第22話 状況確認
寮のロビーにある中央階段を駆け上がり、2階にあるキャシーの部屋を目指す。
以前に一度だけキャシーから2階の配置を聞いたことを思い出す。
階段を上がってすぐ左に曲がった先、一番最初にある扉がキャシーの部屋だった。
念のため扉をノックして、声をかける。
「キャシー、いるなら返事をして」
しんと静まり返った扉の向こうから、返事が返ってくることはなかった。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回してみと、鍵のかかっていない扉は、ノブを回しただけで簡単に開いた。
軋む蝶番の音を響かせる扉の奥には、見慣れた銀髪の少女の肖像画が所狭しと飾られていた。
「・・・なに、これ」
予想外の光景に言葉を失うリリアは、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、ハッと我に返るとキャシーの部屋へと足を踏み入れた。
キャシーの部屋は広さだけで言えば、リリアの部屋とさほど変わらないようだった。
ベッドは丁寧にシーツをかけられ皺ひとつない。
クローゼットを開けると、中には右側に制服、左側に私服と几帳面に分けられていた。
「・・・・・・一番右側のハンガーが一つ空いてる」
次に机に目を向けると、よほど慌てていたのか、読みかけの本と書きかけのノートが開かれたまま置かれている。
ノートを手に取ると、表紙には大きな字でGMOT議事録と書かれていた。
「議事録って、会議みたいな事してたんだ。知らなかった・・・」
議事録をパラパラとめくっていくと、ここ数日のページで手が止まる。
第11回定例会
“欠席者、会員No.8、リンジー・フェザーストン”
それまで必ず全員が出席になっていた議事録に、初めての欠席の文字があった。
次のページをめくる。
第12回定例会
“欠席者、会員No.8、リンジー・フェザーストン”
リンジーという女生徒の2回連続での欠席。
ここ数日の件も相まって、嫌な考えがリリアの脳内を駆け巡る。
次のページの日付は、一昨日の夕方になっていた。
第13回定例会
“欠席者、会員No.8、リンジー・フェザーストン”
その下に殴り書いたような乱れた文字で、メモ書きが残されていた。
“リンジーの所属している第4寮の生徒に確認したところ、5日前の夕方から姿を見ていないとのこと”
––––––ページはここで終わっていた。
リリアの額に嫌な汗が流れる。
震える手でノートを机の上に戻す。
「きっとキャシーも、同じ事を考えたんだ」
一昨日の夕方、リリアと同じ考えに思い至ったキャシーは、制服を着替えることもなく、部屋の扉の鍵さえも締め忘れて飛び出したに違いない。
そして、キャシーもそのまま帰って来ていない。
クレイグ・モンクトンの失踪。
リンジー・フェザーストンという女生徒の失踪。
そして、キャシーの失踪。
今まで自分に関係のない何処か遠い問題だと思っていたものが、急に目の前を埋め尽くす。
立ち尽くした姿勢のまま、重たくなった思考でリリアは考える。
私に出来ることはなにか。
私は何をするべきなのか。
学園長は、一個人の考えで勝手な行動は慎むようにと言っていた。
実際、あの時、あの場所で聞いていた時には、それは正しいことのように思っていた。
すでに学園長含む、学園の上層部が話し合っているのだ、大陸最高峰と呼ばれている、ファンダリア魔法学園のトップが解決策について話し合っているのだ。
リリアのような、一生徒が、それもただの平民が、どうにか出来る問題ではない。
––––––何もするべきではない。
そんな正論が、リリアの頭を支配していく。
リリアは踵を返すと、ふらふらと上半身を揺らしながら部屋を後にした。
リリアの心境とは裏腹に、脚の装具はしっかりとした足取りで進んでいく。
自室に戻ったリリアは、車椅子に腰掛けると、白銀の装具の機能を落とすし、嵌め込んでいたペンダントを取り外す。
今の魔力集積装置に、半日も装具を動かすだけの魔力は蓄積されていない。
どれだけ急いでいても、無駄遣いすることはできない。
流行る気持ちを抑えながら、車椅子の車輪を回す。
「夜ご飯には戻って来るのよー」
背後から、間の抜けたトレバー管理人の声が聞こえてくる。
どこまで本気なのかわからない、トレバー管理人の言葉に、リリアは振り返ることが出来なかった。
リリアの心情を写しとるかのように、車椅子の車輪は回る。
目指す先は第4寮。
何をするべきかなど分からないまま、今はリンジーという生徒の事を誰かに聞きたかった。
すでにキャシーの議事録で、失踪の事実と日時は目星はついているが、何もせずにただじっとする事は出来なかった。
第4寮へと急ぎ向かう途中、リリアの前方に見知った黒髪が佇んでいる。
「あらリリアじゃない、合格発表の日以来ね。そんなに急いで、どうしたのかしら?」
するりと滑るような足取りで、エリスはリリアの前へと躍り出る。
「こんにちはエリス、でもごめんなさい、今は急いでるの、また今度ね」
そう言ってエリスの横を通り抜けようとするリリアに、エリスは落ち着いた様子で声をかける。
「もしかして急いでいる理由は、失踪事件と関係しているのかしら? 例えば、“誰かお友達が消えてしまった”とか?」
エリスの言葉に、リリアは振り切れんばかりの速度で振り返った。
その反応を見たエリスが、凛とした瞳を伏目がちにリリアを見つめる。
「そう、それはお気の毒に・・・」
「なにか、この事について、なにか知っているんですか!?」
一瞬言葉を詰まらせたエリスは、何度か頷き言葉を紡ぐ。
「そのお友達は、諦めた方が良いかもしれないわね」
聞きたくない言葉がリリアの鼓膜を突き刺す。
リリアの様子を伺っていたエリスが、ぼそっと呟いた。
「だって学園は、この事件を解決するつもりがないみたいですから」




