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ジョシュと私が婚約することが決定し、ラウンズベリー伯爵家は侯爵位を与えられた。
少しでも王家と婚姻関係を結ぶに相応しい家格にするためだ。それでも「他国の王女じゃないのか?」「公爵令嬢じゃないのか?」という批判の声は出る。だがそれもほんの一握り。
なぜならアリウムを含んだ新雪糖は既に多くの貴族のマダムが口にしていた。その解毒方法を王太子であるジョシュが発見し、私が身をもって解毒を証明してみせた――と連日、新聞社が報道してくれたのだ。
私は聖女ではないが、新聞の中では“救済の聖女・ラウンズベリー伯爵令嬢、その身を挺して解毒剤の作用を確認する!”と謳われたことで、私に感謝してくれる貴族が続出。結果的にいろいろ言いたい貴族もこの勢いに押され、黙り込むようになる。さらに反現体制派の筆頭だったプルートス公爵を始め、いくつかの家門が潰れたことで、王家を批判する貴族がぐっと減ったことも大きい。
かくして我が家がラウンズベリー侯爵家となって間もなく、ジョシュと私の婚約が内定、そこからはとんとん拍子で婚約が決定したのだ!
(王族との婚約は一年がかりで進むこともざら。それがあのワンナイトからわずか八カ月で決まったのにはいくつか理由がある。ジョシュの強い意志と国王陛下夫妻も認めてくれていたこと。外野の貴族も首を縦に振ってくれたこと。ラウンズベリーという家門は伯爵家ではあったが、歴史と由緒は正しいこと。だからこそスムーズに侯爵位を与えられ、婚約妥当の判断に至ったと思う)
それに私の父親の商会経営の手腕は、この国で一、二を争えるほど。香辛料の輸入、国内では地方領でのワインの生産、さらに先祖代々であちこちに鉱山を所有することで、お金はがっぽり持っていた。
(王太子と婚約するのに必要な持参金もスムーズに用意できたという点も大きい!)
何はともあれ季節は春を迎え、私も人生の春を謳歌できる――と思っていたのだけど……。
◇
間もなく十一時という時間、本来なら公務に追われているはずのジョシュは私の部屋にいた。
「殿下、ダメです! フェンブルク帝国の皇女殿下らの使節団が間もなく到着なんですよ!」
ジョシュと私はソファに座っていた。ローズ色のドレスを着た私を抱きしめる、スカイブルーのセットアップ姿のジョシュは、私の首筋にキスをしながら、甘い我が儘を言う。
「分かっています。ですがポメリー嬢と一カ月も離れ離れだったのです! 甘えさせてください」
「ですが昨日の昼過ぎに帰国されてから、食事の時以外、私の部屋にこもっている状態ですよ……」
「父上も……国王陛下も許してくれています! 本当は父上が行くべきだったのです。ヌメール国は友好国なのですから。ですが先般、ヌメール国の使節団の大使が自身の奥方自慢をして母上をバカにしたとへそを曲げて……。『不敬罪に問わなかったのを褒めて欲しいぐらいだ。それに王女の結婚式なら王が出向くまでもない。お前で十分だ。ジョシュア、王の名代で王女の結婚式に出席して来い。お前が戻るまでにポメリー嬢との婚約は締結しておく』だなんて、父上は横暴です!」
国王陛下夫妻はおしどり夫婦で知られている。とはいえ最愛の王妃殿下をバカにされたと国王陛下がへそを曲げるのは……。
(実際のところ、へそも曲げただろうけど、実は春目前の国王陛下は公務に追われている。冬の間は雪もあり、外交使節団の往来も会議も減っていた。しかし雪解けと共に移動が再開となるのだ。外交使節が再び宮殿へ訪れるので、その対応での謁見。会議も頻繁となり新年度予算、宮廷儀礼、宗教行事が目白押しとなる。王都で対応すべき案件が多いので、ジョシュが名代となり友好国の結婚式に参加するのも仕方ないことだったのよね……)
それでも私とジョシュは婚約目前の蜜月だった。特にジョシュは幼い頃から私を好きだったので、両想いとなり、離れたくない気持ちも強かったから……。
(それでいてワンナイトラブ以降、そちらはお預け状態。若く健全なジョシュからしたら、いろいろ我慢が多くて辛いわよね……)
そんなこんなで私と離れ離れになり、そしてようやく帰国できた。
「ポメリー嬢、何を考えているのですか?」
「え?」
「僕と一緒なのに、余計なことは……考えられないようにします!」
ジョシュが私の顎をくいっと持ち上げ、その潤いのある唇が私の唇に重なった。
◇
「国王陛下、王妃殿下、並びに王太子殿下にご挨拶いたします」
謁見の間に登場したフェンブルク帝国の皇女ネル。銀髪に碧眼で、その姿はまるでエルフのよう。肌も雪のような白さで、それでいて唇は薔薇色。ビスクドールのような人間離れした美少女だった。
その皇女は美しい碧眼を玉座へ向けた。そこには王冠を戴き緋色のマントを羽織った国王陛下が座っている。皇女は国王陛下に微笑みかけ、さらにチラッとロイヤルブルーのドレスを着た王妃殿下を見て、そして──。
白の儀礼用の隊服を着たジョシュを見て皇女の目が輝く。
(これは見慣れた光景。ジョシュのこの姿でこの反応以外を見たことがない)
もしも私が既に結婚していたら彼の隣に立つことができ、皇女もすぐに彼が既婚者と分かり、あんなにジッと見はしないだろう。
(……そんなことはないか。やっぱり隣に嫁がいようが関係なく見てしまうだろう)
それだけジョシュはカッコいいから……。
(って、まだ見ている!)
