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(馬鹿ップルにはなるまい……そう思うのですが!)
ジョシュは普段は文武両道、容姿端麗、高潔無私と、全て揃った完璧王太子。でも私と一緒にいると……。
「ポメリー嬢、大丈夫ですか? こちらのハッカ飴を舐めると、スーッとして気分の悪さが軽減されますよ」
「そうですね。いただきます」
「無理をせず、僕に寄りかかっていいんですよ」
「よろしいのでしょうか、殿下」
「勿論です! ポメリー嬢は具合が悪いのですから」
「では、失礼して……」
そこで隣に座るジョシュに身を預けると、彼は尻尾があれば盛大にふりまくり、喜びで「くぅ~ん!」と鳴きそうな表情をしている。
尤もらしく振る舞っているけれど、向かいの席に座るエミリーとジョシュの護衛騎士は「お嬢様……!」「殿下……!」と心の中で思っているに違いない。そして元の世界の“馬鹿ップル”という言葉を二人が知っていたら……。絶対心の中で「まさかお嬢様と殿下が馬鹿ップルになってしまうとは」「文武両道、容姿端麗、高潔無私で知られる殿下が、馬鹿ップルになってしまうなんて……!」と盛大に嘆いていそうだ。
でも……。
ジョシュと一緒だから五時間という長旅だって耐えられる。隣に座り、私を優しく抱き寄せ、何かと気遣ってくれるジョシュがいてくれるから……。
もはや開き直り、馬鹿ップル上等!で五時間の旅を終えた。
◇
「ようこそいらっしゃいました、ジョシュア王太子殿下、ラウンズベリー侯爵令嬢!」
国王陛下と仲のいいアストリア国のウィーン大使は、ロマンスグレーのイケオジ! 明るいグレーの麻のスーツをパリッと着こなし、親しみのある笑顔でジョシュと私を迎えてくれる。そのウィーン大使のそばに控える従者はまるで天使のような愛らしい少年。金髪の癖毛にミルク色の肌、半袖半ズボンに白のロングソックスが何ともお坊ちゃんという感じで可愛らしい。
「さあ、中へどうぞ」
ウィーン大使の案内でエントランスホールに入ると、吹き抜けの高さとそこから吊るされている豪華なシャンデリアに迎えられた。ホールの壁には狩猟の記録でもある鹿や熊の剥製、甲冑がずらりと並び、さらに沢山の肖像画、アストリア国の国旗や国内の風光明媚な景色を描いたタペストリーが飾られている。
「なんだかこのホールが博物館みたいで、見所がありますね」
思わず圧倒され、そう呟くとウィーン大使はニコニコと笑顔で応じる。
「ええ、ここは多くの訪問者が最初に足を踏み入れる場所なので、どうだと言わんばかりにいろいろ集めました。あちらにはワイナリーもあり、暖炉のそばでゆったり寛ぎながら一杯やることもできます。ホールのお宝を眺めながら、極上のワインを楽しむなんて、最高だと思いませんか」
どうやらこのエントランスホールからして、大使自慢の造りのようである。
「それでは応接室へご案内いたします」
そして案内された応接室でもジョシュと二人、「これは……!」と息を呑むことになる。通常の応接室は落ち着いた空間で、ソファセットがあり、暖炉と本棚があり、ゆったり寛げるもの。しかしウィーン大使が案内してくれた応接室は、これまた天井が高く、そして部屋の中央になんと小ぶりの噴水があるのだ!
(しかも南国の花……あれはハイビスカスよね!? 噴水に浮かべられているわ……!)
壁際には沢山の観葉植物で、応接室というより、温室にいるような気分だ。しかもソファセットもラタン製で、何だか元の世界のバリ島にでも迷い込んだ心地になる。
「コンニチハー!」
極めつけはそのソファのそばの大きな鳥かごの中の極彩色の羽を持つオウム! キュルキュルと鳴きながら、挨拶をし、「ジョシュア、ハンサム」「ポメリー、ビューティフル」と言ってくれるのだ。
「さあ、お座りになってください」
そこで運ばれてきたのは、フルーツが飾られたトロピカルなジュース。
(ウィーン大使が国王陛下と王妃殿下をこの別荘に招待した理由はよく分かったわ。この別荘、とっても斬新!)
