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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第28話 地下での出会い

 徐々に大きくなっていく明かりと声に、リリアは咄嗟にランタンの火を消す。


 壁際に寄り、出来る限り身を小さく屈め、息を殺す。


 反響して朧げだった声が次第に明瞭に聞こえてくる。


 声の主は二人の男だった。


「あー面倒くさいなぁ。なぁんで俺がこんな事しなくちゃいけないんだ?」


 図太い声が気だるげに話す。


「そ、そんなこと言ったって、リーダーの命令には逆らえないだろ」


 上擦ったような高い声が、おどおどと答える。


「つってもよぉ。誰も使ってない入口を見て来いなんてよぉ、何か意味あんのかよ」


 リリアが疼くまる通路は決して広いわけではないが、それでも人が二人余裕を持ってすれ違える程度の広さはある。


「さ、最近は上でも色々あるみたいだし、この前も教師が何人か降りてきてたみたいだし」


 幸いにも男達は通路の中央付近を歩いているようだった。


「ああ? 確か上の生徒が何人か消えてるんだっけか? それで俺達を疑ってるってか? 冗談じゃねえよな?」


 近づいてくる灯りに照らされて、逆立つ赤髪が少しずつハッキリと見えるようになる。


「さ、さすがに、リーダーもキレてたよね」


 ベタつく黒髪を顔に貼り付けた男が、灯りを持つ手をガタガタと震わしている。


「そ、それで出された条件が、使われていない水路まで、くまなく探っせってことなんだよね」


 いよいよ男二人の姿が、リリアの数歩圏内にまで近づいてくる。


 装具の反射を隠すために、スカートを思いっきり伸ばして膝を抱え込む。


 やる気のない男達の視線は前ばかりに固定され、すぐ横に小さく疼くまるリリアに気がつく様子はない。


「ほんっと迷惑な話だよなぁ。上の問題は上で解決しろってんだよなぁ!」


 暗く浮かび上がる二人の後頭部に安堵のため息を漏らしかけた瞬間、リリアの右手に持った糸が勢いよく引っ張られた。


「うわっとっとっと!」


 足に糸を絡ませた黒髪の男が大きく体勢を崩す。


「なにやってんだよぉ、どんくさいなぁ」


「い、いや、今なんか足に・・・・・・」


 リリアは糸を手放すと、慌てて立ち上がる。


「ああ?」


 駆け出すリリアの背後で赤髪の男の声が聞こえてくる。


 前に伸びた影がリリアの歩幅に合わせてついてくる。


「ベン!!」


「フュンフザイル!」


 叫び声とほぼ同時に、リリアの腰に親指ほどの何かが巻きつく。


「キャッ!」


 続いて、右腕、左腕、左脚、首元に巻きついてくるそれは、すぐにリリアの身体から自由を奪い取ってしまう。


「オーケーベンよくやったぜぇ。って、ん? なんだぁお前、女か?」


 ヒタヒタと近づいてくる声が耳元で聞こえる。


「おっとぉ、妙な真似すんなよぉ。可愛い耳が吹き飛ぶぜぇ」


 ピタリと耳に触れる冷たい感触に鼓動が跳ねる。


「お前が最近上で話題になってる誘拐犯かぁ」


「ち、ちがッ、私はッ!」


「まあどっちでもいいかぁ。おいベン、こいつとっとと縛り上げろ、リーダーへの手土産だぁ」


 リリアの言葉を遮るように、赤髪の男の声が上書きする。


 まるで生きているかのように、ズルズルとリリアの身体を這うそれは、リリアの口から下を全て覆ってしまう。


「へっへ、これで今月ポイントボーナス確定だなぁ」


 嬉しそうに後ろを歩く赤髪の男の笑い声が、リリアの鼓膜を煩く揺らす。



♢♢♢♢♢♢



 黒髪の男に先導されるようにして辿り着いた場所は、それまで通ってきた通路とは違い、天井が高い広場のようになっていた。


「リーダー、怪しい野郎を連れて来たぜぇ」


 赤髪の男が、一段高くなった場所に腰掛ける人影に声をかける。


「なんだいアドルフ、そのちっこいのは!」


 快活な声が空間に響き渡る。


「使われてない通路でうろちょろしてたのさぁ。これで俺もボーナスポイントだよなぁ」


 リリア達のいる高さに飛び降りた人影は、乱れた金髪を掻き分けながら近づいてくる。


「相変わらず馬鹿だね、アドルフ。上でポンポン魔法使いの生徒を攫いまくってる奴が、お前たち二人になんて簡単に捕まるわけないだろ?」


 燃えるような真紅の瞳がリリアを覗き込む。


「んーんーんー!」


 リーダーと呼ばれる女性は、唸るリリアを不思議そうに見つめる。


「なんでこいつは、口まで縛り上げられてるんだい」


 アドルフは胸を張って鼻高に答えた。


「そりぁリーダー。息をするには鼻の穴だけ空いてりゃいいからだよぉ」


「ほんっと馬鹿だねアドルフ! 口まで塞いじまったら、どうやって情報を聞き出すのさ!」


 リーダーの女性は人差し指をビシッと指して、ベンへと指示を飛ばす。


「ほらベン、とっとと口の縄を解きな!」


「は、はい、リーダー」


 リリアの口を覆っていた縄がスルスルと解けていく。


「ぷはっ! あの私、誘拐犯じゃありません!」


「犯人は皆んなそう言うんだよぉ」


「お黙り!」


 アドルフを伸ばした腕で制するように、リーダーの女性がリリアの顔を覗き込む。


「本当に、アンタじゃないんだね?」


 リリアの瞳をジッと覗き込む、真紅の瞳がユラリと光を放つ。


「私じゃありません、本当です。信じてください!」


 リリアの必死の訴えにリーダーの女性は、ふうっとため息を吐くと、見開いていた目を閉じて数歩下がった。


「どうやら、嘘は言ってないみたいだね」


 リーダー女性は、目頭を押さえて天を仰ぐ。


「もう良いよベン。その子の縄を解いておやり」


 リリアの身体を雁字搦がんじがらめにしていた縄が、力を失って解けていく。


 やっと全身に血が巡り始めたリリアは、両手をグッパと握りながら、リーダーの女性へと質問する。


「もしかしてそれって、“魔眼”ですか?」


 リリアの問いにリーダーの女性は、目頭を押さえたまま答える。


「ああそうさ、“真実の魔眼”って言ってね、目を凝らして相手の目を見ると、その言葉が嘘かどうか分かるのさ」


 魔眼とは、今ほど魔道具が形になっていなかった時代に、人類が魔法を使用するための数少ない手段のひとつだった。


 昔は、とある魔眼持ちを取り合って、国同士が争うほど希少なものではあったのだが。


「ごらんのとおり、使うと眼精疲労が酷くてね、滅多に使わないんだ」


 だがそれも過去の話。魔道具が普及した今となっては、ただ珍しい特技程度の価値に落ち着いている。


「で、あんたはいったいこんな所で、何をしていたんだい?」

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