国王陛下が挨拶の言葉を述べているのに、ネル皇女はジョシュに目が釘付けになっている。
この時点でうっすら嫌な予感がしたのだけど、この後のネル皇女を迎えての昼餐会では、私とジョシュの間にネル皇女が座り、彼女の対面には国王夫妻と宰相、以下重鎮が並ぶ配置だった。
するとネル皇女は正面に座る国王陛下よりも、隣に座るジョシュに頻繁に話しかける。
「ローレンツィア王国についてもっと勉強したいんです! ジョシュア王太子殿下、ぜひ王都を案内してくださいませ!」
「ジョシュア王太子殿下、今晩の舞踏会ではぜひわたくしともダンスをしてくださいね!」
「お兄様のお土産を買いに行く時は、ぜひ殿下にお付き合いいただきたいです!」
婚約者のいる王太子にこんなあからさまなアプローチ、本来は許されない。いくら皇女であろうと、他国の王太子の婚約関係に首を突っ込むのは外交問題になりかねないもの。
でもネル皇女のこの態度が許されてしまうのは……。彼女が十五歳で社交界デビューしたてというところにある。
大人びた美しい見た目だが、まだ十五歳の少女なのだ、ネル皇女は。どこか幼さもあり、ジョシュに甘える様子は妹のように見えてしまうのだ。
そうなるとジョシュも無下にしにくい。しかも相手はローレンツィア王国と友好関係を築きたいと思っている。
その結果ジョシュの返事は……。
「王都の案内ですね。任せてください。僕の婚約者であるポメリー嬢と共に女性でも楽しめる場所へご案内します」
「ダンスですね。父上との最初のダンスの後でしたら、友好国のネル皇女殿下への歓迎の気持ちを込めて、ダンスさせていただきます」
「お土産……分かりました。王都には貴族向けの美味しいスイーツのお店もあります。お土産を見た後はそこで休憩もいいですよね。そういったお店は僕の婚約者のポメリー嬢が詳しいので彼女と一緒にお付き合いします」
ジョシュはダンス以外はしっかり私を同席させる前提なのだけど、それを聞いたネル皇女は幼さ全開で頬を膨らませる。
「えーっ、ネルは王太子殿下と二人きりでデートをしたいのにぃ!」
「あいにくデートは婚約者以外とするつもりはないので」
「そう言わないで殿下! デートしてくださったら、交易路の件、お父様に解放してあげてって、お願いするわ!」
ネル皇女はここが巧みだった。
今、ローレンツィア王国とフェンブルク帝国は海の交易路を巡り、交渉をしていた。そしてネル皇女はその交渉も兼ねた使節団の皇帝の名代として、ローレンツィア王国に滞在しているのだ。
皇帝の名代といっても実務は同行している外交官や補佐官が行う。ネル皇女はまさにお飾りに過ぎないが、皇帝は彼女を猫可愛がりしていると言われている。溺愛する皇女が国外へ出ることを皇帝は許したのだ。今回の交渉を皇帝が真剣に考えている証拠であり、ネル皇女のご機嫌を悪くしたくないという思いもある。
(だからこそ、交易路の件と自身の願望を重ねるのはズルイと思います!)
でもそこは無邪気に幼いふりで押し通そうとするから……。
(もしかしたらこの皇女、なかなかの策士かもしれないわ!)
お読みいただき、ありがとうございます!
番外編、いきなり策士な美少女皇女が登場で、波乱万丈の予感!?
しばしお付き合いいただけると幸いです~
明日も書けたら公開しますので
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