思議そうな三人はお互いに顔を見合わせている。
「何かあったらそこを通じてエリスに連絡できるようになってるから」
リリアの話にボニーの眉がピクリと反応する。
「エリス・・・エリスねえ。それってもしかしなくても、アクア家のエリスかい? 表六家の?」
リリアは静かに肩を落とすと、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。私貴族のことはあまり知らなくて、その、表六家? っていうのはよく知らないけど、アクア家のエリスで間違いないと思うよ」
「ははあ、あの堅物エリスが人に興味を持つなんて珍しいこともあったもんだね」
意味深に頷くボニーは、その金色の髪先をいじいじとしている。
「ま、細かいことはいいさ。聞いてたねアドルフ! 今すぐブルーアクアに走りな!」
ボニーに勢いよく背中を叩かれるアドルフの赤髪が、頭と一緒にガクガクと揺れる。
「オーケーリーダーぁ。任せてくれぇ」
アドルフが叩かれるたびに肺から短く押し出される空気で、途切れ途切れになりながら返事をする。
「アタイ達はこのまま下に降りるよ!」
残された三人は、地面にポッカリと開いた穴に向かって降りていく。
穴には壁に沿って鉄製の梯子が固定されていた。
ボニーが先行し、その後にリリア、ベンと続く。
先ほどの振動からか僅かにぐらつく梯子に手を掛け、リリアはひとつひとつ慎重に降っていく。
下を覗くと穴は暗く、底を見ることはできない。
すぐ下を降りていたはずのボニーほ、ほとんど落下に近い速度で、滑り降りて行ってしまった。
すっかりボニーの姿が見えなくなってしまってから数分、暗闇しかなかった穴の底にぼんやりとした明かりが灯される。
「おーい、早く降りてこいよー」
四方の壁に反射して響くボニーの声がこだまする。
降りきった先は、水路とはまた違う雰囲気の地下になっていた。
長方形に切り出された石が互い違いに積み上げられた壁には、等間隔に燭台が設置されており、先行したボニーが点けたのか、その幾つかには火が灯されている。
「すごいなここ! なんだか秘密基地みたいじゃないか!」
後ろ手に縛った金髪と、その他諸々を揺らしながら、ボニーが飛び跳ねる。
「リ、リーダー、少し静かにしたほうが・・・・・・」
「さ、とっとと先に進むよ!」
ベンの細やかな心配など、どこ吹く風なボニーは、大手を振ってズンズンと奥へと進んでいく。
目につく燭台にランタンの火を移しながら進んで行くと、両側の壁が途切れ、鉄格子が嵌め込まれた部屋が並ぶ場所に出た。
暗く澱んだ空気が漂う独房は、無人ではあったが、えも言われぬ雰囲気を醸し出すその部屋は、過去に何があったのかを想像させる風貌をしている。
黒く残された染みから目を逸らしながら歩いていると、前を歩くボニーが突然立ち止まり右手を上げて、リリアとベンを制した。
「ちょいまち」
薄暗がりに目を凝らすように細めるボニーの後ろで、リリアが目を凝らすよりも早く、微かな音が聞こえてくる。
「・・・・・・だれか、いるのか?」
今にも消え入りそうな声に、三人の間に緊張が走る。
慎重に歩みを進めて目を凝らす。
声は鉄格子に覆われた部屋の一つから聞こえてきていた。
淡いランタンの光が、お互いの姿を映し出す。
「・・・・・・お前はッ」
檻の向こうの瞳と目が合った気がした。
ボニーと同じくらいの明るい金髪と、血と泥でドロドロに汚れたローブを纏った顔がそこにはあった。
「––––––椅子女ッ」
まるで猛禽類のように、鋭く尖った瞳をリリアは知っていた。
「クレイグ・・・・・・モンクトン・・・・・・」
それはつい最近、“蹴り飛ばしたばかりの顔だった”。
「なんだこいつが、リリアの言っていた友達かい?」
「いえ、友達というか、ただの知り合いですね」
冷たく言い放つリリアの言葉に、ボニーが口角を上げて大口を開く。
「はっはぁ! じゃあ置いて行くかい? 別にどっちでも構わないやアタイは」
二人の会話を聞いていたクレイグが、泥だらけの手で鉄格子に縋り付く。
「ちょっ、ちょっとまて! まさか置いて行く気じゃないよな!?」
「って言ってもなあ。アタイ達はリリアの友達を助けに来たわけであって、アンタを救いに来たわけじゃないからなあ」
暗がりでもわかるほど、クレイグの顔がみるみる青ざめて行く。
「待て、待って、俺なら他の奴らが捕まっている場所が分かるぞ! だから助けろ!」
鉄格子に顔を押し付け、狭い隙間から必死に手を伸ばすクレイグの指先を、中指まで弾くボニーがリリアにチラリと視線を送る。
リリアは短いため息を吐くと、視線を真っ直ぐクレイグへと向ける。
「もともと置いて行くつもりなんてないですよ。ただ言葉どおり他の生徒の場所まで案内はしてもらいます」
ポリポリと頭を掻くボニーは、右拳を構える。
「お宝を探すのも冒険の内なんだがねえ・・・。ま、リリアが言うなら今回はショートカットといきますか」
気合いを入れて打ち出された拳が、鉄格子とクレイグを吹き飛ばす。
ゴロゴロと転がるクレイグは、部屋の壁に突き当たると、カエルが潰れたような声を出して止まった。
「さあ、案内してください」
「お、お前ら、後で覚えてろよ・・・」
フラフラと立ち上がったクレイグが不満を漏らすと同時に、通路の奥から足音と声が響いてきた。
「おい! 誰かいるのか!?」




