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私のために王宮に部屋を用意し、宮廷医から医学院の教授、他国の名医すら招くと言いだしたジョシュ。その意図を父親に問われ、彼はこう答えたのだ。
――「僕はラウンズベリー伯爵令嬢のことが好きなんです。求婚したいと考えています」
こんなことを言われた父親は真剣にジョシュに尋ねる。
「で、殿下! 失礼ながら殿下と我が娘はこれまで接点ゼロです。それに娘が社交界で噂になるようなことも、これまでありませんでした。殿下が娘に求婚したくなる理由が……わたしには全く思い当たらないのです」
父親の指摘はまさにその通り。この世界、社交界で「コラルド公爵令嬢は本当に美人だわ」とか「ヒューゴ子爵令嬢が、ついに婿探しを始めたそうよ」という噂で、令息たちが動くこともある。噂だけで顔を見たこともない相手に求婚することも当たり前なのだ。だが私はそんなふうに噂にのぼったことはない。
「わたしからしたらポメリーは器量も良く、美人で自慢の娘ですが、世間一般では普通かと。それにラウンズベリー伯爵という家門と王家が婚姻関係で結ばれるメリットは、我が家にあっても、王家にはないはず。何より殿下でしたら、隣国の王女とだって結婚できるのです。何も格下伯爵家の令嬢を娶らなくてもいいのではないですか……?」
父親が至極真っ当な疑問を提示した。それに対してジョシュは――。
「そんなことありません」
きっぱり否定。さらに。
「僕はラウンズベリー伯爵令嬢のことを昔から知っていました」
これには「「そうなんですか!?」」と、父親と私の声が揃う。
「ラウンズベリー伯爵は、まだ幼かったラウンズベリー伯爵令嬢を連れ、宮殿へ来たことがありませんか?」
「それは……何度かありますね」
「その時に僕はラウンズベリー伯爵令嬢と会ったのです」
「「えええっ!」」
またも父親と声が揃ってしまう。
(え、そんな子どもの頃にジョシュと会っていたの!?)
確かに宮殿へ行った時の記憶はある。だがいかんせんあまりにも子どもの頃なので、ジョシュに会ったかどうかなんて……覚えていない。
(でもジョシュなら子どもの頃も美少年のはず。会っていたら覚えているでしょう、私)
そう思うがすぐに気づく。
(あ、これは父親の疑問を封じるための嘘ね!)
さらに私はここでようやく気づく。
(ジョシュはやっぱり私を抹殺したいのだわ! でも打ち首になんかしたら、文武両道、容姿端麗、高潔無私と言われ、全て揃った完璧王太子である彼の名が傷つく。ここは私が重い病気ということで身柄を預かり、もしかしたら毒でも盛られて毒死……なのを病死にして、私をこの世界から抹殺するのかもしれない)
私はこの突拍子のないジョシュからの申し出に納得した。だが父親は完全に半信半疑。
「僕は子どもの頃に出会った初恋の相手であるラウンズベリー伯爵令嬢と、昨晩の舞踏会でゆっくり話す機会を得ました。そこで彼女が病に悩んでいることを知ったのです。僕の好意よりも、重要なのは彼女が病だということ。もたもたしている間に病気が進行し、取り返しのつかないことになってしまったら……。伯爵はそれでいいのですか?」
このジョシュの言葉は父親に効果てきめんだった。父親は「娘の命が第一です……!」と唸り私を見る。
「……でも娘に病の兆候など一切見られないのですが」
「そんなことはないはずです。ラウンズベリー伯爵令嬢、昨晩僕に話したこと。伯爵に打ち明けるべきだと思います」
ジョシュのまさかの無茶ぶり!
