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フリードリヒ殿下はわざわざ私のために、休憩所を新設してくれた。その上で婚姻晩餐会の料理を私が試食できるよう、首都から宮廷料理人をここまで連れてきてくれたのだ。そこで披露されたのは絶品料理の数々。試食した私は……大満足だった。
そう、大満足!
(心身共に満たされたわ。でも……そうではないでしょう、私!)
食事中、ずっと食の話で盛り上がっていた。正直、食べ物以外の話は……していない。
「帝国にもこちらに似た料理がありましてよ」とか「帝国ではキャビアという海の黒い宝石を食べるのですが、今回瓶詰を持参しているので、ぜひ殿下も召し上がってみてくださいませ」などと本当に食の話ばかり。
(もっと大切な話をするはずだったのに!)
「では食事も終わりましたし、良かったらブナの森を散策しませんか? 紅葉した木々を眺め、リスや鳥のさえずりを楽しみましょう」
これを提案された私はかなり前のめりで「散策いたしますわ!」と応じる。
(良かった。これで本来聞きたかったことを尋ねられるわ!)
ドレスのスカートは腰の辺りでリボンを作ることで、歩きやすく調整ができるものだった。パンプスからショートブーツへ履き替え、フリードリヒ殿下のエスコートで森の中を歩き出して気づく。
(ちゃんと小道が整備されているわ。これも……わざわざ私のために? ドレスに落ち葉がつかないよう、気を遣ってくれたのでは……?)
そこに気づいてしまうと、やはり尋ねずにはいられない。
「殿下」
「どうしましたか、ネル皇女殿下?」
「その……どうして殿下はネルのことを、こんなに大切にしてくださるのですか?」
「どうして……そう問われると……」
そこでフリードリヒ殿下は整った横顔を少し赤くして、甘い眼差しで私を見る。
(な、なんて顔をなさっているの!)
私は自分がどう反応していいかが分からず、なんだか怒ったような表情になってしまう。
「わたしは……ネル皇女殿下のことが……好きだからです」
「!」
「好きな方が喜ぶ顔を見たい。わざわざ帝国からわたしの国まで輿入れしてくださるのです。感謝と感動を伝えたい……そう思ったら……。入国がお昼近くになるなら、美味しい料理を楽しんでいただきたいと思いました。それにいち早くわたしたちの婚礼晩餐会の料理を、ネル皇女殿下に味わって欲しいと思い……。どれもこれもネル皇女殿下を好きということから行動した結果です」
照れつつもしっかり言い切ったフリードリヒ殿下に、今度は私が赤面することになる。
「……ご迷惑でしたか?」
「とんでもございません!」
「それは……よかったです!」
ただ嬉しそうに微笑むフリードリヒ殿下は、本音と建前を使い分けているように思えない。
(本当に、本当に。彼は私のことが……)
「好き」ということは十分、分かった。
(でもなぜ? どうして私を好きになったの……? ここはもう一度、問わねばならないわ!)
「殿下、素直なお気持ちを聞かせてくださり、ありがとうございます」
「こちらこそ。でもわたしとしてはサプライズをしたくて、出向いてしまいましたが……。驚いてしまいましたよね。ごめんなさい」
「えっ! そんな謝る必要などございません!」
「そうですか」
カサカサと落ち葉を踏みしめる音に、チチチチッと鳥のさえずりが混ざり合う。
「ネル皇女殿下もわたしを……好きになれそうですか?」
「!」
いきなりストレートに問われ、私は「えっ」「あっ」「えっ」と口をパクパクさせてしまう。
(しっかりなさい、ネル! あなたはフェンブルク帝国の皇女なのよ!)
自分自身に喝を入れ、深呼吸をして、なんとか口を開く。
「……その、殿下と会ったのも、食事をしたのも、話すのも、今日が初めてのこと。その……好きも何も、すべてはこれからだと思っています」
「そう……ですよね」
そこでフリードリヒ殿下がこれまでとは一転、大変寂しそうな表情になってしまう。
(えっ!? 今の回答では納得できないのかしら!?)
「……やはりネル皇女殿下は覚えていないのですね」
「覚えていない……とはなんのことでしょうか?」
「幼い頃、文通しましたよね?」
「えっ」
「わたしと文通していたこと、覚えていませんか?」
これには「文通??」となり、記憶をたどる。
(フリードリヒ殿下の言う“幼い頃”とはいつなのかしら!?)
そこでしばし考え、私はハッとし、それを見たフリードリヒ殿下は「思い出してくれましたか」と、微笑む。
「……その、本当に子供の頃なので、私の中では……遊びの一環だったというか……」
「わたしもそうです。読み書きを覚え、家庭教師から『手紙を書いてみませんか、殿下? もしかしたら返事が届くかもしれませんよ』と言われ……。家庭教師に言われるままに手紙を書いていました。でも本当に返事が届いて……私よりも字が美しく、書かれている内容も……景色が目に浮かぶものだったのです。嬉しくなり、家庭教師に言われてもいないのに返事を書いてしまいました」
「そう……ですよね。しばらく文通を続けることになりましたよね」
そこでフリードリヒ殿下は嬉しそうに「その通りです!」と笑顔になる。
(あれは……一年ぐらい続いたわ。文通だと家庭教師は言わなかったけれど……。文通だったのね。ジョシュア王太子殿下のように実在しない誰かに手紙を書いているのかと思っていた。返事は実はお兄様が書いている……なんて思っていたのに。まさかフリードリヒ殿下だったなんて!)
驚いて彼を見ると、優しい笑顔のまま私を見つめている!
「その後、わたしの婚姻話が浮上した時、父上から教えてもらったのです。手紙の相手がネル皇女殿下だったのだと。わたしとの相性を見るために、文通をさせていたのだと分かりました」
(つまり私のお父様も、フリードリヒ殿下のお父様……コンラート国王殿下も、かなり早い段階で、私たちの婚約を考えていたのね。そして……ちゃんと上手くやっていけるかを考えてくれた)
つまり「お父様は政略結婚に私を利用した!」と考えていたことが、間違いであると気がつく。
(最初から……お父様の言う通りにしておいた方が、正解だったのかしら……?)
さらにフリードリヒ殿下は、こんなことも言う。
「満を持して、ネル皇女殿下に会える、デビュタントが行われる舞踏会で初めてあなたとダンス出来るのを楽しみにしていたのに……わたしは体調を崩し、それも叶いませんでした。ですがお見舞いの手紙をいただき、お薬や体が温まるスープや衣装を届けていただけて……。感動しました。その節は本当にありがとうございます」
フリードリヒ殿下が感動で瞳をウルウルさせて私を見るも、こちらとしては冷や汗になる。
(確かにお父様に言われ、お見舞いの品を差し入れた。しかし薬やスープは「これがいいのでは?」ぐらいしか言っておらず、あとは侍女が手配してくれたもの。手紙は確かに私が書いたけれど、今、どんなことを書いたかも思い出せないわ……)
その時の私は頭の中がジョシュア王太子殿下のことでいっぱいだった。さらに言えば、フリードリヒ殿下とダンスをせずに済んでホッとしていたのだ。
(こんなに喜んでいたなんて……なんだか申し訳ないことをしてしまったわ)
私はしょぼんとしてしまうが、フリードリヒ殿下は……散歩の最中、終始ご機嫌。そして「覚えてくださっていただけでも光栄です。これから少しずつ、わたしを好きになってくれたら嬉しいです」と笑顔を絶やさなかった。
お読みいただき、ありがとうございます~
フリードリヒ殿下、なんだか超いい人そうです……!
続きは明日、夜公開予定です
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