第12話 事件の手がかり
「それは、本当か?」
アルセンは、手にしていた書類から顔を上げた。
「はい。ある令嬢が言っていました」
答えたのは、秘書のカイルだ。帝国宰相府の執務室に、二人の声だけが静かに響いている。
「友人の令嬢が追想の結晶を手に入れたと。その令嬢の婚約者は最近、別の女性と親密だったようで……追想の結晶の効果を使って、その女性よりも自分を愛していた頃を思い出させるつもりだったようです」
カイルは一息ついてから続けた。
「そして、その令嬢の婚約者は現在、意識不明だそうです」
静かな執務室に、その言葉が落ちた。
アルセンは黙って、カイルから書類を受け取った。
ぺらぺらと被害者の資料を繰った。名前、症状、状況。一枚一枚に視線を走らせながら、頭の中で情報を整理していく。
「カイル。これを作った人物はわかったか」
アルセンは机の上に置かれた小さな小瓶を指さした。追想の結晶だ。
「いえ……わかりません」
カイルは少し申し訳なさそうな顔をした。普段感情を表に出さない男が、珍しく眉を下げている。
「ギルドにも調査を入れましたが、マスターは決して出処を明かさず。追跡魔法をかけたんですが、痕跡がまったくありませんでした。追う手立てがありませんでした」
カイルはそれだけ言った。
あのギルドマスターか。ギルドは取引主の情報を決して漏らさない。そう聞いたことがある。そしてその追跡魔法を消せる人間がいるということも、また別の問題だった。
「こういうものは作ったものの痕跡が少なくても、必ず残るものだ。それを綺麗に消していたというのか?」
アルセンは静かに言った。疑いの色が目に滲んでいる。
「はい。王宮の上位魔道士に調べさせても、わかりませんでした」
カイルは答えた。そして少し間を置いてから、
「それこそ……魔塔に依頼しますか?」
と尋ねた。
「……魔塔の人間が作ったのではないか?」
アルセンじっとカイルを見て言った。
「帝国でトップクラスの魔導士は魔塔に所属している。金儲けのためにこれを作って、ギルドに卸しているんじゃないか」
「……ない話ではないと思います」
カイルは慎重に言葉を選んだ。
「でもあのレベルの薬を作れる人間が、魔塔の者でも作れるでしょうか……」
「でも、ここに現物がある」
アルセンは小瓶をちらりと見た。
「必ず作った者は、存在するんだ」
「魔塔を調べられるか」
アルセンは言った。
「……正直、魔塔は簡単に調査に入れないかもしれません。ですが、できる限りのことをしてみます」
カイルは静かに頭を下げた。
「あぁ。悪いが頼む」
アルセンは短く言った。
アルセンは少し手がかりを得たことで安堵した。
だがしかし、以前解決のための糸口はつかめてはいない。アルセンのストレスは溜まっていく。
カイルはそのストレスが爆発しない事を願う。そして、爆発したらいち早く逃げようと決めた。




