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第5話 ソフィリアの恋

 翌日、アルノ家にソフィリアが来ていた。


 ルティミアの部屋でお茶をすることにした。

 ソフィリアにルティミアは昨日の出来事を話した。


「ルティ、また人の恋路に乱入したの??」


 ソフィリアは呆れていた。


「乱入じゃないよ!困っていた男の人を助けてあげたの」


 ルティミアは言い訳をした。


「はいはい」


 いつものことだ。


「で、その救ってあげた王子様はどこの誰??」


「あー、わからない。名前とか聞かなかったし。助けてあげたのに失礼なこと言われたから宝石店の前に捨ててきた」


 ソフィリアは一瞬固まった。


「なんて??」


「え?だから、助けたのに『見た目通り気が強い』って言われたからイラッとしてさ、ちょうど宝石店の前だったからね。綺麗な人だったし宝石店に入るのなんて慣れてるだろうしいいかと思って」


 ルティミアは悪びれることもなく、サラッと言った。


「その紳士、あの店主に捕まったんじゃないの??」


 ソフィリアが聞いた。


「あー、確かにめざとく出てきて勧誘してたな。でも大丈夫でしょ!着てた服が綺麗で高級だったし!爵位の高い令息だと思うし!」


 ルティミアはにっこり笑った。


「そう……」


 ソフィリアはそれ以上言わなかった。


「そんなきちっとした貴族なのに、見たことない人だったの?」


 ソフィリアは不思議そうに聞く。


「うん。初めて見た。あれだけ綺麗な人だったら、絶対覚えてるだろうし」


 ルティミアはお茶を飲んだ。


「ソリアはどうなのよ」


「え?」


 ソフィリアがぎくっと肩を揺らす。


 ルティミアはちゃんとわかっていた。ソフィリアが今日ここに来た目的を。


 ひとつは、私に会うため。

 ふたつめは、会いたい人がいるからだ。


「行くよ!! この時間は訓練所にいるから!」


 ルティミアはソフィリアの手を引いて、訓練所へ向かった。

 広い訓練所では、剣術の稽古や魔法の稽古が行われていた。

 そしてその中心には。


「振りが遅い。まだいける」


 一際声の通る男がいた。

 声の主はラミアン・アシュタルト騎士団長だった。


 鍛え抜かれた、バランスのとれた体。無駄のない剣捌き。落ち着いた性格で、皆に慕われる男だ。その上、かなりのイケメンだ。少し癖のある栗色の髪に、はっきりとした顔立ち。濃いめのブルーの瞳がよく似合う。


