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なぜ、公爵を落とせたのか?~天才令嬢は恋も事件も予想できない~  作者: 雪乃 瑞叶


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第24話 ゼインとの答え合わせ

 翌日、ルティミアは早々に屋敷を後にした。


 向かう先は、ブラックパンサー。ゼインに会うためだ。


「やあ。今日は随分と早いね」


 ゼインが、いつもの飄々とした笑みで出迎える。


「マスター。あなたに、知らせたいことがあるの」


 ルティは、ソファに腰を下ろすなり切り出した。


「知らせ……。薬のこと、ですか」


 ルティは小さく頷く。そうして、昨日の出来事を順を追って話し始め……


「それで、リディア様が、薬を持っていたのよ。使わずに残しておいた、半分をね。あの路地裏、ほんの少しだけ光が差し込んでいて……その結晶に、たまたま光が当たったの」


 ルティは持参した自分の薬を取り出し、部屋の灯りにそっとかざしてみせた。透き通った結晶が、光を受けて複雑に色を変える。


「私の薬は、ほら、こんなふうに光で色が変わるの。でも、リディア様のものは違った。まったく、色が変わらなかったのよ」


 ルティの声に、確信が滲む。


「あれは、私の作った結晶じゃない」


「……それは、本当ですか」


 ゼインの顔から、ふっと笑みが引いた。


「ええ。色だけじゃないわ。纏っている魔力も、どこか別物だった気がするの。少ししか見れなかったのと、巧妙に魔力が漏れないようにしてたけど、、」


 ゼインは、顎に手を当てて考え込む。


「そうなると……偽物が出回っている、ということになりますよ。見間違い、という線は?」


「私が作った薬よ。見間違えるわけがないでしょう」


 ルティミアは、真っ直ぐにゼインを見据えて言い切った。


 ゼインは、しばし沈黙する。


「……それなら、急に副作用が出始めた理由も説明がつきますね」


「ええ、そうよね。副作用の出る偽物を買った子たちは、そもそもあなたのお客じゃなかったのよ。あの場にはオリビアもいたけれど……あの子は、あなたから本物を買っていた。リディア様の持っていた結晶を見たとき、自分が買った結晶との、わずかな違いに気づいた様子だったわ」


 ルティは、もう確信していた。


「そうですか……。あなたがそう言うなら、間違いないのでしょう。何者かが、あなたの薬を使って別の薬を作ったか……あるいは、あなたの薬を真似て作ったか」


 ゼインは、思案げに考え込む。


「その売った人、とても賢いわ。私はね、小瓶に結晶を数粒ずつ入れているの。どれも品質は変わらないけれど、念のためにね。何度使っても、体に変化はなかったから。それに、あなたにも『これで一回分』なんて言い方はしていないでしょう。あなたも、そうよね?」


 ルティミアが問いかけると、ゼインは怪訝そうに眉を寄せた。


「……ええ。お買い上げになった方には、あなたに言われた通りの使い方しかお伝えしていません。あの量を一回分だと言ったことも、ありませんよ」


 ルティは、にやりと口角を上げた。


「昨日リディア様は言っていたわ。買った時、『全部使うように』と言われた、と」


 ルティの瞳が、確信の色を帯びて光る。


「令嬢たちは、裏ルートで手に入れた薬のことを、人に見せたり話したりはしないはず。そもそも、誇り高い貴族の令嬢が、裏ギルドだの怪しい売人だのから薬を買ったなんて……外聞が悪くて、口が裂けても言えないことだもの」


 ルティミアは指先で小瓶を弄びながら、思考を整理するように続ける。


「薬を使う時、令嬢たちは言われた通り、すべて服用するはずよ。そうすれば結晶は残らないし、証拠も残らない。彼女たちは、表立って言えない場所で買った薬を使い、婚約者に記憶障害を引き起こした。だから、頑なに薬のことを口にしないのよ。そもそも現物が残っていない以上、言いようもないのだけれど」


 ルティミアは、淡々と言ってのける。


「……なるほど。筋は通りますね」


 ゼインが、感心したように頷いた。


「それにしても、偽物を作ったやつは許せないわ。私の薬を、こんなふうに悪用するなんて」


 ルティミアは、ふと眉をひそめる。


「でも……これを作った人、相当な腕よ。偶然できたのなら話は別だけど、狙って作ったのだとしたら、なかなかの魔導士だわ」


「そうですね。帝国に、ここまでの実力者がいただろうか……。少なくとも、私の周りでは聞きませんね」


 ゼインも、難しい顔で考え込んだ。


「宰相も、この件を調べているようだけど……どこまで掴んでいるのかしら。宰相のアルセン・リードとは、コネがないから知りようがないのよね」


 ルティミアは、ソファの背に身を預けた。


「私のほうも、アルセン・リードを探るのは、なかなか難しいかもしれません。ですが……お嬢さんの薬とは別に、偽物が存在する。そうとわかった以上、こちらもそのつもりで動きます」


「ええ、お願い。私も、できることをするわ」


 ルティミアはゼインのもとで、クルトの淹れてくれた茶を一杯いただいてから、ギルドを後にした。


 犯人像が、まるで見えてこない。いっそ、この件に関わっている令嬢に、誰から買ったのかを直接聞き出すか。


 ――ソリアの力を借りよう。


 社交界での付き合いは、ポンコツな私よりも、あの子のほうがずっと上手い。


 ルティミアは、少しゼインと話し合い、ブラックパンサーを出た。


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