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(今度は私の番だわ!)
フリードリヒ殿下は既に手袋を外していたので、その手をとる。
「あっ……」
小さく呟いてしまう。
(剣術や乗馬の練習をしていると聞いていたけれど、手はとても綺麗ね……爪の形も整って、リンゴの花のような綺麗なピンク色をしているわ)
見惚れそうになるが、リングを手にとり、その細く長い指にはめる。
(サイズはピッタリ。上手くできたわ!)
思わず笑顔でフリードリヒ殿下を見上げると……。
「ネル……」
初めて敬称なしで名を呼ばれた上に、左右の上腕にフリードリヒ殿下の手が優しく触れたと思ったら……。
ふわりと抱き寄せられ、額に口づけられていた!
その瞬間、パイプオルガンが盛大な音を出し、拍手が起き、鐘の音が鳴り響く――。
◇
結婚式でフリードリヒ殿下が私の額に口づけした瞬間、それは新聞の一面を大きく飾った。どの新聞社も挿絵画家がこの様子を今回の結婚式の象徴として扱い、後追いでこのワンシーンを描いた絵ハガキやプレートも販売されたのだ。
これまで結婚式では誓いの言葉の後、大司教から祝福を贈られ、お終いだった。でもこれ以降、平民の結婚式でさえ、誓いの言葉の後の額へのキスが定番化されていく。
それだけ印象的であり、もしかするとフリードリヒ殿下は……結婚式の慣習を変えたとも言えた!
とにもかくにも無事、結婚式は終わった。
王城へ戻る際はフリードリヒ殿下と一緒にオープン馬車へと乗り込み、沿道に駆けつけた人々に手を振ることになる。
「みんな殿下を見て、笑顔です!」
「違うと思います。ネルを見て感動しているのですよ」
隣に座るフリードリヒ殿下はご機嫌でそう言うと、私の手を握りしめた。既に共に白手袋をつけているが、お互いの体温を感じ……とてつもなく幸せな心地になる。
王城へ戻ると、ガーデン・ウェディング・ランチ。天気も快晴、気候も上々、庭園は秋咲きのローズで満開だった。そこにリボンなどが飾られ、天幕も用意され、テーブルセットが置かれている。
続々と参列者が到着し、フリードリヒ殿下と私はひな壇へ着席。すると昼食開始の合図があるまで、私たちの座るひな壇へ大勢が詰めかける。
みんなからの祝福の言葉を受け取り、和んでいると……。
「それではこれより、ガーデン・ウェディング・ランチを開始します」
国王陛下と王妃殿下、王太子殿下に王女殿下も揃い、華やかなランチの時間がスタートした。
◇
ランチの後は着替えの時間となり、ティータイムまで休憩だった。
「ネル第二王子妃殿下、一度こちらのアフタヌーンティードレスに着替え、カウチで寛がれては?」
「そうね。そうするわ!」
結婚式のためのドレスは、コルセットなどガチガチで姿勢はキープしやすいものの、気も張って疲れてしまう。
さらっと羽織れるドレスに着替え、カウチに寝そべることにした。
「何かお飲み物をご用意しますか?」
「あのドレスだと食事をほとんど取れていないから、軽く摘めるものも欲しいわ。甘いお菓子はティータイムで頂けるから、軽食を用意出来るかしら?」
「かしこまりました!」
侍女が部屋を出ようとしたまさにそのタイミングで、扉がノックされる。
「フリードリヒ殿下から差し入れとなります」
プリシア王国の特産品で知られる生ハム、ナッツとスライスされたチーズ、湯気を立てるぽかぽかスープ。
(まさにティータイム前に、頂きやすいものばかりだわ……!)
フリードリヒ殿下の痒いところに手が届くような気遣いに、涙が出そうになる。
(愛されるって……こんなに幸せなのね……!)
