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「アストリア国の別荘がローレンツィア王国にあるのですか??」
社交シーズンの真っ只中、王都中のどこかで舞踏会や晩餐会が行われ、参加したり、主催者になったりで、皆、忙しい日々を過ごしている。そんなシーズン中ではあるが、日曜日は違う。基本的に家族とのんびり過ごす日なので、舞踏会も晩餐会もない。そして今日は日曜日。国王陛下と王妃殿下、ジョシュと私の四人で夕食が始まっていた。その冒頭で国王陛下がアストリア国の大使の別荘のことを話題に出したのだ。
「うむ。そうなのだよ、ポメリー嬢。アストリア国は我が国の政治犯が王家の遠縁だったということで、亡命を受け入れた。そこから国交こそ断絶していないが、友好国とは言えなくなってしまった。だがアストリア国の大使自身は良い奴で、たまに宮殿へ顔を出し、わしとチェスに興じることもある」
国同士としては距離が出来てしまったが、国王陛下と大使は仲が良い状態が続いていた。そしてその大使が建設を進めていた王都の隣の都市にある湖畔の別荘が完成し、良かったら滞在されませんかと招待状が届いたという。
「休憩時間を含め、馬車で五時間程度の距離。日帰りをしようと思えば出来ない距離ではない。王妃と二人で訪問も考えたが……今は社交シーズンで、友好国の王族や大使もこの王都へ足を運んでいる。わしと王妃が今、王都を離れるわけにはいかぬ。そこで王の名代として、ジョシュアとポメリー嬢で、別荘へ向かうのはどうかと思ったのじゃ」
これを聞いたジョシュの顔には輝くような笑顔が浮かぶ。
「父上、その件、お任せください。ポメリー嬢と共に、しっかりその役目を果たさせていただきます!」
ジョシュが大変前のめりになる理由はよく分かってしまう。
春には王の名代ということで、ヌメール国の王女の結婚式にジョシュは参加している。その際、一カ月も私と離れ離れになり、とても寂しがっていたのだ。今回は私を伴ってのアストリア国の大使の別荘訪問が許された。
(ジョシュが大喜びするのは……当然と言えば、当然よね)
「では大使のウィーン伯爵にそなたたちが訪問することを伝えておこう」
◇
「お嬢様、持参するドレスですが……こちらとこちらとこちらが日中に着る物。夜の舞踏会ではこの三種類でよろしかったでしょうか」
「ええ、それでいいわ。宝飾品は殿下がプレゼントしてくれたものと、王妃殿下から贈られたものは必ず入れて」
「かしこまりました。ドレスに合わせ、パンプスは……」
大使の別荘滞在はたったの三泊四日。
バカンスシーズンに突入し、社交シーズンが終わっていたら、一週間から十日は滞在できたが、今まさに真っ最中なのだ。いろいろ予定もあり、調整した結果、捻出できたのが三泊四日だった。
その短い滞在期間ではあるが、令嬢は一日に何度か着替えをするので持参するドレスが沢山! 普通なら数週間滞在するのかと思う程の荷物を馬車と荷馬車に積み込んで移動することになる。
「大使がバカンスシーズンに合わせて帰国しなければ、もう少しのんびり滞在できましたよね」
「それはそうよね。でも大使は年末年始も帰国せず、この夏だけが年に一度の帰国になるから……仕方ないわよ」
「お嬢様はお優しいです……!」
エミリーとそんなことを話しながら準備を進めていると侍女長が訪ねてきた。どうしたのかと思ったら……。
「国王陛下と王妃殿下が、『大使の別荘訪問にあたり、未来の王太子妃に相応しい身支度品を手配するように』と仰せでしたので、お持ちしました」
エミリーが扉を開けると、次々とドレスを着せられたトルソーが運び込まれ、沢山の箱、宝飾品が入ったジュエリーボックスもその後に続く。
「お嬢様、もしかしたらこれを全部持って行けば事足りそうですよ?」
「そうね……多分、三泊四日分を用意してくださったんだわ」
「お嬢様は殿下だけではなく、国王陛下と王妃殿下からも愛されていますね!」
これについては本当にそう思う。そしてツイていると思わずにはいられない。
前世では嫁姑問題があり、この世界では政略結婚が当たり前で、嫁は跡継ぎを産めばいいと、冷たくあしらわれることもあると聞く。それを思えば、薔薇熱の時しかり、今もしかり。義父と義母には間違いなく可愛がってもらっている。
(それもこれもジョシュが昔から私のことを一途に想い続けていることを、国王陛下も王妃殿下も知っているからで……)
ジョシュの純愛のおかげで今があると言っても過言ではない。
何はともあれ、大使の別荘に持参するものはすべて決まった。後は出発日となる木曜を待つだけだった。
◇
遂に迎えた木曜日。
皆が起き出す頃には移動開始となるため、日の出と共に目覚め、準備開始となった。とはいえ、普段ならまだ寝ている時間。欠伸を噛み殺しながらドレスに着替えているとエミリーは驚きの言葉を告げる。
「殿下は日の出前に目覚めると、乗馬と剣術の練習を終え、今、まさに身支度を整えているようです」
「えっ! そうなの!?」
(まさかそんな早朝……というか夜明け前から活動していたなんて……!)
