第21話 失われたもの
リリアがクレイグの失踪を知ってから、一週間。
大講堂に集められたリリア達は、前に立つ大人達の姿を黙って見つめていた。
全員集まったことを確認したのか、講堂の分厚い扉が軋む音を響かせながら、ゆっくりと閉じられていく。
数歩前に出た学園長が、拡声魔道具の前に立つと、静かに口を開いた。
「あー、まだるっこしいのは嫌いだから、本題からいくよ。生徒諸君、今日集まってもらったのは他でもない、今学園内で複数の生徒が休学するという事態が相次いでいる」
学園長の言葉に、やはりかという空気が講堂内を流れはじめる。
「それで、学部会と役員会の両方で話し合った結果。当面の間、ファンダリア魔法学園の全機能を一時停止することとなった」
リリアの背筋に冷たい汗が流れる。
「学内施設、設備、教室、食堂、銭湯、図書室、学生寮、その他諸々の全てを一時的に封鎖する。もちろん、その期間の講義、研修、実習は全て中止、封鎖期間は今のところ未定さね」
一気にざわつきはじめる周囲の雰囲気に呑まれないように、必死に意識と耳を学園長の声へと向ける。
「学生寮に入っていない生徒に関しては、明日から登校しなくていい。学生寮に入っている生徒に関しては、遠方からの生徒も多いだろうからね。今日から二週間以内に荷物をまとめて、退寮するように、以上!」
必要な情報だけを簡潔に述べていく学園長は、最後に一つだけと言葉を付け加えた。
「これから、再度役員会と学部会で検討していくことにはなるが、話がまとまり次第、適切な対応をとっていくつもりさね。くれぐれも一生徒の独断で勝手な行動は慎むように、わかったね」
どこか笑っているように見える学園長は、それだけ言うと奥へと引っ込んでしまった。
その後、別の教授から、今後の詳しい流れと、注意事項の説明があったが、そのほとんどはリリアの頭に入ってはこなかった。
どうしよう。
たった一つの感情が、リリアの内側を満たしていく。
もとあった家は、王都へと出てくる時に売り払ってしまった。そのお金も、入学金と教材などの準備金でほとんど消えてしまっている。
手持ちのお金でも、かなり切り詰めれば、王都の安宿に一週間––––––頑張れば二週間は泊まれるかもしれない。
でもその後は?
閉鎖期間が明確になっていない今、二週間を超える可能性は大いにある。むしろ学園長の口振からすれば、ほぼ間違いなく長期化するのだろう。
魔道具関係の仕事をしようにも、簡単な修理依頼ならまだしも、本格的な調整や、制作依頼ともなれば、王都で何の伝手も人脈もないリリアでは、そもそも仕事を受けることすら難しいだろう。
とはいえ、不定期の簡単な修理依頼だけでは、確実にお金が足りなくなる。
完全に手詰まりだった。
仮に地元に戻ったとしても、この3年間、依頼のほぼ全ては、オリバーを通して受けていた。
オリバーが居ない今、王都でも地元の街でも、リリアにとっては大差のない問題だった。
「はあ、まさかこんな事になるなんて・・・・・・」
どんなに考えても、良い解決策は思いつかない。
「ねえ、キャシー。キャシーはこれからどうするの?」
どうしようもない現実から目を逸らすように、キャシーへと話しかける。
「キャシー?」
しかし、いつもならリリアの側に居るはずのキャシーからの返事は返ってこなかった。
「・・・・・・先に帰ったのかな?」
その日の講義は全面休講となった。
リリアは講堂から出た車輪で、図書室へと向かい、借りていた本を返し、寮へと戻る。
自室に戻り、これからどうしようかと、まとまらない思いを巡らせている間に、あっという間に夕暮れが近づいてくる。
太陽が山向こうへと沈み、頭上に月がひっそりと輝く頃になっても、また考えは纏まらなかった。
結局疲れていつの間にか眠ってしまっていたリリアは、窓から仄かに差し込む太陽の光と、肌寒い朝風で目を覚ました。
キャシーはまだ、帰ってきていなかった。




