第23話 追走の結晶の変化
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アルセンは執務室へと戻った。
部屋へ向かう途中でカイルに出くわし、凄まじい形相の秘書が文句を並べ立てながらついてくる。だが、アルセンの頭を占めているのは、そんなことよりも先ほどの出来事のほうだった。
「公爵様!! 聞いていらっしゃいますか! 急にいなくなられては困ります!せめて私に一言、おっしゃってからにしてください!!」
カイルは、すっかりぶち切れていた。
会議の時間が迫り、執務室を訪ねてみれば、大量の書類とペンはそのままに、そこにいるはずの部屋の主は忽然と消えていた。今日中に仕上げてほしい書類もあったというのに。そもそもこの男は、会議そのものをすっぽかしやがったのだ。結局カイルがぺこぺこと頭を下げ、元老たちをなだめて帰らせる羽目になった。
「お前に言ったら、外に出してくれていたのか?」
アルセンは椅子に腰を下ろし、カイルのほうを見もせずにそう言った。
カイルは、ぐっと言葉に詰まる。
「まぁ、落ち着けカイル。とても良い情報が手に入ったんだ。外に出て正解だったよ」
口角を上げ、アルセンはようやくカイルのほうへ目を向けた。その表情を、カイルは怪訝そうに見返す。
「良い情報……ですか」
アルセンは、あの路地裏で立ち聞きした令嬢たちの会話を、カイルに話して聞かせた。名も知らぬあの女と二人で盗み聞きしたことは、伏せたまま。
カイルが目を見開く。
「やはり、こいつが原因だったな」
アルセンは、机の上に置かれた小瓶を指さした。中には、追想の結晶が入っている。
楽しげに笑うアルセンは、怖いほどに美しかった。
アルセンは、小瓶を光にかざす。
「……?」
その瞬間、何かに気づいた。
「……もしかして」
そう呟いたきり、アルセンは黙り込んでしまった。
カイルは、もう今日は仕事にならないと察し、静かに部屋を出ることにする。小瓶を見つめたまま、もうこちらを見てもいない主に一礼し、部屋を出る間際、そっと、ひっそりと舌を出してやった。
パタン。
「カイル!! 覚えておけよ」
背後から、アルセンの声が飛んできた。
カイルは、全力ダッシュでその場から逃げ去った。
***
ルティミアは急いで屋敷へと戻ってきた。玄関で出迎えてくれたラーナにまた小言をもらいながら、部屋へと入る。
手早くラーナに身支度を整えてもらい、執事とともに食堂へ向かった。
両親はすでに席に着いている。だが、いつもは二人しかいないはずの食卓に、今日はもう一人、姿があった。
「あれ? あ……! フェル!!」
ルティミアは目を丸くする。
「いつ帰ってたの? わぁ、おかえり!」
ルティミアはにこにこと顔をほころばせながら、フェルディルの向かいの席に腰を下ろした。
「ルティ姉さん、ただいま。昼過ぎに帰ったんだ。学園が短いけど休暇に入るからね。少しの間だけど、戻ってきたんだ」
ルティミアの、優秀すぎる弟。アルノ家の長男、フェルディル・アルノ。
十五歳で全寮制の学園に通っているため、屋敷に戻ってこられるのは休暇の時くらいしかない。年の離れたこの弟を、ルティミアはことのほか可愛がっていた。
久しぶりにフェルディルが帰ってきたことで、食卓はいつもより賑やかだった。
食事を終えたルティミアは部屋に戻り、引き出しから小瓶を取り出す。
「……やっぱり」
光にかざし、自分が作った追想の結晶をじっくりと検める。
ルティは、何かを確信したようだった。




