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【商業化決定】やらかしてしまったモブ令嬢です  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中
【応援感謝⭐︎ネル皇女のその後の物語】

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 流れるようなブロンドに、優しいアーチを描く眉、透明感のある碧眼。スッキリとした鼻筋、そして形のいい唇。濃紺の上衣に白いズボン、黒革の乗馬ブーツにフード付きのベージュのマントを羽織ったスラリとした貴公子――フリードリヒ殿下は初対面の私に、最初から惜しみない愛情を示してくれた。


 そして今も――。


「ネル皇女殿下が馬車から降りるのは、わたしが手伝います」


 今回の場合、第二王子の花嫁を迎える代表団の特使が手伝うのが妥当な人選。その場にたとえ花婿である第二王子本人がいたとしても、役割が違う。


(特使は国王の代理でもある。それなのに特使を差し置き、第二王子が動くのは……。それすなわち、国王を差し置くのと同等となってしまうわ)


 とはいえ、ここから首都は遠く、この場にいるのは王族に忠誠を誓っている者ばかりのはず。第二王子が特使の代わりに私を手伝ったとしても……報告しない可能性が高い。記録にも残らないと思う。


「ネル皇女殿下、さぁ、どうぞ」


 フリードリヒ殿下はこぼれそうな笑みで私を見て、白手袋をつけた手を差し出していた。


「ありがとうございます、殿下」


(ここで戸惑うようでは、フェンブルク帝国の皇女の名が廃ってしまうわ!)


 いつだって堂々として、悠然と構えること。慌てない、動揺しない、自信を持つ――そう教えられてきた。


 上品に優雅に……そうしようと思うのだけど、馬車から降りて見える建物に息を呑みそうになる。


(今回のために急遽建てた……本当に……?)


 建物はずっしりとしたレンガ造りで、碧い瓦屋根に立派な煙突もあった。そこからドーナッツ型の煙がぽこぽこと浮かび、パンの焼ける香り、肉の旨みを感じる匂いが漂っている。


 思わずゴクリと唾を呑みそうになるけれど、そこは軽く咳払いで誤魔化す。


「今日も秋晴れでこの通り、過ごしやすい気候です。そしてブナの木が紅葉し、とても美しい景色を楽しめると思います。紅葉を見ながらの昼食はいかがですか、ネル皇女殿下?」


 優しく微笑みながら、フリードリヒ殿下が私をエスコートして歩き出す。私はチラリと周囲の景色を見て「美しいわ……」と小さく呟く。


(白樺とは違うけれど、幹は灰色で、細い枝に広がるレッド、オレンジ、イエロー、ライム色の葉が青空にとてもよく映えているわね……!)


 地面には落葉したオレンジの絨毯。今もハラリ、ハラリと色づいた葉が落ちていく。さらに鳥の鳴き声が聞こえ、リスが忙しそうに動き回っているのも見えている。


「素敵な景色ですね。ぜひ眺めながら昼食を頂きたいですわ」


 私の言葉にフリードリヒ殿下は「喜んで」と応じてくれる。


(なんて想いの込められた笑顔なのかしら……)


 さらにその想いは用意された昼食からも感じることになる。


「これは……」


 驚く私にフリードリヒ殿下は丁寧に説明してくれる。


「こちらは洋ナシと白トリュフのカルパッチョです。スライスした洋ナシにオリーブオイルを一滴、塩はほんの少々、これに白トリュフをたっぷりと。この爽やかな香りを放つのはベルガモットの果実です。蜂蜜をかけていただくと、立派な前菜になります」


 洋ナシは帝国では高級なフルーツ。しかもトリュフはあまり食べたことがなかった。どちらも帝国では収穫できないからだ。


「お口に合うといいのですが、お召し上がりください」


 フリードリヒ殿下に言われ、私はナイフとフォークを手に取る。


「……ありがとうございます。では……」


 洋ナシとトリュフを同時に頬張ると、口の中に香りが広がる。さらに咀嚼すると、洋ナシの甘みがオリーブオイルと少々の塩味の中で、とても際立つ。


「いかがでしょうか」

「おいしゅうございます……!」


 さらにそこでベルガモットの蜂蜜掛けを口に運ぶと……。


(洋ナシとはまったく違う、純粋な甘みにほんのり感じられる酸味と苦みが心地いいわ……)


 前菜を陶酔しながら楽しみ終わると、次に登場したのは……。


「ポルチーニの生クリーム仕立て、白トリュフ添えでございます」


 なんとも食欲をそそる香りと共にスープが登場。


(ポルチーニは帝国でもいただけるもの。でも白トリュフがふりかけられていることで、香りがさらに際立ち、これは……たまらないわ!)


 うっとりする私にフリードリヒ殿下がスープについて教えてくれる。


「生ポルチーニをバターで軽くソテーし、生クリームと白ワインでじっくり煮込んだスープです。白トリュフで香りも楽しめます。どうぞ味わってみてください」


(生ポルチーニ……! 帝国でもお馴染みで、とても美味しいのよね)


 言われるままにスプーンでスープをすくい、口へ運ぶと……。


「風味が……違いますわね!」

「そうですね。ポルチーニに白トリュフが加わることで、鼻に抜ける香りが風味にさえ影響しているように思えます」


 スープは用意されているパンにも合う!なんて素敵なハーモニー!


