後編
「準備できましたね」
「ありがとう、エミリー」
夕食に合わせ、濃紺の生地で身頃やスカート全体に控えめな小粒のビジューがちりばめられたドレスに着替えた。時間になったらダイニングルームへ向かおうと、前室のソファに腰を下ろしたところだった。
「お嬢様、殿下がいらっしゃいます!」
侍女に言われ、デジャヴを覚える。
(昼食の時もこんな感じだったわ)
そんなことを思っているとジョシュが部屋にやって来た。昼から一転、光沢のある白のディナージャケットにジョシュは着替えている。
(銀糸で袖や裾に繊細な刺繍があしらわれており、とてもカッコいい!)
「ポメリー嬢、夕食の前に礼拝堂へ行きませんか?」
「礼拝堂、ですか?」
宮殿と王宮の二か所に礼拝堂があり、宮殿の礼拝堂は貴族が利用し、王宮は王族専用だった。
(王族は何か重要な決断をする時や私的な祈りを捧げる時にこの礼拝堂を利用すると聞いているけれど……。どうしたのかしら?)
疑問はあるが、特に断る理由もない。何よりジョシュが行きたいなら私は喜んでついて行くまでだった。
「分かりました。行きましょう!」
ジョシュのエスコートで礼拝堂へ向かうと……。
天井から吊るされたシャンデリアは夜間照明として王族が利用する時に灯される。壁際と祭壇の蝋燭は特別な儀式の時にのみ灯されるはずだが、今はその全てが灯されている。しかも通常は白いユリやアイビーが控えめに飾られているのに、今は真っ白な薔薇がたっぷりと随所に飾られているのだ!
(薔薇のシーズンは春と秋。夏の今、これだけの白い薔薇は……温室のものよね? 礼拝堂にこんなに温室の薔薇を飾るなんて……!)
王族はすごい!と思わず唸りながら、そのまま祭壇まで続く中央の通路を進む。
ここでジョシュが何か祈りを捧げるなら、私は背もたれ付きの長椅子に座り、彼が祈りを終えるのを待つことになる。そう思ったのだけど……。
「ポメリー嬢、このまま一緒に祭壇まで行きましょう」
「え……はい」
なぜ一緒に祭壇に行くのかしら?という疑問は、祭壇が見えた瞬間に吹き飛ぶ。
なぜなら祭壇にはリングピローがあり、そこに透明感の高い泉のように澄んだ水色の宝石をあしらった指輪が一つ、置かれていたのだ!
「ポメリー嬢」
祭壇の前でジョシュと向き合うと、その紺碧の瞳がキラキラと輝いている。
「あなたが碧い宝石が好きと言っていたので、特注で婚約指輪をオーダーしていました。その結果、かつて見たことがない碧い宝石が手に入ったと聞き、それで指輪を作ることにしたのですが……。ようやく完成しました」
ゴールドのリングに二つのダイヤモンド、そして中央に泉のような碧い宝石。
(え、これ……もしかしてパライバトルマリンでは……?)
私は碧い色が好きで、前世にて初ボーナスで自分へのご褒美を買おうと宝石店に足を運び、いろいろと話を聞いた。そこでトルマリンの最高峰が、その希少性の高さと美しさで知られるパライバトルマリンだと教えてもらったのだ!
(すごいわ! 偶然、この世界でこの宝石が発見されるなんて……!)
「王族の婚約は公式発表もされるので、婚約指輪がなくても、その婚約が正当なものであることは明白です。ですがせっかくなので、僕はこの指輪をポメリー嬢に贈りたいと思います。婚約の証として」
「殿下……嬉しいです! ありがとうございます!」
「喜んでいただけて良かったです……! では」
そう言ってジョシュが私の手をとり、まずは甲へとキスをして、そして指に指輪をつけてくれる。
「……綺麗です……!」
「綺麗なのはポメリー嬢の方ですよ」
そう言うとジョシュが私を抱き寄せ、甘いキスをしてくれる。
そしてぎゅっと私を抱きしめると、ジョシュが「……うまくいった……!」と万感の想いの呟きを漏らす。
そこで後からジョシュ本人に聞いたこと。
実はジョシュは婚約指輪を前日の夜に受け取り、私にサプライズで渡そうとしていた。
宝石箱のオルゴール。実は婚約指輪を入れており、私が見つけて驚く……はずが、オルゴールに私が反応してしまった。その結果、楽しくダンスをして終了で、指輪は気づかれずに終わってしまう。
そこでジョシュは私の侍女に頼み、宝石箱から指輪を回収。今度はパイに小さな陶器の王冠を入れる公現祭のガレット・デ・ロワを真似することにした。つまり焼き上げたアーモンドパイに小さな陶器に入れた婚約指輪を忍ばせたのだ。そして「ここ」と決めた場所にその陶器を裏から埋め込み、事前に私の侍女……エミリーと相談し、仕込んだはずだったのだけど……。
どうやら微妙に位置がずれていたようで、私が食べたパイから指輪は出てこない! ジョシュがティータイムで元気がなかったのは、宝石箱のオルゴールに続き、指輪サプライズに失敗してしまったからだ。
最終的にサプライズではあるが、明確なものにした結果が、礼拝堂での婚約指輪だった。
(文武両道、容姿端麗、高潔無私と言われ、全て揃った完璧王太子と言われるジョシュが今日一日、婚約指輪をどう渡すかで右往左往していたなんて……!)
完璧だけど恋愛だけは不器用なジョシュが、私は愛おしくてたまらなかった♡
お読みいただき、ありがとうございます!
サプライズ大成功……にはならず、正攻法で大成功でした☆彡
新たなる番外編は次の週末(25日)から更新しますので
それまでは新作の”俺嫁大好き”の試し読み、よかったらお願いします!
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