私は目を白黒させることになる。
(まだ薔薇熱の症状は出ていないのに! そんな、何を話せば……)
だがそこで私の脳がものすごい演算結果をはじき出す。
今、薔薇熱の症状は何も出ていない。だが一カ月後にはその症状が出て、私は死に至る。だったらこれから出る症状を語ればいいのではないか。遅かれ早かれそうなるのだから。
「お父様。実は黙っていましたが、このところずっと熱っぽいのです」
「何!? そうなのか!?」
父親はそう言うと私の額に触れる。
(睡眠不足だと体温調整が上手くいかず、熱っぽく感じると言うけれど、ここは――)
私は昨晩のジョシュとの行為を思い出す。
「なんと! 額が熱い! 本当に熱があるじゃないか、ポメリー! うん? 顔も赤い。首筋も……耳も赤い! 大変だ! ポール! 今すぐ医者を呼べ!」
父親が執事長の名を叫ぶ。
「お、お父様!」
「落ち着いてください、ラウンズベリー伯爵!」
興奮した父親をジョシュと二人で宥めることになった。
◇
父親を何とか宥め、今すぐ医者は呼ばなくても大丈夫だと納得させた。そして私はジョシュと二人、応接室で話すことになる。
「殿下、これは一体どういうことなんですか!?」
「僕としては当然のことをしていると思っているのですが」
これには「何がですか!」と噛みつきそうになり、「そうではない」とクールダウン。
さっきは彼と協力して必死で父親を落ち着かせることになったが、そもそもジョシュは……味方ではない。私を抹殺しようとしているのだから。
「君は病で亡くなることを恐れています」
「それは……」
「僕は君を助けたいだけです。それに実際、宮廷医、医学院の教授、他国の名医を集めたら、君の生存率は格段に上がると思う」
そんなことはない。薔薇熱を治せるのは聖女だけなのだ。
「そんな悲しい顔をしないでください、ポメリー嬢」
何とソファから立ち上がったジョシュは私のそばで片膝を立て跪き、まるで騎士のように手を取る。
「僕が必ずポメリー嬢のことを助けます。僕と一緒に生きましょう」
「殿下……」
そこでヒロインになった気持ちで頷きそうになり、「違う!」と脳内でアラートを出す。
急にポメリーと名前で呼ばれているけど、そんなふうに私を呼んでいる場合じゃない! それに薔薇熱を治せるのは聖女だけなのだから! 私が生きる未来はないのだ!
何よりも彼の真意を確認しないといけない!
「殿下。先にお伝えしておきます。昨晩、お互いに仮面をつけていました。殿下は私が誰であるか分かっていたようですが……。私は分かりませんでした。もしも王太子殿下だと分かっていたら……」
そこで深呼吸をして続ける。
「殿下の純潔を奪うようなことは、しませんでした。あれは事故みたいなもの。そして殿下の純潔を奪ったことは誰にも話しません。それに私はどのみち来月末には生きていないのです。殿下にとって私との昨晩の出来事は人生の汚点かもしれません。ですが私はどうせ消えます。ですから」
そこで言葉が止まったのは、跪いた状態のジョシュが、私の手をぎゅっと握ったからだ。
「ポメリー嬢、待ってください!」
ジョシュは真摯な表情で私を見る。
「人生の汚点……そんなふうには思っていません! それに……純潔を奪ったのは僕の方です。……目覚めたらポメリー嬢の姿がなく、てっきり嫌われたのかと……。経験がない僕ではポメリー嬢は不満だったのではないかと……。申し訳ないことをしたと、心から謝罪の気持ちでいっぱいで……」
「そんなことありません! 殿下との夜は私にとっての一生の宝物です。本当に幸せでした! ちゃんと女性としての悦びを知ることが出来たんです。心から満足しています」
私の言葉を聞いたジョシュは立ち上がる。そしてストンとそのまま私の隣に腰を下ろした。
いきなりジョシュとの距離が縮まり、心臓がドキッとしてしまう。さらに彼の真摯な瞳と目が合い――
紺碧の瞳は宝石のように美しい。
「今の言葉を聞けて本当に良かったです」
「殿下……」
「あとは僕たち二人、病を克服し、幸せになるだけです。僕は本気であなたのことを愛しています。始まりはあんな形でしたが、後悔はありません」
優しいジョシュの言葉に胸が熱くなる。
(てっきりジョシュに抹殺されるのかと思った。だがそんなことはない。彼は私を……)
「殿下は私のことを……」
「ええ、好きですよ。幼い頃、宮殿で出会い、約束したではないですか」
「えっ、約束!? 本当に子どもの頃、出会っているのですか?」
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親子漫才状態ですwww
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