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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第27話 学園の歴史

 キャシーが残していた“ファンダリア魔法学園の歴史”を自室に戻って読みふける。


 数百年の学園の変遷を辿っていく。


 その長い歴史の中では、今とは違う場所に建っている時もあった。大陸の戦争に巻き込まれて消滅しそうになった時もあった。古い収容所にされていた時もあった。


 そんな分厚い歴史のページの中でも、特にリリアの手を止めたページがあった。


 見開きで大きく図が描かれたそのページは、今の学園の姿とは違う。もっと古い時代の学園の配置図だった。


 縦に輪切りにされたような図面の中には、地面を示す太い線が横に一本引かれている。


 そしてそんな線の下に描かれた図形が一つ。


「地下があるんだ・・・」


 古い図面はところどころ不明瞭で、全てを知ることは出来なかったが、どうにもそれは地下水路のようだった。


 学園の地下を蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされた水路は、最終的には王都近郊の海に続いている。


「もしも、この地下水路がまだ生きているとしたら・・・・・・」


 学園の警備を掻い潜って侵入して、生徒を誘拐して連れ出すことも可能かもしれない。


 これだけ資料の残されていることなのだから、もしかするとすでに調べられているかもしれない。


 だとしても、今現状でリリアの持っている数少ない情報には変わりはない。


「とりあえず、調べるだけ調べてみよう」


 決意を瞳に宿したリリアは、図面の中で自分に一番近い地下への入り口を確認する。


 黄色く変色した用紙の線を指の腹でなぞる。


 もっともリリアに近い入り口は––––––。


「––––––ここ?」


 それは第6寮の近くだった。


 図面が指し示す地下への入り口は、古い井戸だった。


 寮の近くの森の中、もはや誰も立ち入らない原生林の奥に、その井戸は存在しているらしい。


 リリアはペンダントを外して、日の当たる窓際に置く。


 魔力集積装置が集める大気中の魔力は、太陽の光や月の光に微量に含まれている。


 そのため日光に当てれば当てるほど、早く魔力を蓄積する事ができるのだ。


 リリアは逸る気持ちを抑えて深呼吸する。


 井戸の中がどうなっているかは分からない、水が生きているかどうかも分からない。


 だからこそ、車椅子ではなく、はじめから魔道装具を履いていく事に決めた。


 魔力集積装置の魔力充填が終わるまで、リリアは自分の机へと向き直る。


 工具箱を広げ、設計図を頭の中で描く。


 いつ、誰が、どこで使用するのか、その最善を考えて手を尽くす。


 ––––––学園の完全閉鎖まで残り12日。


 部屋が暗くなり、揺れるランタンの光だけになっても、一人机に向かう影とガチャガチャとした音だけが響いていた。



♢♢♢♢♢♢


 

 工具や部品が散乱した机の上に、突っ伏すようにして銀髪が流れている。


「––––––んッ」


 目蓋の隙間から差し込む光に目を瞬かせる。朝の澄んだ空気を肺いっぱいに取り込み、ゆっくりと身体を伸ばす。


 外していたペンダントを首から下げ、白銀の魔道装具を脚へと装着する。


 魔力の消費を節約するために、目的地の古井戸までは車椅子で向かう。


 途中通り過ぎた管理人室を見ると、管理人の姿はなく、ただ無人の皮椅子だけが残されている。


 古井戸までの道のりは、リリアが思っていたよりも綺麗なものだった。


 高低差はほとんどなく、草木もほとんど生えていない。途中から装具を起動して歩かなければいけないかなと考えていたリリアにとっては嬉しい誤算だった。


 まだ水気を含んだ草を踏み締め進む。


 そうして10分ほど進んだ先むと、目的の古井戸が見えてくる。


「あった、ここが」


 苔に侵食され朽ち果てボロボロになった蓋を外す。古井戸を除くと底は見えず、吸い込まれていく空気がリリアの髪先を動かす。


 リリアは鞄から細い筒を取り出すと、持ってきていた2種類の液体を入れる。


 栓を閉じ軽く振ると、筒は光を放ちはじめた。


 光る筒を古井戸の底へと投げ入れると、小さくなっていく光はカツンと乾いた音を立てて止まる。


「・・・・・・水は枯れてるみたい」


 古井戸の底で淡く光る筒を確認したリリアは、鞄からロープを取り出すと、近くの木に括り付けていく。


 魔道装具を起動し立ち上がる。事前に準備しておいた滑車をロープと装具に取り付ける。


「これでよし」


 古井戸の縁に立ちゆっくりと中へと降りていく。


 降りるほど冷気を帯びた空気が肺に流れ込んでくる。古い石壁には苔がびっしりと生え、蓄えられた水分が水滴となって表に顔を出す。


 どれほど降ったのだろう、リリアの脚先が硬い地面を捉えた。


 微かな光を頼りに、ランタンに火を灯す。


 古井戸の底は、そこらさらに横に伸びており、ランタンの灯りも届かないほど長く続いている。


 リリアはごくりと生唾を呑み込むと、鞄から糸の束を取り出し、地面に打ち付けた金具に括り付けた。


 まだ大量に余っている糸の束と、ランタンをそれぞれ片手に持って歩き出す。


 カツンカツンと反響する足音が前後左右から聞こえてくる。


 たまに後ろを振り返りながら進むリリアの背筋に、冷たい汗がヒヤリと伝う。


 入ってきた縦穴の光はもう見えない。


 時折りゴウッと追い越していく風だけが、リリアの道行きを指し示す。


 自分の足音なのか、そうじゃないのかすら、分からなくなる暗闇の中をただ進む。


 どれだけ進めているのか分からなくなってくる頃、リリアの前方に、ぼんやりとした明かりが灯っていら事に気付く。


 それは次第に大きくなり、風の音とは違う、明らかに意思を持った音を引き連れていた。

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