◇
「お嬢様、ベッドが……ベッドが丸いです……!」
「そうね。でもちゃんと天蓋はついているし、形は違えど、眠れるはずよ……」
ビックリ仰天のエミリーになるべく落ち着いた様子でそう伝えているが、内心では驚愕している!
(ここは読んでいた小説の世界で、舞台はなんちゃってヨーロッパ風。それなのにこの別荘には元の世界のバリ島のリゾートホテルにありそうなベッドがあるなんて……!)
驚きはするがちょっと懐かしさもあるし、こんなベッドで寝てみたい気持ちはあった。だからパンプスを脱ぐと、ベッドへダイブしようとしたが……。
「お嬢様、ドレスが乱れます!」
「えー、ダメかしら? この後、大使とのお茶会で着替えをするでしょう?」
「そうですが……」
「エミリーも一緒に、ダイブしましょう!」
「えーっ」
旅というのは何と言うか、人を開放的な気持ちにさせると思う。
ということで気持ちが大きくなった私はエミリーを巻き込み、ベッドへダイブ!
「あ~、気持ちいいわ! それに何だか普段かぐことがない、とってもいい香りがする」
「そうですね。何というか南国のフルーツのような香りがします!」
「そうそう、それだわ!」
エミリーとベッドで仰向けに隣同士に横になり、天井を見ると、シーリングファンがあるではないですか。しかもちゃんとぐるぐる回っている。
(電気もないのにどうなっているのかしら!?)
「お嬢様、あれは何でしょうか」
「あれは……風を送る装置だと思うわ」
そこでベッドから起き上がり、エミリーと二人で確認すると……。テラスを出ると人工的に作られた川があり、水車もある。そこからロープが伸びており、どうやら水車の力を使いファンを回転させているようだ。
「すごいわ。これはウィーン大使が思いついたのかしら? それともアストリア国ではこういったファンが当たり前であるのかしら?」
「今となってはアストリア国の情報があまり入って来ませんが、確かこの国は東南方面の国々との交易が盛んで、現地に王太子が視察にも行ったりしていたはずですよ。応接室やこのお部屋の見慣れない雰囲気は、そちらの国々の影響かもしれませんね。東南にある国々は暑さが厳しいので、このような風を送る装置が誕生したのではないかと」
「なるほど。そうだったのね。王太子妃教育で各国の文化について習うけど、アストリア国についてはさらっとで、そこまで詳しく学ばなかったけれど……。今の話で納得だわ」
東南方面……元の世界で言う東南アジアの国々との交易が盛んなら、このアジアンリゾートの雰囲気に別荘が溢れているのも理解できた。
「というか、お嬢様、お茶会ですよね!? お着替えをしないと!」
「あっ、そうだったわ」
そこで着替えをしようとしたところで、扉がノックされた。応対したエミリーは、その手に木製の平べったい箱を持っている。
「エミリー、それは?」
「良かったらお茶会の席でこちらの衣装をどうぞ、ということでウィーン大使の従者の少年が届けてくれました」
「まあ、そうなのね」
確認してみると、それは元の世界のバリ島で見たことがある民族衣装にそっくり!
(バリを旅行した時、簡易な民族衣装を着せてもらい、記念写真を撮ったけれど……。これは模様やレースや刺繍が本格的だわ。きっと現地の衣装を持ち帰ったに違いない!)
「何だか全体的にストンとして、平べったい感じですね」
エミリーは室内に用意されていたトルソーに早速衣装を着せ、私に見せてくれる。
「これはドレスより着替えが楽そうよ! せっかくだし、着てみるわ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
夏らしい別荘での物語がスタート!
続きは明日の夕方頃公開予定です
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