(パンがスープのおかげで、随分進んでしまったわ。これからメイン料理なのに!)


 そう思ったところで見たこともない料理が運ばれてくる。


「続きましてはアルドリア海より取り寄せました、スカンピのローストでございます」


 テーブルに登場したのは、オリーブオイルとハーブでローストされた、細身のロブスターのような見た目の……スカンピ。


(初めて見る食材だわ。お皿に沢山盛られて美味しそう!)


 ジッとスカンピを見ていると、フリードリヒ殿下が解説してくれる。


「スカンピは、この辺りの国々では近海で手に入る食材です。でも帝国ではあまり見かけないのでは? 小振りですが、とても味わいがありますよ。気に入って頂けると幸いです」

「それは楽しみです……!」


 目の前で湯気を立て、良い匂いが漂う殻が外されているスカンピを頬張ると……。


(柔らかいわ……! 噛み締めるとバターとハーブの旨みがジュワッと溢れてくる)


「お気に召していただけたようですね」

「初めていただきましたが、とっても美味です」

「毎年楽しめますよ」


 微笑むフリードリヒ殿下に自然と私も笑顔になる。


(小ぶりだったから? ペロリと頂けてしまったわ)


 完食したところで登場したのは……。


「赤チコリとゴルゴンゾーラ、牛肉のクリームパスタでございます」

「パスタ!」


(パスタなら帝国でも食べたことがあるわ! でも赤チコリって何かしら?)


 テーブルに置かれたパスタからは、チーズの豊かな香り、クリームの甘い香りが広がる。さらにパスタに絡むのはたっぷりの牛肉と……。


(これが赤チコリ? 赤紫の葉に白い葉脈で、見た目も鮮やかだわ!)


 フォークを手にまじまじとパスタを見ていると、フリードリヒ殿下がニコニコと私を見る。


「砕いたクルミを振りかけているので、食感も楽しめますよ。赤チコリはシャキシャキ、クルミは程よい噛み応え、牛肉は柔らかく、じわっと味わいが広がります」

「食感と味を存分に楽しめそうですね!」

「はい! ぜひ挑戦してみてください!」

「いただきますわ!」


 もう私からも笑顔でフリードリヒ殿下を見てしまう。すると彼も輝くような笑顔になり、「どうぞ」という感じで頷く。


 私はそのままフォークにパスタとクリームを絡ませ、口へ運ぶ。


(あぁ、クリームがなめらかだわ……! そしてゴルゴンゾーラの程よい塩気がたまらない!)


 続けて牛肉を頬張ると、口の中で見事なハーモニーを奏でる。


(これでも十分に美味しいわよ。でもここに赤チコリとクルミを加えたら……)


 赤チコリは程よい苦味があり、濃厚な味わいのアクセントになる。


(大変だわ! これは無限ループでずっと食べ続けてしまう……!)


「どうでしょうか?」

「奇跡の美味しさですわ!」

「それは良かったです! 旬の食材を使ったパスタは毎月王宮に登場するので、これからもいろいろな味わいを楽しめますよ」

「それは……楽しみが増えましたわ!」


(前菜からメインまで。初めての食材、料理で溢れていたわ。……間違いなく、私のためのメニュー!)


「さて。料理は一通り楽しみました。次はデザートですが、こちらは我が国ではポピュラーなマロンケーキ。ですが『プリンセス・ネルのマロンと松の実のケーキ』と、特別仕立てです!」

「まぁ、私の名前を冠してくださるなんて……!」


 そこで登場したのは、マロンクリームの上にマロングラッセがちょこんと乗り、銀色のアラザンとローズの小さな花びらが散りばめられたケーキだった!


(素敵な見た目だわ! アラザンとローズがきっとスペシャルなのね!)


 まずは一緒に出された紅茶で口の中をリセットし、ナイフをケーキに入れると……。


(マロンクリームの下に、ずっしりと何かが詰まっているわ!)


 そこでナイフをそのままザクリといれて、断面を見ると、松の実や干しブドウ、マロンがいっぱい詰まっている。


(これは間違いなく、食べ応えがありそうね!)


 具沢山のフィリングとマロンクリームを共にパクりと口に入れると……。


(あぁ、ローズの香りが鼻に抜け、マロンクリームの甘さに、木の実やドライフルーツが最高に合うわ! それにアラザンの噛み応えもいい感じね!)


「いかがですか?」

「ネルはこのデザートだけで生きていけます!」

「それは……でも我が国には季節ごとにいろいろなデザートがあるのですよ。そちらはいいのですか?」

「ダメです! 食べたいですわ!」

「もちろんですよ」


 フリードリヒ殿下はそこでニッコリ笑顔になり、改めて私にこう伝えた。


「実はこちらは三日後の婚礼晩餐会で提供されるメニューです。文字で見るより、実際に召し上がっていただくのがいいかと思い、宮廷料理人を連れてここまで来ました。そして今日、実際に作ってもらったのですが……。同行させた甲斐があったようですね」


お読みいただき、ありがとうございます!

自分で書いた原稿が飯テロになり

何度変な時間に「パスタ食べたい……」と呟いたことか(笑)

続きは明日のお昼頃公開予定です!

お盆明け、一息ついた時などご自身のご都合に合わせてお楽しみくださいませ~

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