中
チャルトリスキ公爵令嬢により、ジョシュア王太子殿下とは、その名がジョシュア・フレデリック・ローレンツィアであり、実在するローレンツィア王国の王太子であることを知った私は、侍女に命じることになる。
「ローレンツィア王国の建国祭のプレート、ジョシュア王太子殿下の赤ん坊の頃から現在のものまで、全て集めて頂戴」
「えっ……あっ……はい、かしこまりました、皇女様!」
これまで欲しいと願ったものは全て手に入っている。
(私が願って手に入らないものはないわ!)
私が命じて三日後に侍女の報告第一弾を聞くことになる。
「皇女様、ジョシュア王太子殿下は現在二十歳で、プレートは全部で十九枚発行されています。零歳児の時は、国王陛下と王妃殿下に抱っこされたプレートで、発行枚数もとても多かったようで、すぐに手に入りました。三歳までは、ロイヤルファミリーでのプレートとして発行され、ジョシュア王太子殿下が単独で登場したのが四歳の時。皇女様がお持ちのプレートは五歳の時のものです。四歳の時のプレートは発行枚数も多く、こちらも見つけやすかったのですが……」
そこで侍女は苦渋の表情で実情を伝える。
「六歳の時は王妃殿下のお父君が亡くなられた月と建国祭の時期が重なってしまい、あまり派手に祝祭が行われなかったようで……プレートの発行枚数がそもそも少なかったようです。こちらは鋭意探すようにいたします。また、ジョシュア王太子殿下が成人王族の仲間入りを果たした十八歳の時は、プレートも大量に発行されたそうなのですが、とにかく予約だけで一度ソールドアウトになり、あまりにも『もっと販売して欲しい』との声が上がり、建国祭から三カ月後にもう一度販売されたそうですが、そちらも瞬時に売り切れたようで……。しかも手に入れた者は『家宝にする』と手放すこともないようで、オークションでも滅多に出回ることがないと判明しました」
侍女の報告を聞いた私は冷たい声で告げる。
「そう。でも私、欲しいの」
「皇女様……」
「私はフェンブルク帝国の皇女よ。私が欲しいと思って、手に入らない物があるなんて……あり得ないわよね?」
「はい。皇女様のおっしゃる通りでございます。どんなに時間がかかっても必ず」
「いやよ」
「えっ」
「そんな。何カ月もなんて待てないわ。すぐに欲しいの。私への割り当て金は相当あるわよね? それを使って、とっとと手に入れて」
「……皇女様……。……分かりました。必ず手に入れます」
「それとジョシュア王太子殿下について詳しく知りたいの。情報を集めて頂戴。必要ならお父様に頼んで諜報部の人間を動かしてもらうわ」
「かしこまりました。ジョシュア王太子殿下に関する情報も迅速に集めます」
◇
有能な侍女は有言実行で、それから一週間後、すべてのプレートを揃え、ジョシュア王太子殿下について書かれた新聞記事と諜報部の報告書を私に届けてくれた。
私はプレートの一枚一枚を丹念に眺め、特に十九枚目を目にした時は……。
(ああ、ジョシュア王太子殿下はなんて麗しいのかしら。幼い頃とは比べ物にならないほど、凛々しく成長し、しかも涼やかなのに優し気な目元。引き締まった体躯に甘い微笑み。儀礼用の衣装を身に着けたその姿は既に若き国王にしか見えない。十八枚目もいいけれど、そこからさらに成長し、大人の魅力にあふれるジョシュア王太子殿下は……)
そのプレートを眺めていると、込み上げる想いで胸が熱くなってしまう。
そんな麗しいジョシュア王太子殿下の姿を愛でつつ、封筒に納められた新聞に目をやると、彼が次期国王として国王に代わり様々な行事に参加したり、慈善活動に力を入れていることが判明する。
(素晴らしいわ。未来の国王としても完璧。国民からの人気も高い。まさに文武両道、容姿端麗、高潔無私と、全て揃った完璧王太子……なのに、なぜ婚約者が二十歳にもなっていないのかしら?)
私は間もなく十五歳で、そこでデビュタントを迎える。既に水面下では婚約者候補の話が出ており、遅くとも十七歳までにはお相手が決まるはずだった。皇女や王女に比べ、王太子の婚約は政治的な側面が強く、そう簡単には決まらないのかもしれないが、ジョシュア王太子殿下なら引く手あまたに思えるのに……。
その答えは諜報部の報告で明らかになる。
(ジョシュア王太子殿下は結婚相手だけは自分の意思で決めると宣言しているため、未だに婚約者もいないのね……)
そこで思ってしまう。
(これは……運命なのではないかしら? 私の婚約者はまだ決まっていない。そしてジョシュア王太子殿下にも婚約者はいないのよ。私とジョシュア王太子殿下が結ばれるよう、主が導いてくれているように思えるわ……!)
そこで私はお父様に打ち明けることになる。
(お父様は一日中、皇帝としての責務に追われているわ。唯一リラックスされるのが、夕食を終え、湯浴びをした後よ)
フェンブルク帝国は大陸では北部に位置しており、南方の国々に比べると寒さが厳しい。でも主はフェンブルク帝国を見放していなかった。なぜならフェンブルク帝国の地中からは温かい湯が沸き出るからだ。
皇宮ではその温かい湯を引き込み、皇族専用の浴室は常にそのお湯で満たされていた。男女別の大理石の浴槽は並々と温かい湯で溢れ、お父様はその湯につかると完全に私人へと戻る。
冬の寒さでもあの温かい湯から上がると、体はぽかぽか。すぐに寝間着を着ると汗をかいてしまう。浴室はそのまま休憩室につながっており、そこにはカウチが置かれ、飲み物も用意されており、寛ぐことができるようになっていた。
(お父様はそこで三十分ほど過ごしてから私室へ戻られるけれど、ここにお邪魔しておねだりしたことは全て叶っているわ!)
そこでお父様のお気に入りの葉巻を密かに取り寄せ、それを象牙の装飾があしらわれ、金の金具がついたシガーケースに入れ、休憩室へと向かう。
(いたわ……!)
白のバスローブを着て、カウチに寝そべり、お父様は気持ちよさそうに目を閉じていた。
近衛騎士が待機している場所に侍女を残し、私はお父様のところへ向かう。
「おお、ネル。どうした?」
「お父様にこちらをプレゼントしようと思いまして。宝飾品を届けてくれた商会主がとてもいい品が手に入ったと言っていたので、買い付けたのです。確かこちらはお父様がお好きな銘柄でしたよね?」
私がシガーケースを差し出すと、お父様は「おや、これは嬉しい。ありがとう、ネル」と受け取り、蓋を開ける。
「これは……ネル、高かっただろうに」
「大好きなお父様へのプレゼントですから!」
「そなたは本当にいい娘だ。おいで」
お父様は私をハグすると、カウチのそばに置かれた椅子に座るよう伝える。私はそこにちょこんと腰掛け、お父様のことを甘えるような上目遣いで見て口を開く。
「お父様、ネルは恋をしています」
「!」
「ローレンツィア王国のジョシュア王太子殿下と結婚したいです!」
「待ちなさい、ネル」
お父様は上半身を起こし、カウチに座り直すと、私に告げる。
「ローレンツィア王国のジョシュア王太子……彼だけはダメだ」
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女帝 VS 皇帝……!
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