 ルティミアの隣で、ソフィリアがぽっと頬を染めた。熱い眼差しでラミアンを見ている。

 そう。ソフィリアの二つ目の目的は、ラミアンに会うことだ。


 ラミアンがソフィリアに気づいた。こちらへ来る。


「お嬢様、ソフィ様、ごきげんよう。どうかされましたか??」


 爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。

 ルティミアは相変わらずのその顔と声に、内心癒されていた。


「ソリアが来てくれたから、ラミアンも会いたいんじゃないかと思って連れてきたの」


 ラミアンは笑顔のまま、


「お嬢様、ありがとうございます。ソフィ様、お久しぶりですね。お元気でしたか?」


 ソフィリアに尋ねた。


「ラミアン。お久しぶりです。私は変わらず元気ですよ。ラミアンの剣捌き、相変わらず美しいですね」


 ソフィリアはさっきまで頬を染めていた顔ではなく、いつもの太陽のような可愛い笑顔でラミアンに言った。


 隠すのが上手いな。さっきまであんなに熱っぽい目で見ていたのに。


 こういうところは、本音を隠す貴族令嬢だな。


 ルティミアは親友の貴族令嬢っぷりに、密かに感心していた。


「ソフィ様、ありがとうございます。そう言われると少し照れくさいですね」


 ラミアンが少し照れて言った。

 爽やかで誠実な男だが、誰に対しても態度を変えない。だから本音がわかりづらい。騎士団長らしいといえば、騎士団長らしいのだが。


「ラミアン! 差し入れを持ってきたから、みんな少し休憩したらどうかな??」


 ルティミアはキッチンに寄って差し入れを用意してもらっていた。


「お嬢様、ありがとうございます。せっかくの差し入れです、皆に休憩を取らせます」


 ラミアンはルティミアにそう言ってから、訓練中の騎士たちを見渡した。


「皆、お嬢様からの差し入れだ。しばし休憩にする」


 騎士たちは喜んでいた。

 騎士たちはルティミアの差し入れを食べながら休憩していた。


 ソフィリアとラミアンが仲良く話している。

 ルティミアは少しの間、二人の時間にしてあげたくて、そっと訓練所を離れた。


 あの二人、くっついたらいいのになぁ。

 ソフィリアの長い片思いを知っている分、親友の恋は実ってほしいとルティミアは心から願っていた。


 静かな廊下を歩きながら、どうすればあの二人がくっつくのかを考えていた。


 なんか二人の恋のスパイスを作れないかな。


 ルティミアは庭を眺めながら考えた。


 うーん。

 惚れ薬。それは違うよね。

 ソリアが可愛く見える薬。いや、薬がなくとも彼女は十分すぎるほど可愛い。

 好きだと言ってしまう薬。なんか無理やりっぽいなぁ。

 ルティミアは頭を悩ませた。


 下手に薬を使えばソリアにぶちぎれられるだろうなぁ。あの子はちゃんと自分で向き合いたいタイプだもん

……。

 ラミアンなんだよね。あの人もわかりづらいんだよなぁ。


 もっと他の男たちのように、露骨に下心が見えるタイプなら分かりやすくていいのにと思った。

 賢くてモテる分、かわすのも上手いし、はぐらかすのも上手い。


 難攻不落の砦だ。


 でも、なぜあの男は結婚しないのだろうか。

 家柄も悪くない。アルノ家直属の騎士団長、あのルックス。相手は山のようにいるはずだ。結婚願望がないのか、それとも……


 ルティミアとソフィリアは、生まれた時からの付き合いだ。ルティミアの母とソフィリアの母が親友で、家も近いのでよくお互いの家を行き来していた。同い年ということもあって、自然と仲良くなっていった。二人は親友であり、姉妹のように育った。


 ラミアンもまた、16歳のときからアルノ家の騎士見習いとしてやってきたので、二人が子供の頃からよく知っている。ルティミアはラミアンを兄のように思っていた。

 ソフィリアも同じく兄のように慕っていたが、いつしかそれが恋心に変わったのだ。


 ラミアンは、本当にソフィリアを妹としか思っていないのか分からなかった。

 兄と妹のように遊んで育った。それが今、ソフィリアの足枷になっている気がする。


 ソフィリアがラミアンのことを好きだとはっきり口にしたことはない。

 でも彼女の表情を見ればすぐわかった。その目が変わった時から。


 ソフィリア自身もグランバート伯爵家の娘としての矜持がある。だからこそ、簡単に彼に好きだと言えないのだろう。

 私はそんなことは愛し合う二人には関係ないと思うけれど、ソフィリアにはソフィリアのプライドがあるのだろう。


 報われないと諦めた気持ちもあり、夜会で相手を探す。でも実際は全て断っている。やはり簡単には折り合いをつけられないのが、恋心というものなのだろう。

 恋をしているソフィリアは素敵で可愛い。それを見ていると、恋というものに憧れてしまう。


「ルティ!」


 ソフィリアの声がした。考え事をしているうちに、時間が経っていたようだった。


「ソリア。ラミアンとは何話したの??」


「たいしたこと話してないよ」


 ソフィリアの笑顔は可愛い。この可愛い子が全力アタックしているのに落ちないラミアンは流石だ。いや、アタックはしていないか。


「もう少し、あの好きですって顔で話したらいいのに。その方がラミアンも意識するよ」


 ソフィリアに言ってみた。


「妹にそんな顔されたらどうしたらいいのよ。ラミアンを困らせたくないのよ」


 ソフィリアは少し困った顔でそう言った。


「ねえ、ラミアンも結婚していてもいい年齢だし、ただ妹として振る舞ってるうちに知らない女にかっさらわれたらどうするの? ソリアだってもう立派な淑女だよ。そろそろ妹を卒業してもいいんじゃない?」


 ルティミアは少し背中を押した。

 ソフィリアは少し辛そうに庭を見た。


「……そうなんだけど」


 ソフィリアはそれ以上言わなかった。


 ソフィリアを見送った後、ルティミアはラミアンのところへ行ってみた。

 ラミアン自身はどう思っているのか、聞きたかった。

 こういうの、ソフィリアは嫌がるだろうけど。このままでは本当に失恋コースだし、結婚願望くらい聞くだけなら……いいよね。


「ラミアン!」


 ちょうど訓練は終わったようだった。汗一つかいていないように見えるのは、さすがだと思う。


「どうしましたか、お嬢様。先ほどは差し入れありがとうございました」


相変わらず爽やかな笑顔だ。訓練後とは思えないほどだった。


「ねえ、ラミアンはいくつだったっけ??」


「え? 今年で30歳になります。突然どうしたんですか?」


 ラミアンは少し驚いていた。


「素朴な疑問なんだけどね、結婚したいとは思わないの?」


 結構ストレートに聞いてしまった。我ながら。

 ラミアンはポカンとした顔をした。珍しい顔だと思った。この人がこういう顔をするのは、あまり見たことがない。


「あ……あー。えっと。そうですね。私と合う方がいらっしゃれば……」


少し困ったように言った。

 結婚願望はあるんだ。そう、相手なんだ。


「ところでソリアとは何を話したの??」


「ソフィ様とは何気ない話ですよ。最近何をしていたとか……そんな感じです」


 それだけ言ったとき、ラミアンの笑顔がほんのわずかに変わった。ほとんど気づかないほどの、微細な変化だ。長年見てきたルティミアだからこそ、それがわかった。

 柔らかくなった。笑顔が、少しだけ。


 ……ラミアン。これ、希望あり?

 ルティミアは心の中で少し期待した。そしてすぐに思った。

 ソリアに言ったら怒るかな。いや、喜ぶかな。


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