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私の父親を納得させるための口から出まかせかと思った。だがジョシュはこう主張する。
「出会っています! 僕は塀の上にいる猫を助けようとしてよじ登ったものの、降りることが出来なくなって……。そこに通りかかったのがポメリー嬢でした。あなたは『そんなに高くないから、そのままジャンプして降りればいい』と励ましてくれたんですよ」
そう言われるとそんなことがあったような……。
「僕はポメリー嬢のおかげで、塀からは無事、降りることが出来ました。その後、塀の近くにあった蓮池を眺めるベンチに座り、二人でおしゃべりをしたのですが……。とても楽しかったです。ポメリー嬢は溌剌として、その年齢の他の令嬢とは全然違う。頭の回転が速く、ウィットに富んで……。僕はあっという間にあなたを好きになっていました」
まさかの本当に幼い頃に出会い、ジョシュはポメリーに恋していたようなのだ……!
「ポメリー嬢も僕と同じ気持ちだと思っていたのですが……。お互いに名を名乗ると、ポメリー嬢は慌ててその場から立ち去ろうとしました。僕が王太子であると分かると、すり寄る人が多いのに……。逃げようとするのは初めてで、驚きました」
それは確かになぜと思う。前世記憶が覚醒していたならまだしも、その時の私は覚醒前で、王太子であると分かっても、逃げる必要はなさそうなのに……。
「なぜ逃げようとするのか。その時のポメリー嬢は不思議なことを言っていました。『殿下の運命の相手は二十歳の時に現れる。それが運命の出会い。その相手は自分ではない』と」
ジョシュのこの言葉には「ううん!?」と思う。
「さらにこうも言いました。『もしもその女性が現れた後に、もう一度会えたら……。それでも私を好きだったら、その時は結婚しましょう』そう約束しましたよね?」
これには「ええっ!? そうなんですか!?」と驚愕するしかない。私が覚醒する前にポメリーは……。
(いや、待って。ジョシュの話を聞くに、当時のポメリーはポメリーではないというか。まるで私がすでに覚醒していたような……)
「その約束をした直後、ラウンズベリー伯爵がポメリー嬢のことを探しに来ました。そしてポメリー嬢は伯爵の方へと駆け出し、そこで転んでしまったのです」
これを聞いた私は「まさか!」と思う。
「どうやら転んだ時に頭を打ったようで……。ポメリー嬢は起き上がって僕を見た時、見知らぬ人を見るような顔つきをしていました。まさかその時、僕と交わした約束も忘れてしまいましたか?」
哀しそうに笑うジョシュを見て思う。「やっちまったわ、私!」と。
どうやら私は幼い頃に既に覚醒していた。前世の記憶を取り戻していたのだ。そしてジョシュに出会い、彼がヒロインのお相手であると分かり、身を引こうとした。でもそんな事情を知らないジョシュは私に純粋な気持ちを伝えたのではないか。「君のことが好き!」と。それに対して私は無下にお断りが出来なかった。だからこそ、実現しない未来の約束をした。
ポメリー・アン・ラウンズベリーは、ヒロインである聖女がこの世界に召喚される前に薔薇熱で死亡する。聖女が現れ、ポメリーが生きている未来は存在しない。そんな未来が訪れたら結婚しよう、だなんて!
(なかなかやるわね、当時の私! 完璧お断りプラン!)
しかしその後、転倒し、覚醒していた私はどうやら休眠モードにでもなってしまったようだ。そして余命三カ月前にようやく再び覚醒したと……。
「僕の運命の相手はポメリー嬢だと思って成長しました。二十歳の再会の約束を胸に、あなたに相応しい男になろうと努力をしたんです」
これには心の中で盛大に「ええっ、そうなの!」と驚愕する。もしかして文武両道、容姿端麗、高潔無私と言われ、全て揃った完璧王太子が誕生したのは、ポメリーのおかげなの!?
「二十歳を迎えた舞踏会で、あなたを見かけた時……。もう天にも昇る悦びです。ですが、僕の王太子という身分が邪魔をする。僕が誰であるかと分かると、大勢が集まり……。身動きがままならない中、ポメリー嬢はポメリー嬢で、なぜか様々な令息と楽し気に話している。結局、その日の舞踏会ではあなたに声をかけることは出来ませんでした」
その後も別の舞踏会で私を見かけるが、ジョシュは王太子ゆえに様々な人に囲まれ、私は私でワンナイトラブのために令息に声をかけまくり……。
すれ違いが続き、昨晩。仮面舞踏会により、王太子の身分を伏せることが出来たジョシュは、遂に私に話しかけられると思った。
「そこにあのツェペシュ侯爵が現れ、ポメリー嬢と彼は満更でもない様子。僕としてはすぐさま身分を明かし、ツェペシュ侯爵を追い払いたい気持ちになりましたが、それを堪えて……。我慢した甲斐がありました。ポメリー嬢が困っている場に居合わせることが出来たのですから」
あの時、ジョシュはツェペシュ侯爵の耳元で自分の名を明かした。その名をもってこの場から立ち去ることを命じられたツェペシュ侯爵は一目散に退散したわけだ。
(いくら侯爵でも未来の国王に睨まれたら、たまったものではないわよね)
「これで分かってくれましたか? 僕の初恋はポメリー嬢です。そして昨晩、あなたと結ばれました。もう僕の身と心はポメリー嬢のものです。申し訳ないですが、幼いあなたが言っていた別の女性は……却下します」
ジョシュがきっぱり断言する別の女性、それは……ヒロインのこと!
「えっ、そんな待ってください! そんな、そんなこと……陛下が、国王陛下が許さないのでは……」
「安心してください。父上とはすでに幼い頃に話がついています」
「えっ!?」
何とジョシュは結婚相手だけは自分が決める、それ以外は全て従う。その約束が守られないなら、王太子にはならない。即位するつもりはない──と、父親である国王陛下に対し、宣言したと言うのだ!
幼いジョシュが突然そんなことを言い出したので、国王陛下は大いに驚き、悪魔でも取り憑いているのではないかと思った。そこで国王陛下は神殿にジョシュを連れて行く。すると神殿のトップである大祭司は「殿下は神の啓示を受けたのでしょう。彼は間違いなく立派な大人に育ちます。そして賢王として、民衆を導くでしょう。殿下が国王にならない未来などあってはなりません。陛下、ここは彼の希望を叶えるべきです」と国王陛下に伝えた。
そう言われた国王陛下は数日悩むことになる。しかし最終的にジョシュの提案を受け入れたのだ。
つまりジョシュは自身の伴侶を自由に選ぶことができる。
(何だかとんでもないことになっているわ! でもいくらジョシュが私を好きでいてくれても、薔薇熱にかかる私の未来は変わらない。つまり私は死に、この世界に聖女が召喚され、薔薇熱はなくなり、ジョシュと聖女は結ばれる。その帳尻さえ合えばいいと、この世界は聖女召喚前のジョシュを自由にさせているのかしら……)
私がそんなことを真剣に考えている一方で、ジョシュは既に私を王宮で迎える気が満々のようだ。
「ポメリー嬢。身の回りの必要なものは全て揃えます。もう身一つで来る気持ちで構いません。明日には迎えの馬車を出しますね!」
お読みいただき、ありがとうございます!
ジョシュの根回しの手腕はあっぱれです(笑)
続きは明日のお昼に更新します!
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