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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第23話 捜査開始

 木陰を揺らす冷たい風が、リリアとエリスの間を流れていく。


「解決するつもりが無いってどういう意味ですか!?」


 詰め寄るリリアの問いに、エリスは悲しそうに目を細める。


「そのままの意味よ。学園・・・特に上層役員の貴族は、今回の事件を表沙汰にしないつもりなのよ」


「そんな、どうして? だって実際に生徒が失踪しているんですよ!?」


「この際、生徒が失踪しているかどうかは、学園にとって大きな問題ではないわ。問題なのは、ファンダリア魔法学園という大陸最大の魔法研究機関が、部外者の侵入を許したかもしれないという不祥事なのよ」


 エリスの説明にリリアは言葉を失った。


「え、なんですかそれ・・・。学園は生徒よりも、不祥事の隠蔽の方が大切だっていうんですか?」


 エリスは短くため息を吐くと、視線を逸らして顔を伏せた。


「学園というよりは、役員貴族がですけど・・・。まあ、端的に言ってしまえば、そういうことになりますわね」


 無意識に車輪を握りしめる手に汗が滲む。風が木の葉を擦る音が、やけに大きく聞こえてくる。


「・・・・・・エリスは、どうしてその事を知っているの?」


 張り付く喉を必死に広げ、声を絞り出す。


「私は、・・・・・・お父様が学園の上層役員の一人だからですわ」


 リリアは一瞬目の前が真っ白になる。


 エリスは先ほど、今回の事件を隠蔽しようとしているのは上層役員だと言った。そして、エリスの父親がその上層役員の一人だとも、つまり、エリスは今回の失踪事件を“無かった事にしようとしている側の人間”なのだ。


「エリスは・・・それで良いと思ってるの?」


 エリスはすぐには答えなかった。目を瞑って少しの間考え込むと、しっかりと芯の通った口調で話し始める。


「善悪の問題ではありませんわ。これは十二貴族である、アクア家の当主が決めたこと、当主の決定に意を唱えるだけの権限を私は持ち合わせていません」


 目を伏せるエリスは、リリアの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「今回の件は、私生活に問題を抱えた、生徒個人の極めて個人的な都合によって偶発的に発生した事例として、内外共に処理されることになるでしょう」


 まるでそう仕向けられたかのように、二人の周りに他に人はいない。ただエリスの冷たい言葉だけが淡々と響いている。


「幸い、失踪した生徒の中に、有力貴族の長男や出身者はいませんでした。失踪した生徒の家には、それなりの金銭が支払われる事になるでしょう。これはもう、決定したことなのです」


 失踪した生徒達は今こうしている間にも、酷い状況に置かれているかもしれない。


「そんな、じゃあキャシーはどうなるの? 他の生徒は?」


「それは私にもわかりません。ただ、何事もなく、帰ってくる可能性は低いと思います」


 ––––––でも、“誰も救おうと思っていない”


「そんな、そんなのって・・・・・・」


 リリアの胸の中に苛立ちとも、悲しみとも似た感情が渦を巻く。


 失踪した生徒達は、キャシーは、明日も続く明るい未来を思い描いていたはずだ。描いた希望を理不尽に奪われ、助けを求めるべき相手にも見放される。


 リリアの脳裏に、あの日の夜の港の光景がフラッシュバックされる。


 ––––––そんなこと、あっていいはずがない!


「・・・・・・私に言える事は、これだけです」


 踵を返したエリスが、漆黒の髪をたなびかせ歩き始める。


 その後ろ姿は、いつか王都で始めて見た背中と何一つ変わらなかった。


「ああ、そうですわ」


 ピタリと立ち止まったエリスが、わざとらしく

肩越しに振り向く。


「これは、独り言なのですけれど、最近王都のウィスパーテイルというお店に、怪しい二人組がよく出入りしているそうですよ」


 口角を緩めたエリスが続ける。


「学園内で始めて生徒が失踪したのが三週間前、怪しい二人組が見掛けられるようになったのも三週間前、なんとも珍しいこともあるものですよね」


 エリスの手元からヒラリと紙が落ちる。


 細い糸を伝うように、真っ直ぐリリアの元へと滑り落ちた紙は、フワリとリリアの手のひらの中に収まった。


「ああ、それと言い忘れていましたけど、アクア家は王都の治安維持も担っていますので、万が一不審な輩を見つけた時は教えてくださいね」


 折り畳まれた紙を開くと、そこにはウィスパーテイルの店の位置と”レッドカクテルのホットをショットで”の文字が書かれている。


「もしも私に用がある時は、学園内にあるブルーアクアという喫茶店の店主に、言伝をお願いしてもらえれば、2時間以内に私に届くようにしておきます」


 エリスが去っていくのに合わせて、冷たい風が解け、周りに生徒が歩き始める。


「あのッ、ありがとうございます!」


 エリスは足を止めることなく、背中越しに手を振った。


 ––––––学園閉鎖まで、残り13日。


 リリアは頂点を超え傾き始める太陽を背に、ウィスパーテイルへと向かい進み始めた。

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