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ティータイムは無事に終わった。みんな、初めて口にする帝国のスイーツを喜び、飲み物を楽しんでくれた。
(ジャムを口に含み、濃いめの紅茶を飲む……これにはみんな驚いていたわね。でも濃い紅茶はこの飲み方が一番美味しいのよ!)
さらに薄く伸ばした生地の中に、たっぷりのリンゴ、レーズン、ナッツなどをくるんで焼いたスイーツ、濃厚なチョコレートケーキも喜ばれた。
(焼き菓子の方は外側がサクッとしているのに、中身はたっぷりのリンゴでジューシーでしっとり。みんな「まぁ、なんて美味しいのかしら!」と感動していたわ。そしてチョコレートケーキ。外側のパリッとしたチョコレート、しっかりしたチョコレートスポンジとアプリコットジャムのハーモニーに「絶品ですわ!」と声を震わせていた。帝国からわざわざパティシエを連れてきた甲斐があったわね!)
何よりも嬉しかったのは、フリードリヒ殿下がこう言ってくれたこと。
「ネル、帝国のスイーツは本当に美味しいですね。お菓子発祥の国と言われるだけあります。このリンゴの焼き菓子は前回訪問時、少し回復した際にいただいてまた食べたいと思っていたのです。今回いただくことができて、とても嬉しかったですよ! そしてこのチョコレートケーキは……。きっとわたしはこれからいつでもこれをいただけるのですよね?」
フリードリヒ殿下が瞳をうるうるさせて尋ねるので、彼を抱きしめたくなりながら、「はい、殿下。いつでもリクエストしてくださいませ。お召し上がりいただけますよ」と微笑むと――。
「ネル……抱きしめたい衝動をわたしがどれだけ堪えているか、分かりますか……」
熱い眼差しで私を見て囁くから……。
ともかくティータイムは終了。その後は婚姻晩餐会のため、ドレスへの着替えとなった。
このドレスでそのまま婚姻舞踏会へ出席となるため、プリシア王家の伝統色であるサファイア・ブルーの生地に、帝国の皇族カラーであるゴールドの刺繍やレースがあしらわれたドレスを選んでいた。左右の指には婚約指輪と結婚指輪。パールの髪飾りとネックレスとイヤリングをつけ、準備が整った。
そこで部屋にフリードリヒ殿下が迎えに来てくれた。
「ネル、素敵な衣装ですね!」
私のドレスを見て、彼はニコニコと微笑む。
「殿下とお揃いですね」
フリードリヒ殿下はサファイア・ブルーのテールコートを着ていたのだ。
「我が王家の伝統色をネルが身に着けていると思うと、胸が高鳴ってしまいます」
そこで頬を赤くするフリードリヒ殿下が愛しくてならない。
(私を見て一喜一憂する彼に、こんなにときめいてしまうなんて!)
「では参りましょうか」
「そうですね!」
フリードリヒ殿下のエスコートで、琥珀の間へと向かう。廊下では大勢の招待客とすれ違うが、みんな私たちを見てため息をついている。聞こえてくる囁き声は──。
「本当にお似合いの二人ですわ!」
「まさに美男美女ね」
「相思相愛が羨ましいわ」
これを聞いたフリードリヒ殿下と私は顔を見合わせてにっこり。
(今、私はひと足先に春を迎えた心境よ。世界が私の幸せを祝ってくれているように思えるわ!)
上々の気分で迎えた婚姻晩餐会では、“あの絶品料理を再び”だった。招待客も口々に「とっても美味しいですわ」「さすが王家! この時期にこれだけのスカンピを出せるなんて! しかも実に旨味があり、最高の味わいだ!」と絶賛している。
「残すは舞踏会のみですね」
デザートをいただきながら、紅茶を飲んでいると、フリードリヒ殿下が耳元でそっと囁く。
「そうですね。ここまでの長丁場は初めてです」
「まだ旅の疲れも取れていないのに、無理をさせてしまい、申し訳ないです……」
「殿下、大丈夫ですよ! 適度に休憩しながら、ですし。それにこれは……一生に一度のこと。幸せです」
私の言葉にフリードリヒ殿下の顔が悦びで蕩けそうになっていた。それを見ると私まで笑顔が溢れる。
こうして婚姻晩餐会も無事、終わりを迎えた。
◇
「では今宵の主役の二人に最初のダンスを披露してもらおう。我が息子フリードリヒ、そして美しい花嫁ネルに」
コンラート国王の言葉に、フリードリヒ殿下と私はホールの中央へと向かう。
(遂に今日の最後の祝賀行事である舞踏会が始まるわ……!)
