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「ちょっと、待ちなぁ!」


 女の叫び声だった。怯む前に今度は玄関の扉から、中年の女性が飛び込んできた。


 次に現れたのは同じ顔をした若いの男たちであった。彼らは暴れるおじさんを左右から押さえ込む。


 ナイフとフォークを手に呆然とするノルンを中年の女が抱き寄せた。


「ごめんね、もう大丈夫よ」


「は、はぁ……?」


 状況が飲み込めない。

 襲われるならまだしも、意味が分からなさすぎて困るのは、さすがのノルンもはじめてのことだった。




 ノルンを抱き寄せた中年の女は隣に住んでいた。

 自宅へと招き入れてくれた現在、先ほどの事情を聞いている最中である。


「あのおじさんはね、グラウスさんというんだ」


「は……はい」


「彼は、気が狂れているのさ」


「アー、ワカリマス」


 できれば詳細を聞きたくない。

 その願いも虚しく、中年の女はハンカチのような布を手に勝手に語り始めた。


「彼はね、妻と娘が亡くなってから、おかしくなってしまったんだよ」


「……へぇ」


「たまに、どこかの娘を連れてきては、ああして暴れるんだ。この間は、隣家の子が狙われてねぇ」


「……へぇ」


「彼は危害を加えるような男じゃないけど。それでも、お嬢ちゃんに怪我がなくてよかった」


 彼女はハンカチのような布で涙を拭う。

 それから、今度はノルンの事情を聞き出そうとしてきた。


「それで、お嬢ちゃんはどこの子だい。町の子供じゃないだろう?」


「え……あー、えっと」


 正直に旅人と答えても信じては貰えないだろうなと言う考えが浮かんだ。


 何せ、相手からすれば子供の一人旅だ。最悪、家出と捉えられ兼ねない。


「まさかっ!?」


「え」


「あんた、親がいないんだね!?」


 どうして分かった。どんぴしゃな指摘には、さすがのノルンも目を瞬かせるしかない。


「なんてこったいっ」


 今度はなんだ。ノルンは頭を抱える相手へと不安定な視線を送った。


 中年の女はハンカチ布を目元へやって、悲しげな様子を醸し出す。


「これは運命だね」


「えっ?」


「あんた。もうグラウスさんちの子になりな!」


 ――いや。

 それだけは、絶対に嫌だ。


「そんなの嫌です。お断りいたします」


 素直な気持ちを伝えたつもりだったが、悲劇に浸っていた相手には届かなかったようだ。


「今日は泊まっていくといいさ。明日、改めて挨拶に行こう」


「いや、あの……ちょっと待って」



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