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「クソ野郎、早く家に入れて。私はこんな町で、野垂れ死ぬのはごめんよ」


「……はぁ。仕方がねぇ、入れてやる」


 この対応は正解だったらしい。褒められた態度ではないが、このまま家へ入れてくれるというのならばいいだろう。


「お邪魔します」


 家の中は、昨日見たものよりも酷い有様だった。あれだけ暴れたのだから当然だろう。ノルンははぁっと息を漏らした。


「掃除よ」


「ハァ?」


「掃除しよう、おじさま」


「……勝手にしろ」


 グラウスは、乱暴に玄関の扉を開き、外へ出て行った。


「よし、じゃあ、早速。取りかかろうかな」


 ノルンは袖をまくって、意気揚々と片づけを始めた。そのうち、隣のおばさんが「様子見」といわんばかりに訪ねてきたので、夕食分の材料を分けて貰うことにした。


 夕日が傾いた頃には、テーブルクロスと生け花まで整った素敵な住宅に、夕食の良い香りが漂っている。


 彼が帰ってきたら、エプロン姿の新妻もどきまでいるという待遇だ。


「ふっふっふー」


 このように完璧な少女に抜かりはない。


 一切、手を抜かずに頑張ったのだから、相手をぎゃふんと言わせてやる。ノルンはその様を想像して鼻息を荒くさせた。


 乱暴に玄関の扉が開く音がして、ドシドシと床を軋ませながらおじさんがやってきた。


「……なんだこれは」


「お帰りなさい、あなた」


 可愛らしくそう言ったら、容赦のない鉄拳が飛んできた。顔を打ち抜かれて、ノルンはふらりと体制を崩す。


 おじさんが本気で殴ったらノルンの顎は砕けていただろう。手加減された拳など、痛くも痒くもないと少女は思った。


「お前は俺の妻でも、娘でもない。二度と言うな」


 だが。ノルンはすでに奴隷ではない。家内での二人の関係はウィンウィン、つまり平等なはずである。


「それが……」


「なんだ」


「飯を作ってくれたものに対する態度なの!?」


 おじさんが先に殴ってきたから、躊躇なく魔術を発動させられた。


 ノルンほどの術師ならば相手を捻り潰すのは簡単だが、今回は相手が初犯ということで手加減した。


 おじさんは、すっ飛んで、その衝撃で玄関を突破して、路上の塀に突っ込んでいって、庭の地面を抉り取りながら見えなくなる。

 ぐらいには手加減をしてあげた。


 彼はたくましいから大丈夫。

 もしも、死んでいたらご愁傷様だ。土を掘り上げて墓ぐらいは立ててやろうとノルンは満悦していた。


 「さぁて、食事にしよう」と踵を返した瞬間、背後に殺気。振り返るより先に、腕を掴まれた。


 そのまま引き寄せられ、腹部に鉄拳が刺さる。ブッと口から鮮血が出た。



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