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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第20話 失踪

「え、それってどういうことですか!?」


 小太りな男の言葉に、リリアは思わず前に出ていた。


「お前は・・・ッ」


 リリアの姿を見た小太りの男が、あからさまに顔をしかめる。


「君は、たしか、ボールドウィンでしたか、どうかしましたか?」


 対応する生徒が増えたことに辟易しているのか、教授は疲れた顔でリリアへと向き直った。


「さっきの話は本当ですか!?」


 リリアの言葉に少しだけ間をあけた教授は、諦めたように口を開く。


「ええ、事実です。彼らの訴えのとおり、クレイグ・モンクトンは、数日前から寮へ戻っていません」


「だから、ちゃんと探してくれって言ってるんだ! なのにッ、なのにッ!」


 小太りな男が、腰の横で拳を握りしめて肩を震わす。


「何もしないとは言っていません。今は、他の寮生や教授への聞き取りを行っているところです。然るべき時が来たら、相応の対応を取ることになるでしょう」


 静かに、ただ淡々と話す教授の胸倉に飛び掛かろうとする小太りな男のことを、背の高い細身の男が後ろからはがいじめにして止める。


「そんなッ、そんなのッ、いつになるんだよ! 今すぐ動けよ! 今すぐ!」


 小太りな男に引き摺られて動く細身の男が、静かに、それでも焦燥を含んだ声音で喋る。


「もしも、万が一。誘拐などされていた場合は、早期に対応しなかったことについて、学園はどう責任を取るおつもりですか?」


 細身の男の問いに、教授は衣服の乱れを正すと、毅然とした態度で答えた。


「学園には外部から部外者が侵入できない仕組みが整っています。万が一にもそのようなことは、ありえません」


「ありえない、ありえないだって!? 現に沢山の生徒が行方不明になってるじゃないか! これでもまだ、ありえないって言うのかよ!」


 すでに暴れるだけの力を失ったのか、小太りな男は、細身の男に脇を抱えられたまま、ダラリと腕と頭を垂らしている。


「他の生徒に関しては、管轄外なので詳しくは知りませんが、管轄の教授からは体調不良だと聞きいています」


「体調不良? 体調不良なもんか!? ぼくの知っているだけで、10人はいるんだぞ!? しかもここ数日でだ! そんな偶然あるもんか」


 リリアは静かに教授を見上げる。


「あの、何か私に出来ることはありますか?」


 リリアの問いかけに、教授は再度短いため息を吐くと、首を横に振った。


「最終的には学部長判断になります。あなた達に出来ることは何もありません」


 それだけ告げると、教授は踵を返して去っていってしまった。


「リリア・ボールドウィン、ぼくはお前を許さないからな。全部、全部、お前のせいだ」


 ただでさえ丸い顔を泣き腫らしてパンパンにした小太りの男が、リリアへと詰め寄ってくる。


「私は、今回の失踪に関係ないよ」


 唇を噛み締めて答えるリリアは、小太りの男から目を逸らさない。


「いいや、関係あるね。全部お前と関わってからおかしくなったんだ。なにが銀脚の舞姫だ、体制の変革者だ、お前なんかいなければよかったんだ!」


 嗚咽混じりの言葉は、ところどころ詰まって聞き取り難かったが、その言葉に強い憎悪が込められていることはリリアにも分かった。


 小太りの男を制するように、後ろから細い男が割って入ってくる。


「すまないな、コイツも今混乱しているんだ、全ての言葉に悪気があるわけではない。ただワタシもお前とは出会わなければ良かったと思ってはいるよ」


 リリアは、小太りの男を連れて去ろうとしている背中を引き留める。


「あなた達は、なんでクレイグと一緒にいるの?」


肩越しに半分だけ振り返った、細身の男が鼻で笑った。


「ハッ、わかるまいよ、平民のお前にはな。そもそもが生まれた世界も、過ごす世界も違うのだ。理解されたいなどとも思わないし、理解したいとも思っていない」


 皮肉混じりに笑う細身の男が、投げ捨てるように言葉を吐き出す。


「消えたのが、お前だったら良かったのにな」


「黙って聞いてましたけど、それはさすがに言い過ぎじゃないですか?」


 リリアの後ろで無言を貫いていたキャシーが、たまらず声を上げる。


「キャスリーン・オケリー、お前にも忠告しておいてやろう。そんな平民とはさっさと縁を切ることだな。オケリー家がいくら落ち目とは言え、貴族としての誇りがあるのならな」


 細身の男の言葉に、キャシーはチラリとリリアを見ると、凛とした声で返す。


「お気遣いどうも、ですが、余計なお世話です。わたしの推しはわたしが決めます。そこに家は関係ありません」


「ふん、せいぜい後悔するがいいさ」


 去っていった2人の背中を、リリアとキャシーは暫く見つめていた。


「リリア、あんな戯言気にしなくていいですからね」


 グッと拳を握って励ますキャシー。


「わたしの推しは、リリアだけです!」


「ありがとう」


フンスと鼻息を荒くするキャシーと図書室を目指して進む。


 その日は、どうにも読書に集中できずに、結局新しい本を借りることはなかった。


 部屋に戻ってからもずっと、今日会った2人の言葉が胸の奥に引っかかる。


 私に出来ることは何もない、私は本に囲まれて、本を読めればそれで良いと考えながら、眠りについた。


 一週間後、学園は休校になった。

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