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お茶会の後はそのまま庭園を大使に案内してもらった。庭園に王都の動物園でも見たことがある孔雀が闊歩しており、柵に囲まれ、見下ろすその先に人工池があると思ったら、何とそこにはサイがいるではないですか……!
「これは……ユニコーンの正体と言われるサイですか?」
「その通りです、ジョシュア王太子殿下! そしてこれがサプライズなのですが、このサイは別荘の落成に合わせてドネシアン島から運び込んだものでして、何と妊娠していたのですよ! 一週間ほど前に出産しまして、ほら、ご覧ください」
「ご覧ください」と言われ、よく見ると、池の中の大きな棚岩にいる母親サイの後ろからひょっこり顔を覗かせたのは……。
「お、大きいわ」と私。
「子牛ぐらいはありそうですね」とジョシュ。
「母親のサイと比べたら小さいでしょう?」とウィーン大使。
確かに母親のサイに比べたら小さいが、単体で見ると小さな巨獣にしか見えない。
「ちなみに飼育下での繁殖はほぼ不可能で、親子のサイを捕らえることも困難。何せあの巨体でしょう? 子どものいる母親サイは凶暴性が強く、突進されたらひとたまりもない。よって今、この親子を見られるのは奇跡に近いんですよ。国王陛下と王妃殿下にぜひご覧いただきたかった」
大使の言葉にジョシュは「なるほど」と大きく頷く。
「サイの件は父上にも報告しておきます。バカンスシーズンに入れば、王族も休暇をとれるので……。サイの親子を見たいとなるかもしれません」
「ええ、ぜひ! 陛下によろしくお伝えください」
そんな感じで庭園を見て、南国の植物が多く育てられている温室も案内してもらい、解散となった。この後、大使とその友人を招いての夕食会で、続けて私たちのウェルカムパーティーということでプチ舞踏会も予定されていた。
「お嬢様、ダンスを踊るので、いつものイブニングドレスへお着替えされますか?」
ドネシアン島の民族衣装は特別な下着も不要で、実に楽だった。本当はこのままが良かったが、この衣装でワルツは……絶対に無理ではないと思う。でもリードする側は非常に気を遣うし、歩幅が小さくなり、優雅な回転はまずできない。
(もしかすると民族音楽が奏でられ、「ドネシアン島のダンスに挑戦!」とウィーン大使なら言い出しそうだけど、それでも大半の時間は、通常の舞踏会で踊るダンス曲が奏でられるはず。ここはドレスに着替えるべきよね)
何より、今晩の舞踏会のために、国王陛下と王妃殿下は素敵なドレスを用意してくれているのだ。
「そうね。着替えましょうか」
◇
イブニングドレスは何着か持参していたが、今宵の舞踏会のために選んだのは、アイスブルーの生地のドレス。大きく開いた胸元から背中まで、透けるような素材のフリルがあり、身頃には本物の大小のパールが散りばめられていた。スカートにはたっぷりのチュールが重ねられ、動く度にニュアンスもでる。
パールのネックレス、イヤリング、髪飾りで揃え、お化粧は控えめに。
完璧な身支度を整えたところでジョシュが迎えに来てくれた。
前室に現れたジョシュは自身の瞳に合わせて紺碧色のテールコートを着ている。
(光沢のある生地で、ジョシュがキラキラと輝いているように見える。タイにつけた宝飾品やカフスはパールで、私に合わせてくれているわ!)
さらにいつもサラサラと額に下ろされている前髪は、真ん中分けされており、それだけでいつものジョシュと違う。
(というかさっきまでの民族衣装とのギャップ萌え! 服装でこんなに雰囲気が変わるなんて!)
素敵なジョシュにもう私の頬は緩んでしまうが、ジョシュはジョシュで蕩けそうな表情で私を見ている。
「お茶会での民族衣装姿も素敵でしたが、このドレスもとてもよく似合っています……」
自然な動作で私の腰を抱き寄せ、ジョシュは耳元で甘く囁く。
(ひゃぁ~! この至近距離での甘い囁きはジョシュの必殺技だわ! これをされると、脚から力が抜けてしまう……!)
でもそこで私が床にぺたりと座り込まないで済むのは、ジョシュのその引き締まった腕が、ちゃんと私を支えてくれているから。
「何だかお茶会の名残でしょうか。ポメリー嬢から甘い香りが漂っています」
「殿下……!」
耳元で囁いていた声が少し遠ざかったと思ったら、私は頬に極上の触れ心地を感じた。
(ジョシュが頬にキスをしている~!)
チークキスをしているのかと思いきや、ちゃっかりキスをしているジョシュに、エミリーが気付いているのではとヒヤヒヤ。でもエミリーはテーブルに置かれた扇子をとるため、こちらに背を向けていた。
(でも近衛騎士は……)
チラッと目をやると、近衛騎士は天井の壁画を眺めているように思える。
(……ちゃんと気を遣ってくれたのね)
「ポメリー嬢……」
ジョシュが私の両頬を包み込み、お互いの唇がもうあと数センチで届きそうになっている!
「で、殿下……!」
「僕が目の前にいるのに、よそ見をするなんて……」
(そうでした! ジョシュは二人でイチャイチャしている時によそ見をすると、何かのスイッチが入ってしまうのだったわ!)
そう思いつつも気づく。
(違うわ! 二人きりではないし! これから夕食会からの舞踏会なんですよ、殿下!)
しかしスイッチが入ったジョシュは動きを止めず、さらに唇が近づき――
「!」
キスをされると思って目を思わず閉じてしまったが、唇にはジョシュの清涼感のあるいい香りの息が届くだけ。代わりにジョシュは自身の鼻で私の鼻にすりすりしている。
(なんだか甘える子犬みたい……!)
母性本能をくすぐられ、思わずジョシュを抱きしめようと腕を伸ばすと……。
「殿下、お嬢様、そろそろお時間です!」
エミリーがストップをかけた。
◇
夕食会と舞踏会にはアストリア国からローレンツィア王国に滞在している貴族だけではなく、ドネシアン島の高官も何名か参加していた。彼らは大陸の共通語を流暢に話し、黒のテールコートもビシッと着こなしているが、その黒髪と黒い瞳は元の世界を思い出させ、親近感も湧く。
「そうそう。ご紹介します。こちらドネシアン島の首長のいとこのご子息でライル卿です。ドネシアン島では首長を守る戦士……近衛騎士の副隊長をされていましたが、我が国との友好のために、アストリア国で通訳を兼ねた外交官として今は活躍されています。文武両道でとても優秀な方です」
ウィーン大使が紹介してくれたライル卿は、戦士と分かる立派な胸板をしており、体格もいい。ただ、長身なので、バランスがとれており、前世で言うところの細マッチョに収まっていた。髪色は黒髪に見えるが、光の加減で少し明るいダークブラウンにも見える。
前髪は左分けで、襟足は少し長く、右耳にはルビーとサファイアのピアスをつけていた。大使によるとドネシアン島では戦士は青の宝石のピアス、文官は赤の宝石のピアスをつけるのが伝統らしく、ライル卿はその両方を兼ねているので、二つの宝石のピアスをつけているわけだ。
(整った顔立ちの、黒豹のような戦士ね)
「初めてお目にかかります、ジョシュア王太子殿下、ラウンズベリー侯爵令嬢」
少しハスキーボイスなライル卿がキリッとした表情で挨拶をした。
お読みいただき、ありがとうございます!
新キャラ、ライル卿が登場です~
続きは明日のお昼頃公開予定です
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