昨日のリハーサルで何度か彼とダンスをしていた。
(殿下のエスコートは無理がなく、私の負担を減らしつつ、最大限に美しく見えるよう、気を遣ったもの。だから大丈夫。ちゃんと踊れるわ!)
そう分かっていても、ここ一番の場面なので、少し緊張気味。それに気づいたフリードリヒ殿下は……。
まさに始まりのポーズをとると、こんな風に言ってくれる。
「ネル、わたしのことを見てください」
「!」
「周囲の人たちのことは一旦忘れましょう。今、ここにはわたしとネルの二人きり。ダンスを楽しむ。それで大丈夫です」
「分かりましたわ」と頷いた時、曲が始まる。
そこからは夢のような時間だった。フリードリヒ殿下の優しいエスコートでステップを踏みながら、彼と初めて出会った日を思い出す。
わざわざ国境まで迎えに来て、私を盛大に驚かせ、そのために休憩所まで新設してくれた。
(首都から料理人を連れ、婚姻晩餐会の料理を食べさせてくれたわ)
その後の綺麗に紅葉したブナの木を見ながらの散歩では、彼の気持ちを知ることになった。
(同時にお父様が私の幸せをずっと昔から考えてくれていたことにも気がつけたのよ)
そして今日という日を迎えるまで、フリードリヒ殿下は細やかな気遣いを示してくれた。
(限りなく優しい私だけの王子様……。私の運命の相手は間違いなく、フリードリヒ殿下!)
彼を想うと自然と笑顔になっていた。緊張なんてすぐになくなり、心からダンスを楽しんでいた。そして気がつくと、演奏が終わり、割れんばかりの拍手が起きている。
「何とも愛に溢れたダンスだった。フリードリヒ、ネル、素晴らしかったぞ。それでは皆も二人を祝し、存分に楽しんで欲しい」
コンラート国王にも絶賛され、無事大役を務め終えることが出来た。
◇
そこからはいつもの舞踏会と同じで社交・外交を兼ねて大勢とダンスをした。休憩時間になると、フリードリヒ殿下が必ずそばに寄り添ってくれて、いろいろな方を紹介してくれる。
結婚式に参列した招待客に加え、国内の沢山の有力貴族や政府高官や騎士など、幅広い人たちも舞踏会に参加していた。ここで初めましてとなる方も多く、フリードリヒ殿下がサポートしてくれるのは、とても心強かった。
「これで一通り、必要な相手との挨拶は終わったかと思います」
侍女に確認すると、ダンスリストの相手とも全員踊り終えていた。
「まだダンスを続けたければそれでもいいですが、この次に一曲わたしと踊り、退出も出来ます」
フリードリヒ殿下に言われ、想像以上に自分が疲れていることに気づく。
「なるほど。ではお言葉に甘え、もう一度殿下とダンスしたら、失礼させて頂こうと思います!」
「分かりました」
フリードリヒ殿下は侍従長を呼び、その旨を伝え、ダンスタイムが再開となる。
(あと一息よ、ネル。頑張るのよ!)
私とフリードリヒ殿下が再びダンスすると分かると、自然とホールの中央から人々がはけ、最初のダンスの時のように彼と二人きりとなる。
「フリードリヒとネルはこのダンスをもって退出となる。ぜひ二人のダンスを最後まで見守って欲しい」
コンラート国王が退出の流れを作ってくれた。
「では、ネル」
「はい、殿下」
フリードリヒ殿下と向き合い、スタートの姿勢を取ったところで演奏が始まった。
「ネル、疲れているとは思えないほど、軽やかなステップですね」
「それは殿下のリードがお上手だからです!」
もう緊張はなく、いつも通りにダンスを披露できた。
再びの盛大な拍手と共にダンスを終え、ようやく肩から力が抜ける。
「ネル。今日は朝から一日、頑張ってくださり、ありがとうございます」
「それは……ネルだけではなく、殿下もです! 殿下のおかげで最後まで頑張れましたわ」
こんな風にお互いに相手を気遣うことができるなんて……。
(幸せ過ぎてやっぱり涙が出そうだわ)
「それではネル第二王子妃殿下、お部屋へ戻りましょう。湯浴びの準備は整っています」
私が侍女に声をかけられたように、フリードリヒ殿下も従者に声をかけられている。
(ああ、本当にようやく終わりね! ゆっくり湯船につかり、休めるわ!)
そう思った私に侍女が告げる。
「残すは初夜の儀だけですね!」と。
お読みいただき、ありがとうございます!
まだ終わっていなかった……!
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