驚きながら早めの朝食の席に向かうと、朝から目にも眩しいアイスブルーのセットアップを着たジョシュが「ポメリー嬢、おはようございます!」と全力の笑顔で迎えてくれる。
(とても朝から乗馬と剣術の練習を終えた後だとは思えないわ……!)
そしてさすがに通常より二時間も早いので、国王陛下と王妃殿下はダイニングルームに姿を見せない。つまり食事をするのはジョシュと私の二人、あとは給仕のメイドという状況で朝食開始となるが……。
「ポメリー嬢、今回は初の外交です。緊張されていませんか?」
冷製のスープを飲みながら、ジョシュが私に尋ねる。
「緊張……そこまでは。なんだかんだでネル皇女の対応をしたのが私にとっては初外交でもあったので……」
「なるほど。でも今朝は食が進んでいないように思えます」
「!? それは……普段より早い時間なので、まだ胃袋が目覚めていないだけかと。おそらく移動中の休憩で、いろいろ食べることになる気がします」
それを踏まえ、ドライフルーツやナッツ、焼き菓子などを持参するつもりでいた。ちなみにそれらは王妃殿下がわざわざ用意してくれたものだ。
「……そうでしたか。その……どこか具合は悪くないですか?」
「どこも具合は悪くないですよ。ちゃんと殿下の婚約者としてお役目を果たしてみせます」
ここは元気アピールとして、前世のノリで上腕の力こぶを作る動作をすると、ジョシュは頬をポッと赤くし、その紺碧色の瞳を潤ませる。
「殿下、どうされましたか!?」
(もしかしてこの力こぶを作るのは何か性的な意味でもあったのかしら!?)
「可愛らしいです、ポメリー嬢」
単純にデレているだけだった。
「というか殿下、どうしてそんなに私の体調を気遣われるのですか? もう薔薇熱の症状もなく、この通りで健康そのものなんですよ」
するとオムレツを口に運んでいたジョシュは悪戯がバレた幼子のような表情になる。
(な、なんて愛らしい表情。今すぐぎゅっとしたくなるわ……!)
しかし次の言葉で、胸をときめかせている場合ではなくなる。
「……薔薇熱。あの時は……ポメリー嬢が病気ということで、馬車に一緒に乗ることができました。看病という名目で。ですが今回、ポメリー嬢は健康そのもの。別々の馬車で移動することになります……」
そこで捨てられた子犬のような表情になるジョシュを見た瞬間、私はこう言わずにはいられなかった。
「殿下」
「はい」
「私、馬車で五時間も移動するのは初めてのことで、酔ってしまうかもしれません」
「!」
「具合が悪くならないか心配です。……できれば一緒の馬車だと助かるのですが……」
お読みいただき、ありがとうございます!
殿下が可愛すぎてポメリーがメロメロになってしまった件。
続きは明日のお昼頃公開予定です~
ご都合のつくタイミングでお読みくださいね☆彡
そして。
リアクションでの反応、ありがとうございます!
女帝ネル皇女のその後はこれから書くため
完成までポメリーと殿下のお話
全10話程度をお楽しみくださいませ\(✪ᴗ✪)/



















