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ウィーン大使とのお茶会、案内されたのは庭園。そこには柱があり、白い布が張られ、ラタン製のソファとガラスのテーブルが置かれている。しかも後ろには人工的に引いた川も流れており、日除けも万全で実に涼し気。そしてやはりアジアのリゾートのイメージだ。
そこへ登場したのは私と同じく民族衣装を着用したジョシュ!
(ストンとした衣装を着るとジョシュの脚の長さが際立つわね。しかも布は相当長かっただろうに、こう見ると短い。つまりジョシュの脚がそれだけ長いということ!)
「おおっ、殿下と公爵令嬢、共にドネシアン島の衣装がよくお似合いです!」
そう言うウィーン大使のドネシアン島の民族衣装姿も大変よく似合っていた。
(ロマンスグレーな髪も相まって、何だか首長みたいな貫禄があるわ!)
そんなウィーン大使とラタン製のソファに座ると、南国のフルーツが運ばれてくる。そこへさらに甘い香りを放ちながら、テーブルに置かれたのは……。
「ドライ・ココナッツを使ったマカロンです。この甘い香り、バニラとはまた違い、魅力的では?」
元の世界でココナッツは当たり前のように存在していた。つまり知っている香り。なのだけど! まさかこの世界で再び出会うとは思っていなかったので、私は思わずこくこくと頷いてしまう。
するとウィーン大使は嬉しそうにしながら、ぷるんとしたスイーツを紹介する。
「こちらは見た目はミルクプリンですが、実はココナッツミルクのプリンです。ココナッツの果肉をすり潰し、布で濾して抽出したココナッツミルクで作ったプリン。濃厚な味わいですよ」
(まさかのココナッツミルクプリンまで頂けるなんて……!)
他にも揚げバナナや貴重なパイナップルを使った焼き菓子、マンゴージャムを使ったクッキー、マンゴーの砂糖漬けと、王宮にいてもなかなか食べられない南国フルーツのスイーツが並ぶ。
(元の世界では普通にスーパーでも買えたものが、この世界では激レアだった。特に南国のフルーツは船旅で運ぶのも大変な話で、温室で育てるのも一苦労。それがこんなにたっぷりあるなんて……)
アストリア国が大陸では東南寄りに位置しているからだろう。
「どうやらラウンズベリー侯爵令嬢は南国のフルーツやお菓子に興味がおありのようですね」
「そ、それは……! こんなに甘い香りがしたら、どうしたって心惹かれてしまうかと……!」
「はは! そうですよね。ちなみにアストリア国に行けば、南国の珍しい生き物と王宮の庭園で出会えますよ。例えばまるで人間のように賢いオランウータンとか」
「オランウータン?」
さしものジョシュでもオランウータンは知らないようで首を傾げた。それを見たウィーン大使はオランウータンについて饒舌にジョシュに説明する。
その話を聞いたジョシュは「なるほど。森に住む人……まるで人間のような存在なのですね」と感心していた。一方でオランウータンの説明を終えたウィーン大使は続けて手で帽子を被っているような仕草をしながら、こんなことを言う。
「貴婦人の帽子を飾る極楽鳥も生きた個体がおります!」
「まぁ、そうですのね!」
極楽鳥はローレンツィア王国の貴族たちには大人気。ただし皆が知るのはその羽のみ。どんな鳥なのかまでは……知らない。実物を見たことがある人なんて……いるのかしら?というレベル。
「皆さんご存知の象。その色はグレーですよね? ですが我々がドネシアン島の王族から特別に贈られた象は白い色をしています!」
「「白い象!」」
ジョシュと声が揃うのは、この世界でも珍しいだろうけど、元の世界でも実に希少だったからだ。
「お二人とも、アストリア国に行きたくなりませんか? 我が国としてはいつでもウェルカムですよ」
ニコニコとウィーン大使に言われると「それはぜひに!」と言い掛けてしまうが、ジョシュがそっと私の手に自身の手を重ねる。
私はハッとして口をつぐむ。
ローレンツィア王国とアストリア国は国交断絶とまではなっていないが、友好国という関係でもない。ここでうっかり、未来の王太子妃が「行きます!」なんて答えてしまうと、政治的に大問題になる。
ジョシュはそのことにすぐに気がつき、私を止めてくれていた。そして──
「南国の珍しいフルーツやお菓子、植物や動物も。間もなくローレンツィア王国も手に入れることが可能になります。何せフェンブルク帝国と交易路に関する条約が結ばれましたからね。いくつもの船が東南の島々に向かい、今ごろ帰国の途についているはずです」
ジョシュはそう言うと、隣に座る私の肩を愛しそうに抱き寄せ、耳元で甘く囁く。
「ポメリー嬢がココナッツを気に入っているなら、いくらでも取り寄せましょう」
「……殿下! あ、ありがとうございます……!」
かろうじて返事は出来た。でも耳元での甘い囁きに私は腰砕け状態。もし座っていなかったら、腰から崩れ落ちていたと思う。
「何とも仲睦まじいお二人ですな」
「ええ。ポメリー嬢は私の全てです」
照れることなくジョシュが言い切るので、私はさらに全身の力が抜けてしまう。
「ははは! 王太子殿下がラウンズベリー侯爵令嬢を溺愛しているという噂は……本当のようですね」
「ええ。僕は彼女を溺愛しています」
ジョシュの尊い言葉に「くはっ」と悶絶しそうになるけれど、目の前に大使がいるのだ。それは何とか堪える。
「何とも若いお二人の情熱を垣間見た気分です。……そうそう、ドネシアン島では伝統的に花嫁が初夜を迎える時、湯浴びを終えた体にココナッツオイルを塗り込むのだとか。花嫁からは甘い香りが匂い立ち、新郎はメロメロになってしまうと聞きましたよ」
ウィーン大使の言葉に思わず想像してしまう。ココナッツオイルを全身につけ、まるで自分自身が甘い甘いスイーツになったとする。ジョシュがそんな私を抱きしめ、「ポメリー嬢、我慢できません。今宵、あなたをいただきます」と美味しくいただいてくれたら……。
すっかり引っ込んだと思っていた煩悩がむくむくと目覚めたと思ったが、熱い視線を感じ、顔を上げるとジョシュがその端正な顔を赤らめている。
(……! もしかしてジョシュも私と同じ想像をした!?)
文武両道、容姿端麗、高潔無私と、全て揃った完璧王太子のはずなのに! 恋愛に関しては恐ろしい程、初心!
(でも実践した結果、夜の営みについては初心者とは思えなかった。優しく気遣い、とても大切に抱いてくれて……ではない! とにかくあちらの件はさておき、恋愛については一途に私のことだけを想い続けた結果、そのレベルは1か2かという状態。だからこそ、私と同じような想像をしてその美貌の顔を赤くしているわけで……)
正直、そんなジョシュは……。
(たまらなく魅力的! 今すぐ押し倒して欲しい! なんなら私が……)
鼻息が荒くなりそうになったまさにその時。
「温室でヤシの木を育てていまして。ドネシアン島から招いた専属の庭師がおり、ヤシの木はすくすく成長し、実をつけてくれています。だからこそ、これだけココナッツを使った料理を用意できたのです。勿論、ココナッツオイルもございます。よかったらこの別荘滞在の思い出にココナッツオイルをお二人にプレゼントしましょう」
この言葉に「本当ですか!」と前のめりになるのは何とか堪えた。ジョシュも自主規制(?)で「ありがとうございます、大使。ポメリー嬢も気に入っている貴重なものなので、とても楽しみにしています」と、優雅に上品に微笑んだ。
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ポメリーの煩悩が~www
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