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魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く〜天才魔道具技師は世界の常識を破壊する〜  作者: 稲屋戸兎毛


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第13話 新しい日常

 開かれた講堂の大扉から、ぞろぞろと生徒が溢れてくる。


 広いタイル張りの廊下には、白と紺色を基調とした制服とローブを纏った生徒達が歩いている。


 数人のグループで楽しそうに談笑している者、教本を抱えて足早に通り過ぎて行く者、お互いの魔道具を見せ合っている者。


 十人十色の生徒達の中に、大きな車輪を椅子の両脇に取り付けた生徒と、緑髪に垂れた眉の生徒が並んで進んでいる。


「そういえば・・・・・・昨日の“あれ”すごかったね」


「ええ、わたしまだ少し、喉が焼けてるみたいです・・・・・・」


 頬を引き攣らせたキャシーが喉をさする。


「味は美味しかったんだけどね」


「・・・・・・味は、絶品でしたね」


 赤くグツグツと煮え滾る大鍋を思い出すと、喉とお腹がキュッと痛む。


「色々と焼けるかと思ったよ」


 リリアの言葉にキャシーが苦笑いを浮かべる。


「そういえば、午後からリリアはどうするんですか?」


 隣で話すキャシーの顔を見上げながら、リリアは迷ったように首を傾げた。


「うーん。今日の予定は午前中の説明会だけだし、せっかくだから図書室か研究棟を見てみたいんだけど、半日で両方は勿体無いから、どうしようかなと思ってる」


「それなら、図書室で決まりですね」


 あっけらかんと言い放ったキャシーの言葉に、リリアは目をしばたかせる。


「どうして?」


「だって、研究棟は基本的に、13回生以上じゃないと利用できないですから。それにたしか、12回生以下の生徒が施設見学するにも、事前の届出と許可が必要だったはずです」


 初めて知る事実にリリアは少し肩を落としたが、すぐに前を向いて笑った。


「そっか、研究棟は残念だけど、その分図書室を隅から隅まで探索しようかな」


 キャシーは垂れた眉をぴこぴこと揺らすと、リリアの言葉に頷いた。


「わたしも午後から特に予定もないので、とことん付き合いますよ」


「ありがとう」


 心なしか速まる車輪は、よく磨かれたタイルの上を滑らかに滑っていく。


 ファンダリア魔法学園の図書室は全部で七つあった。


 外周にある専門棟にそれぞれ第一図書室から第六図書室までの六施設と中央の総合棟にある中央図書室を合わせた、計七施設である。


 今回リリア達が訪れた図書室は、そんな七つある図書室の中でも第三図書室と呼ばれる場所だった。


 栗皮色の両開をゆっくりと開くと、縦に陳列された書棚が鬱蒼と並ぶ室内の床には、毛足の短い深紅の絨毯が隙間なく敷き詰められている。


 手前に見えるテーブルには、ポツポツとまばらに人が座り、無言で手元の本へと視線を落としている。


「・・・・・・すごい」


 小声で興奮を隠しきれないリリアが、ポツリと呟き小さな頭をキョロキョロと忙しなく動かしている。


「すごいですよね。噂では、ファンダリア魔法学園の各図書室の蔵書数は、王立図書館よりも多いそうですよ」


 キャシーの言葉にリリアはより一層目を輝かせ。


「噂には聞いてたけど、本当にすごいね」


「ここにある本は魔法工学に関係する本が多いんですけど、こうして見ると結構一般書籍も置いてますね」


 キャシーが無造作に手に取った本の表紙には、『王国平民と帝国貴族』と書かれていた。


「キャシー、それなに持ってるの?」


 下から覗き込むリリアに、キャシーは手に持った本をパラパラとめくっている。


「少し前に、街で流行った小説の二巻ですね。王国出身の鍛冶屋の娘と、帝国貴族の子息との禁断の恋を描いた作品です」


 パラパラと素早く読み飛ばしただけで、内容を説明するキャシーに、リリアは目を白黒させて驚いた。


「よく、あんな短時間でそこまで読めたね」


「ん? ああ、別に以前読んだことがあっただけですよ。速読もできないことはないですけどね」


 本を棚に戻すキャシーが、つま先を上げて手を伸ばしていると、図書室には似つかわしくない怒声が響き渡った。


「おいおいおい! なんで、こんなところに平民がいるんだ!?」


 図書室中の視線がバッと一点に集中する。


「おい、なに無視してるんだよ。お前に言ってるんだぞ、椅子女!」


 振り返ったリリア達の視線に視線に映ったのは、通常の紺のローブに派手な装飾を飾り付け、短い金髪と猛禽類のような目を光らせた男だった。


「あ、えーと、たしか貴方は・・・・・・」


 リリアの脳裏に実技試験の森の中が浮かぶ。


「白爪兎を狩殺してた人」


「クレイグだ! クレイグ・モンクトン!」


 鋭い目をさらに吊り上げ、口角を歪ませた男が吠える。


「まったく、お前のような道化を合格させるなんて、ファンダリア魔法学園も落ちたものだな!」


 大声を張り上げるクレイグに、テーブルの生徒達は本を盾に視線を落とし、奥の生徒達もそそくさと本棚の影に隠れてしまう。


「あの、図書室では静かにした方が・・・・・・」


 リリアの言葉にクレイグは、あからさまに顔を歪ませると、演技がかった口調で両手を広げる。


「ああ、そうだ、そうだとも椅子女。図書室では静かにな、まったくお前のせいで周りも迷惑してるじゃないか!」


「え? いや、うるさいのは貴方・・・・・・」


「なッ! そういうわけだから、さっさと出ようか」


 乱暴にリリアの肩を掴んだクレイグが、強引に引きずろうと力を込める。


 不安定に力を込められた前輪が絨毯に引っかかり、リリアの体がガタガタと揺れる。


「いたっ! わかりました、出ます、出ますから、手を離してください」


「なんだこの椅子、全然うまく動かないじゃないか。こんな物を作る奴も、こんな物に頼らなければ満足に動くことすらできない奴も、どちらもとんだ欠陥品だな」


 鼻で笑うクレイグの言葉に、肩の皺を払うリリアの手が止まる。


「上手く動かなかったのは、貴方の動かし方が間違っているから。私のお爺ちゃんを馬鹿にしないで!」


 睨みつけるリリアの目を見たクレイグが、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。


「なんだ、その馬車もどき、お前のジジイが作ったのか、どおりで見たことないわけだ。ジジイの趣味で作った物なら納得だな」


 ガシガシと車輪を爪先で小突くクレイグは、車輪に添わしたリリアの両手を掴んで力を込めた。


 車輪とクレイグの手に挟まれたリリアの手が、ミシミシと悲鳴を上げる。


「ジジイも変人なら孫も変人だな! ここは魔法を習う貴族の学舎だ。平民の道化は大人しく、サーカスに帰って踊るのがお似合いだよ」


 至近距離で唾を撒き垂らしながら喚くクレイグを睨みつけたリリアが、両手を強引に振り払って告げる。


「私は、私の意思でここにいます。貴方にとやかく言われる筋合いはありません!」

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