前編
「お嬢様、殿下がいらっしゃるそうです」
「えっ!」
間もなく昼食という時間、ジョシュとはその食事の席で会えるのに、わざわざ私の部屋を訪ねてくるという。
(何かしら?)
この世界にはスマホも電話もないので、ちょっと話したいことがあった場合、直接本人がやってくることはそこまで珍しいわけではない。しかも同じ王宮で暮らしているのだから。
(その前提を踏まえたとしても、昼食の前に会いに来るのは、よほど急いでいることがあるのか、もしくは私にだけ話したいことがあるのか)
気になるがもうジョシュがやって来る。すぐに理由は判明するだろう。
ということで明るいピオニー色のドレスの私はドレッサーチェアからソファに移動し、そこにちょこんと腰掛ける。
「ポメリー嬢!」
セレストブルーのセットアップ姿のジョシュがやって来たのだけど、その手には美しい宝石箱を持っている。
透かし彫りと宝石が飾られ、宝石箱自体が宝石みたいに美しかった。
「ポメリー嬢、この宝石箱、オルゴールにもなっているんです!」
「まぁ、そうなんですね」
「王家の宝物庫に納められていたのですが、父上と母上に許可を受け、もらい受けました! ポメリー嬢へのプレゼントです!」
これには「ありがとうございます!」と喜び、受け取ることにする。
この世界では贈り物を受け取る時、それを受け取りたくないと思わない限り、感謝の気持ちと共にいただくもの。前世のような遠慮は不要だった。
ということで受け取った宝石箱を見ると、箱にはゴールドの猫足がついており、箱の下を確認するとオルゴールを奏でるためのネジがついていた。
ネジを回し、蓋を開けると、この世界でポピュラーなダンス曲のメロディが軽やかに流れる。
それを聴いた瞬間、なんだかダンスをしたい気持ちになっている。
「殿下、踊りましょう!」
「えっ、あっ、はいっ!」
慌てた様子のジョシュが愛らしく、私の胸はきゅんきゅんときめく。
オルゴール曲でダンスをするなんて初めてのこと。でも楽しくてならない!
ジョシュも最初こそ当惑していたが、踊り始めるとそこはもうダンス慣れしているだけあり、完璧なリード!
大満足でダンスを終えたところで侍女が「昼食のお時間です」と声をかけてくれる。
「殿下、ありがとうございます! オルゴールのついた宝石箱も、ダンスも楽しかったです!」
私は満面の笑顔だがジョシュは何とも名状し難い表情。
(もしかして午後の執務で何か大変なことがあるのかしら?)
そう思いながらジョシュと共に昼食に向かうことになった。
◇
昼食の後、私は王太子妃教育で、家庭教師から語学と外交会話術を習い、休憩となった。
時間はティータイム、そのまま自室でお茶とスイーツを楽しもうと思っていたら……。
「ポメリー嬢!」
何とジョシュが焼き立てのアーモンドパイをホールで持って来てくれたのだ!
「焼き立てをポメリー嬢と食べたくて……」
「まあ、殿下、ありがとうございます! 昼食前に宝石箱のオルゴールもいただいたのに、ティータイムでは焼き立てのパイまで。ちょうどアールグレイを飲んでいたので、このパイはピッタリですね。殿下、一緒に食べましょう!」
「はい! そうしましょう!」
そこでメイドに頼み、六等分にカットしてもらい、お皿に取り分けてもらう。取り分けたパイを乗せたお皿をメイドがジョシュと私の前に置いてくれたのだけど、彼はこんなことを言い出す。
「六等分のカットは難しいですよね。僕のパイの方が少し大きめに思います。ポメリー嬢は良かったらこちらを召し上がってください!」
そう言うとまだ手を付ける前のアーモンドパイの乗ったお皿を交換してくれる。
「ありがとうございます、殿下」
こうしてパイを食べ始めると……。
「生地は焼き立てサクサク、でも中のフィリングはしっとりで、まだ温かい。とても美味しいです、殿下!」
「それは良かったです……!」
ジョシュは安堵の表情になったが、次の瞬間、今度はとても真剣な顔つきになる。
(どうしたのかしら……? 執務の方で重要書類でも届いていたことを思い出した……とか?)
そんなことを思いながら、パクパクとパイを食べ進める。
(ジョシュがじっと私を見ているわ。しかもずっと真剣な表情のまま)
そこで気がつく。
(私を見ていると思ってしまったけれど、そうではないのかもしれないわ)
何かを思い出している時、宙の一点を睨むようにしているが、実は目の前にあるものは見ているようで見ていない、あの状態だ。
どうしたのかと気になるが、ここはそっとしておくのが一番に思えた。
ということでジョシュのことは気にせず、パイを食べたが……。
「……えっ」
パイを食べ終えた私を見て、ジョシュは驚愕している。
「どうされましたか、殿下……?」
「い、いえ……いや、あの、ポメリー嬢、もうワンピース、いかがですか?」
「え、アーモンドパイをですか?」
「はい。味は気に入りませんでしたか……?」
ジョシュがうるうるの上目遣いで私を見るので、胸がきゅんとなりながら、「パイはとても美味しかったです!」と笑顔で応じる。
「美味しかったのですが、一つでも十分な食べ応えがあり……。夕食の後にまたいただこうかしら?」
「夕食後は別でまた焼き立てを用意します……! では残った分は補佐官にあげても良いでしょうか?」
「ええ、それは勿論です! 補佐官の皆さんも頭を酷使し、お疲れかと思いますから」
「そうですね……」
笑っているのになぜかしょんぼりしているジョシュ。
不思議に思いながらもティータイムは終わった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ジョシュの様子がおかしい!
どうしたのでしょうか……?
続きは明日夕方頃に更新予定です!
【新作】と悪女転生と調整しながら公開します~
その【新作】ですが、本日3話アップ↑↑↑
『もう一度結婚するなら嫁とがいい。
~異世界転生した俺が嫁を好き過ぎる件~』
https://ncode.syosetu.com/n9890mj/
前世で俺は病に苦しむ嫁に何もできなかった。
だがこの世界で、俺は嫁を全力で守る!
これは嫁が大好き過ぎたある男の異世界転生の物語
ハンサムだがチートな能力もない元おっさんが嫁のために大奮闘!
始まりは涙、ラストは笑顔のハッピーエンドをお楽しみください☆彡
俺視点で読むもよし、嫁視点で読むもよし♪
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全10話予定で3話まで公開済です
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