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「ああ、天命が消えます。急がねばアアアッ!!」



 狂ったように頭を抱えたら、相手は意外にも慌てた。あわわというような動きで手を振っている。


 こういうところは子供らしい。


「えっと、生まれは知らん。親か、うーん。親父は、暗殺者だった」


 なるほど。

 少年はどうやら父親譲りの職業を受け継いだようである。



「母ちゃんは、娼婦だった」


 それは、親近感を覚える事情だ。ノルンは何度か深く頷いた。


「なるほど。では、ご両親は今どこに?」


 そう問いかけると、彼はけろっとした態度である。


「死んだ」


 ノルンの心は激しく乱された。

 動揺し過ぎて、つい口調がフランクな感じになってしまう。


「なっ、なるほどねっ。えっと、じゃあ。今は誰と暮らしているの?」


「……」


 相手はそこで無言となる。

 これは地雷を踏んだかも知れない。ノルンは息を飲んだ。


「なぁ、占い師」


「はい」


「俺、もう死ぬんだろ。親父も母ちゃんは同じ病気だった。そうだって主から聞かされたんだ。たぶん、俺もそうなんだ」


「ほ、ほう」


 彼の小さな瞳には、深い悲しみの色が窺えた。


「それで? 俺はいつまで、生きられるんだ」





 死にかけの少年が来てから、三日が経った。


 彼は昨日と変わらぬ横暴な態度でダガーナイフの刃先をノルンの方へ向けてきた。


「お客さん。まずは、武器を下ろしてくださいませんか?」


「おい、エセ占い師。俺は、もう騙されねぇぞ」


「おや、気付かれましたか」


「人をおちょくるのもいい加減にしろよ。殺すぞ」


「まぁ、まぁ、落ち着いてくださいよ」


「うるせぇ。くたばれ、クソ女!」


 どうしてこんなガキにクソ扱いされないといけないのか。そう思った瞬間にどうでもよくなった。


 ノルンは占い師の口調を放棄する。


「別に殺してもいいよ」


「は?」


「もー、面倒くさいっ」


「え?」


「いいのよ。私、過去に何度かは死にかけたもの。針山にね、投げられたのよ。何度もね。痛いって叫んでも、やめて、助けてって懇願してもずっと投げられたの」


 過去の悲惨な体験を語ると相手は一瞬、押し黙った。だが、一瞬だけだ。


「下手な嘘をつくな!」


「……本当なのに」


 ノルンは鳥のくちばしみたいに唇を尖らせる。相手は躊躇なく、刃先を横に払おうとした。


 しかし、それは虚しく空を切って、ダガーナイフが地面へ転がり落ちた。


「ぐはっ」


 少年は血反吐を辺りにまき散らした。


 小さな体がゆっくりと地面へ崩れていく。


「……なぁ、おれ、はあとどれ、ぐらい、いきられる、んだ?」


 彼は力なく横たわり、今にも死にそうな状態だった。それなのに必死な顔でノルンへ視線を投げている。


「おしえろ、うら、ない……し」


 相手を見下げていたノルンは、はぁと大きなため息をついた。


「知らないわ」


「……そっ、か」



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