そこでふと思ってしまう。
(今、私とフリードリヒ殿下はまさに相思相愛。もしここに邪魔をするような人物が現れたら……。お父様に報告して消してもらうわ)
元皇女として、皇族のプライドがあるのだ。やられたらやり返す。黙って引き下がるなんてあり得ないこと。お父様もお母様も二人のお兄様も、そうやって政敵を排除している。
(フリードリヒ殿下に触れていいのは私だけ。殿下からの寵愛は私だけのもの。彼の視線を独り占めできるのは……もちろん、私よ!)
この考えを踏まえると、ジョシュア王太子殿下とポメリー嬢の邪魔をした私は……。
(冷静に考えるとよく消されなかったわ。しかも私、やらかしているのに。あの日、あの時、ポメリー嬢は私を責めることはなかった。責めたのは国王で、責められて当然のことを……私はしていた)
たかが侯爵家の令嬢なのに、ポメリー嬢は皇女だった私より、うんと誇り高く思える。
(今なら……今の私なら、ポメリー嬢に伝えられるわ。あの時は「ごめんなさい」って。相思相愛の二人に割って入るのは間違いだったと)
フリードリヒ殿下から届けられたスープを飲みながら、生ハムを摘み、そんなことを考えていると……。
猛烈な眠気に襲われる。
「ネル第二王子妃殿下、髪はまた結い直しますので、少し昼寝をされては?」
「……そうね。少しだけ、いいかしら?」
「もちろんでございます。お時間になったら起こしますので」
「ではちょっと横になるわ」
カウチに置かれたクッションに頭をのせようとすると、侍女は寝室から枕を取って来てくれた。その間に私は口をすすぎ、昼寝の準備を整える。
用意された枕に頭をのせると――。
すぐに眠りに落ちていた。
◇
私が眠っていたのは二十分程度だと侍女は言うが、目覚めるとかなりスッキリしていた。
(まるで数時間眠ったみたいだわ)
起こされてもスッと目覚め、着替えもスムーズに進む。
淡いピンク色のドレスに着替え、喫茶室に向かうと、フリードリヒ殿下が既に到着している!
「殿下、差し入れ、ありがとうございます。とっても美味しくて、体もぽかぽかになり、昼寝してしまいましたわ。でも目覚めたら、元気いっぱいです!」
「それは良かったです。わたしも少し横になったら、この通り、元気を取り戻しました。このティータイムが終わっても婚姻晩餐会、その後の夜通し行われる婚姻舞踏会とまだまだ祝賀が続きますが……頑張れそうですか?」
「はい、大丈夫ですわ、殿下」
「それを聞けて、安心です」
微笑んだフリードリヒ殿下がふわりと私を抱きしめた。これにはドキッとするも、もう名実共に夫婦なのだ。
(大勢の前ではないし、これぐらい、許されるわよね)
チラリと侍女と護衛騎士を見ると、みんな見て見ぬふりをしてくれた。でもすぐに扉がノックされる。
「それではゲストの皆様を中へご案内します」
侍従長の言葉に、フリードリヒ殿下は私から離れながら「ええ、お出迎えをします」と応じた。すると「ではご案内します」と侍従長が合図を送り、両開きの扉が開かれ、次々と招待客が中へ入ってくる。
口々にお祝いの言葉をくれるので、それに応えながら、お出迎えを進めた。
「皆さん、お揃いのようですね」
フリードリヒ殿下の言葉に私は頷く。
(ティータイムのホストは女性が務める─それがこの大陸の伝統。ここは私が主導する必要があるわ)
でもティータイムで主導するのは、帝国でも慣れていること。私は満面の笑みで告げる。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。夜の晩餐会まで時間もありますので、プリシア王国と私の母国のスイーツや軽食をお楽しみくださいませ」
お読みいただき、ありがとうございます!
女帝気質は完全に消えたわけではないですが
かなり成長したネル元皇女。
続きは明日の夜公開予定です!
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